第8回 Windows 8の製品エディション構成次世代 新Windows「Windows 8」プレビュー

Windows 8では製品エディションが大幅に整理され、基本版とフルセット版、ARM版の3種類になった。それらの違いについて解説。

» 2012年04月25日 00時00分 公開
[打越浩幸デジタルアドバンテージ]
[Windows 8プレビュー] Windows 8 Consumer Preview ―― 再構築された次世代Windows ―― 
Windows Server Insider

 

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連載目次

本連載では、2012年中にリリースが予定されているWindows 8について、その機能の概要を紹介します。本稿では2012年2月に配布が開始されたConsumer Preview版(ビルド8250)に基づいて執筆しているため、最終的な製品版とは内容が異なることがあることをあらかじめご了承ください。
【2012/08/23】Windows 8は2012年8月にRTM版(製品版)が完成し、すでに正式リリースされています。製品版をベースにした記事は新連載「Windows 8レボリューション」をご覧ください。


4つのエディションで構成されるWindows 8

 2012年4月、以下のWindows 8の開発者ブログ・サイトにて、Windows 8の製品版のエディション構成などが発表された。さらに製品候補版のリリース時期やServer版のWindows 8の名称などについても発表されているので、今回はこれらの内容についてまとめておく。

 まずOSの名称であるが、「Windows 8」がIntelアーキテクチャCPU向けのクライアントOSの正式な名前となっている。そして機能別に3つのエディションが用意されている。さらにARMプロセッサ(タブレットなどのモバイル機器によく採用されているプロセッサの総称)向けに「Windows RT」という製品も用意される。

エディション 用途
Windows 8 Windows 8の下位エディション。Windows 7のWindows Home BasicやHome Premiumに相当。Active Directoryへの参加機能やグループ・ポリシー機能がないなど、一般家庭やActive DirectoryのないSOHO/中小企業向け
Windows 8 Pro Windows 8の全機能が利用できるエディション。企業や上級ユーザー向け。Windows 7のProfessional /Ultimateに相当
Windows 8 Enterprise 企業向けのエディション。Windows 8 Proに企業向けの機能をさらに追加している
Windows RT ARMアーキテクチャのプレインストールPCやタブレットPC向け。Windows RunTimeの略。以前は「Windows 8 WOA(Windows on ARM)」と呼ばれていた
Windows 8のエディション構成
Windows 8の基本的なエディション構成。これ以外に、各国向けにカスタマイズされたエディション(例えばInternet ExplorerやMedia Playerなどがないエディションなど)や、特定のOEM向けエディション(従来のStarterエディションに相当するようなもの)が用意されるかどうかは未定。

 これを見ると分かるように、Windows 7では6種類あったエディションが大幅に整理され、基本的には下位エディションの「Windows 8」と上位エディションの「Windows 8 Pro」の2種類に集約されている(これ以外にさらに企業向けの「Windows 8 Enterprise」がある)。各エディションで利用可能な機能は次の通りである。

