「スクラム」は、アジャイル開発の手法群の中でも、「チームとしての仕事の進め方」に特化したフレームワークだ。スクラムの知識を応用して、開発チームの日常をちょっとリファクタリングしてみよう。
スクラムでは、「チーム」を重視します。これまでの連載では、下記のことを説明してきました。
●解説記事
スクラムでは、開発チーム内での「上司と部下」の関係や、「コマンド&コントロール(命令・指揮)」を用いたマネジメントは行いません。チームメンバー皆が情報を共有して理解し、チームの方針を決めていきます。
そうはいっても、責任者がいた方が効率的な場合もあります。そこで、スクラムでは2つの異なるリーダー像を定義しています。なお、前提として、スクラムでは従来のリーダー像・マネージャ像を分解し、主な責任はチームに委譲しています。
どちらもチームをサポートする役割ですが、機能は異なります。これから2回に分けて、2つのリーダー像を説明します。今回は「プロダクトオーナー」です。
プロダクトオーナーは、チームが生み出す成果物(プロダクト)の方向性を決める「舵取り役」です。
「オーナー」というと、日本語ではかなり強い権限を持った「所有者」という印象がありますが、スクラムではそれほど強い意味ではなく、「責任者」や「当事者」というぐらいの意味です。
プロダクトオーナーの責務は、「方向性を決めること」です。具体的には、プロダクトバックログを記述し、常に最新の状況に合わせて、プロダクトバックログ内の項目の優先度を変更していきます。
「チームに権限を委譲しているのに、なぜその方向性をチーム自身が決めないの? それじゃ通常のリーダーと変わらないじゃないか?」
この疑問はもっともですが、通常のリーダーとプロダクトオーナーの違いは、「チームとの関係性」にあります。
プロダクトオーナーは、チームに指示しません。あくまで、プロダクトバックログの編集を通じて、チームに情報を渡すだけです。プロダクトバックログに記載されたものがいつまでにできるかは、チーム自身の見積もりと計画によって決まります。
プロダクトオーナーが渡す情報は、例えば以下のようなものがあります。
こうしたことを、プロダクトオーナーが把握し、具体的な機能や作業のリストに落とし込み、プロダクトバックログとしてチームに提示します。
ちょっと難しい概念ですが、感覚的にはサッカーの試合における「ゲームメーカー」に近いと思います。ゲームメーカーの役割を考えてみましょう。
サッカーのチームメンバーは11人です。ゴールキーパー以外の10人の選手には、特定の権限や役職はありません。選手同士で役割を決め、90分間のゲームを運営していきます。
ゲームの状況は常に変化します。自陣のゴール近くでボールを奪われれば得点されれる危機ですし、逆に相手陣地でボールを奪えばチャンスになります。選手たちは、こうした最新の状況を常に確認し、自律的に、素早く方針を決める必要があります。
野球と同じように監督はいるものの、試合中にチームの方針に直接介入する手段はありません。そこで活躍するのが、ゲームメーカーです。
ゲームメーカーに、特別な権限はありません。広い視野を持ち、状況を確認し、瞬時に判断し、適切なタイミングでボールを蹴る能力のある選手が、チームに信認されてゲームメーカーとして振る舞います。
2年連続で欧州最優秀選手に選ばれたリオネル・メッシ(スペイン/バルセロナFC所属)は、たった一度のボールタッチと体の動きだけで、相手チームの選手と味方チームの選手を一度に動かし、状況を一変させる力があります。彼はビジョンを体の動きで表し、それをコンセプトを共有しているチーム全員が認識するからこそ、有機的に動けるのです。
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