チューニングのためのノウハウが不足し、それに対する解決策もない――そんな状況を問題視していたのは私だけではありませんでした。マイクロソフトはこれを打開するために、CAT(Customer Advisory Team)という、ユーザーに向けたチームを、SQL Server 開発チーム内に結成しました。このチームが開発と連携し、外に出すべきノウハウや技術資料を積極的にスキルトランスファーしていくのが目的です。
先に述べたように、第2世代までのSQL Serverはブラックボックスでした。かといって機能が不足しているわけではなく、開発チームはこっそりと(正確には「自分たちのため」ですが)さまざまな非公開APIや非公開のコマンドを持っていました。それを、CATがユーザーに対してオープンにするよう、ベストプラクティス形式のドキュメント化を進めたのです。これはSQL Serverユーザーにとっては、まさに宝の山のような資料でした。
このチームは2000年ころから活動を始めましたが、2005年4月、彼らは日本にもやってきて、私を含めた日本のチームにスキルトランスファーを行ってくれました。このとき、CATのトム・デビットソン氏と出会いました。SQL Serverを作ったのはジム・グレイやデイブ・キャンベルですが、日本のエンジニアの“育ての親”はトム・デビットソンかもしれません。そのほかにもCATには、元DB2のアーキテクトや、リレーショナルOLAP DWHの権威、元SAPのエンジニアなどが在籍しています。なんでも、CATの一員になるには大変なスキルが必要だとのことで、信頼できるメンバーがそろっています。
トム・デビットソンを初めとする、CATチームの教えの1つに「バランスド・システム」というものがあります。これは、x64に最適化された“第3世代のSQL Server”の内部動作から、最適なハードウェア構成を作りましょうという考え方です。
次回は、CATチームから伝授された、SQL Serverの「バランスド・システム」の作り方について解説しましょう。
熊澤 幸生(くまざわ ゆきお)
技術フェロー特別役員
メインフレーム環境で20年近くデータベース関連のITプロジェクトを数多く経験。また1979年から1983年まで米国に駐在し、データ主導型システム設計を実プロジェクトで学ぶ。1994年、アスキー・ネットワーク・テクノロジー(現、CSK Winテクノロジ)設立に参加し、SQL Server Ver 4.2からSQL Server 2000までシステム構築、教育にかかわってきた。
マイクロソフトMVP Data & Storage SQL Server(2007年4月から)。
2008年7月より、兼務形式で、マイクロソフト?SQL Server 技術顧問に就任中。
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