機能名 Windows 8 Windows 8 Pro Windows 8 Enterprise Windows RT
アップグレード・パス
Windows 7 Starter/Home Basic/Home Premiumエディションからのアップグレード(Home Basicは日本では未発売)
Windows 7 Professional/Ultimateエディションからのアップグレード
同梱ソフトウェア/互換性
アプリケーション(メール、カレンダー、ピープル、メッセージング、写真、SkyDrive、リーダー、ミュージック、ビデオ)
Microsoft Office(Word、Excel、PowerPoint、OneNote)
Internet Explorer 10
更新されたWindowsエクスプローラ
Windows Media Player
x86/x64のデスクトップ・ソフトウェアのインストール
オンライン・サービスとの連携
Windowsストア(Metroスタイル・アプリケーションのオンライン販売サイト)
Microsoftアカウント(Windows Liveアカウントを使ったユーザー環境管理)
ユーザー・インターフェイス
デスクトップ(Metroスタート画面ではなく、エクスプローラなどが利用できる従来のデスクトップ画面のこと)
スタート画面、セマンティック・ズーム、ライブ・タイル
スナップ
タッチとサムキーボード
洗練されたマルチディスプレイ・サポート
従来機能の強化
Connected Standby(スタンバイ時でもカーネルなど一部コンポーネントが動作したままとなり、アプリケーションの実行や通信などが可能となる機能)
拡張されたタスク・マネージャ(より高機能なタスク・マネージャ)
ストレージ・スペース(ディスクを仮想化する機能)
ISO/VHDファイルのマウント(ISOやVHDファイルをマウントしてアクセスする機能)
クライアントHyper-V(Hyper-V仮想実行環境)
モバイル・ブロードバンド機能
Play To(リモート再生)
管理・運用・障害対策
PCのリセット/リフレッシュ(障害発生時にPCの状態を元へ戻す機能)
ファイル履歴(障害に備えてファイルの履歴をバックアップしておく機能)
セキュリティ
Windows Defender
SmartScreen
Windows Update
ピクチャ・パスワード(写真や絵を使ったパスワード)
デバイス暗号化
BitLocker/BitLocker To Go(デバイス全体を暗号化する機能)
暗号化ファイル・システム
トラスティッド・ブート(信頼できないコードのブート実行を禁止する機能)
企業や上級ユーザー向けの機能
Windows To Go(リムーバブル・デバイス上にWindows 8をインストールして起動する機能)
VHDブート(VHDファイル上にWindows OSをインストールする機能)
リモート・デスクトップ(クライアント機能)
リモート・デスクトップ(ホスト機能)
ドメイン参加機能
グループ・ポリシー
Exchange ActiveSync(Exchange Serverのメールや予定表などをリモートで同期する機能)
言語(言語パック)のオンラインでの切り替え
VPNクライアント
DirectAccess(VPNサーバを使わずに社内PCへアクセスする機能)
BranchCache(リモートのファイルをローカルのネットワーク上にキャッシュする機能)
AppLocker(許可されないアプリケーションの実行を禁止する機能)
VDI機能強化(リモート・デスクトップ経由でUSBデバイスやRemoteFXによる3D描画を利用する機能)
Windows 8 App Deployment(企業内ネットワークを使ってWindows 8のMetroアプリケーションなどを配布する機能)
Windows 8のエディション別機能
この表は前述のBlogサイトからの引用に、Enterpriseエディションの機能を追加して作成している。なお、Windows 8 Enterprise固有の機能については、ソフトウェア・アシュアランス(SA)契約が必要になる可能性がある。

 各エディションの概要は次の通りである。

Windows 8とWindows 8 Pro

 Windows 7では複数あったエディションが大幅に簡素化・整理され、下位のWindows 8と上位のWindows 8 Proの2つに集約されている。Windows 7のHome EditionとProfessional/Ultimateの場合と同様に、サポートされている機能に差があるが、企業ユーザーにとって一番大きな違いはActive Directoryドメインへの参加機能があるかどうかであろう。Active Directoryが整備されたドメイン環境で利用するなら、上位のWindows 8 Proが必要になる。クライアントHyper-VやVHDブート、BitLockerなどの機能が必要な場合も上位のWindows 8 Proが必須となる。

 なおサポートされるアーキテクチャは、従来のWindows 7と同様に32bit版と64bit版の両方が用意されるが、32bit版はこのWindows 8が最後となる予定である。

企業向けのWindows 8 Enterprise

 企業向けのエディションとしてWindows 8 Enterpriseエディションも用意される。これはWindows 8 Proに対して、企業向けの機能をいくつか追加したものだ。追加された機能については、上の表を参照のこと。

 ソフトウェア・アシュアランス(SA)を契約している企業ユーザーに対しては、Windows 8のSAではさらに次のような権利も新しく付与される。

  • Windows To Goの利用権 ―― Windows To Goは、例えば個人所有のコンピュータ・デバイスを仕事に活用するための新しい手段であり、会社のPC環境へより安全にアクセスするための機能を提供するものである。Windows To Go を使うと、SA契約したPCと同じ環境を個人のPCでも実行できる。
  • Windows RTの仮想デスクトップ・アクセス(VDA)権の付与 ―― Windows RT をSAライセンス契約しているPCの「コンパニオン・デバイス(次の項目参照)」として利用すると、Windows RTでは拡張されたVDAの権利を利用できる(データセンターで動作するVDIイメージにアクセスできる)。
  • コンパニオン・デバイス・ライセンス ―― SA契約しているユーザーに対しては、新しくコンパニオン・デバイス・ライセンスが付与される。このライセンスでは、個人で所有している最大4台までのデバイス上でVDIやWindows To Goを使って会社のコンピュータ(のデスクトップ)へアクセスできる。

ARMプロセッサ向けのWindows RT

 ARMアーキテクチャCPU向けのWindows 8は正式名称が「Windows RT」となった。以前は「Windows 8 WOA(Windows on ARM)」と呼ばれていたが、x86/x64アーキテクチャのCPUを使ったPCとはっきり区別するためにこのような名前が付けられたようだ。Windows RTはWindows RunTimeの略であり、これはMetroスタイル・アプリケーションを支える新しいAPIセット(実行環境)の名前であるが(関連記事参照)、これが表すように、ARM版のWindows 8は主にARMアーキテクチャのタブレットPC+Metroアプリケーションという組み合わせで利用されることを想定している。ARM版のWindows 8の概要については以下のサイトを参照のこと(Windows RTについては今後詳しく取り上げる予定)。

 ARMプロセッサは、パフォーマンスはIntel CPUよりも劣るものの、その低消費電力性能や組み込み機器における圧倒的なシェアなどにより非常に広く使われている(関連記事参照)。

 Windows RTはWindows 8のバリエーションの1つであるが、そのアーキテクチャ上、Windows 8とは同じような使われ方をされることはないだろう。なぜならARMプロセッサはx86のバイナリ・コードを実行できないし、Windows RTではx86向けプログラムのエミュレーション機能もサポートされていないからだ(アーキテクチャがまったく異なるしクロック周波数も低いので、エミュレーションするとパフォーマンスが著しく劣るし、消費電力も無駄に増える)。Windows RTで利用できるアプリケーションはWindows RT向けに専用に作られたものにならざるを得ないので、そもそもIntelアーキテクチャのWindows PCの代替とはなり得ない。

 とはいえ、Windows RTでもMetroのスタート画面やMetroアプリケーションのほか、デスクトップ画面やWindowsエクスプローラ、Internet Explorer、メモ帳などといった、もともと(32bit版の)Windows 8に入っているようなアプリケーションがプレインストールされるようなので、Windows PCに慣れているユーザーなら同じように使えるだろう。アプリケーションの少なさを補うためかWindows RTでは次期Officeアプリケーションもあらかじめ用意されることになっている(Officeアプリケーションはx86/x64版では標準付属しない。これらのWindows 8では従来のように別途インストールすることになる)。

 だが先の表を見ると分かるように、実はWindows RTにはドメイン参加機能やグループ・ポリシーによる制御といった、企業向けの機能が欠けている。そのため、Windows 8のタブレットPCとして使うというよりは、iPadやAndroidのタブレット端末のような使い方が想定される。実際に製品として出荷される場合は端末ベンダによって細かくカスタマイズされ(Windows RT OSだけ単体で販売されることはない)、例えば電子ブック・リーダーのような専用端末として販売されることになるだろう。

サーバ版の名称はWindows Server 2012に

 以上クライアント版のWindows 8のエディションに関して簡単に解説したが、サーバ版のWindows 8についてはその正式名称が「Windows Server 2012」に決定したと発表された。Windows Server 2012のエディションや機能などについては未定であり、今後分かり次第取り上げる。

次期Preview Releaseは2012年6月公開予定

 Windows 8のConsumer Preview版は2012年2月に公開されたが、次の重要なマイルストーンとして、「Release Preview 版」が2012年6月の第1週に公開されることが、Windows Developer Daysイベントで発表された。これは従来の「RC(Release Candidate)版」にあたるものであり、最終的な製品の持つ機能がほぼすべて確認できることになる。順調に開発が進めば年内に製品が発売される予定である。

Windows 8 Release Preview版の公開時期が発表される
2012年4月24〜25日に行われたWindows 8の開発者向けイベント「Windows Developer Days」で、米MicrosoftのWindows & Windows Live担当プレジデントのスティーブン・シノフスキー氏は、Windows 8 Release Preview版(従来のRC版)の公開時期を発表した。2012年6月の第1週(6/1と6/2の2日しかない)に公開予定とのこと。順調に開発が進めば、この後RTM版を経て年内にはWindows 8製品版が発売される。


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