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» 2012年11月29日 00時00分 公開

営業同行で「話が違う!」とならないためにITエンジニアの市場価値を高める「営業力」(4)(2/2 ページ)

[森川滋之,ITブレークスルー]
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「状況の確認」――顧客の課題認識が最重要

 最も重要なのに一番中途半端だと感じるのが、「状況の確認」カテゴリの項目の確認です。具体的には「過去の経緯」「顧客情報」「顧客の課題認識」「営業上の課題認識」「それぞれの思い」です。

 私がユーザー企業側のITコンサルタントに従事していたとき、こういうことがありました。

 常駐しているITエンジニアに「貴社の営業部長に来てほしいんだけど……」と打診しました。当然、用件も伝えました。「今度、大きな法改正があるんで、貴社に保守してもらっているシステムも大きく改造しないといけない。それなのに、いまだに提案がないんですよね。ちょっと心配していると伝えてください」と。

 営業部長は翌日すっ飛んできました。そのITエンジニアも同席していました。ところが営業部長には、「ちょっと心配している」ということしか伝わっていなかったのです。こちらが「法改正の件なんだけど……」と口火を切ったら、「え、そんな改正があるんですか?」と聞き返される始末(この法改正は新聞にも載ったレベルの話なので、別の意味でも問題でしたが)。

 ここまでくると論外ですが、これに近いことは意外と頻繁にあるのです。

 ITエンジニアが営業に同行し、既存のお客さまを初めて訪問する場合、「過去の経緯」と「顧客情報」を確認しておくのは当然のことと思います。なのに、営業とお客さまが過去の経緯を話していると、「へえー、そんなことがあったんですか」などというITエンジニアがたくさんいます。また、お客さまのWebサイトがあっても見ていないITエンジニアもいます。お客さまの立場から見ると、かなり失礼な話です。

 「状況の確認」カテゴリの中で最も重要なのは、「顧客の課題認識」です。先ほどの法改正絡みの例では、まさにこれができていませんでした。きちっと聞かない営業も問題がありますが、聞かれなくても話さないITエンジニアにも問題があります。

 「お客さまの課題が認識されていない」というのは、お客さまが一番腹立たしく思う部分なので、しっかり共有しましょう。

顧客の状況だけでなく、自社の状況の確認も必要

 ITエンジニアと営業がしっくりこない理由は大きく2つあります。1つは今まで述べたような情報共有の不足。もう1つは思いの共有の不足。

 思いを共有するために必要なのが、「営業上の課題認識」と「それぞれの思い」の確認です。

 「営業上の課題認識」とは、お客さまにはちょっと失礼な自社都合の話です。

 例えば、営業部門と開発部門がそれぞれ異なる売上目標を持たされている場合があります。営業部門はこの段階では1000万円の売り上げが欲しい。それに対して開発部門は1500万円欲しい。こういうずれがあると、客先でする話も微妙に食い違ってきます。双方必死です。でも、お客さまの都合とはまったく関係ない。こういうずれをお客さまに見せてしまうのは、大変失礼なことです。従って、事前によく擦り合わせておかないといけません。

 「それぞれの思い」は、お客さまに対して失礼というような内容ではありませんが、やはりお客さまには関係のないことです。具体的な例でお話ししましょう。

 あなたがSEマネージャだとします。販売管理のシステムを開発するチームを担当しています。販売管理はどの会社にもある業務ですが、業界ごとに特徴があります。あなたは、ある業界のシステムをいくつか開発した結果、かなり特殊な商習慣があることが分かったため、業界に特化してパッケージ化したらニーズがあるのではないかと思い始めています。そんなとき営業があなたのチームに、販売管理システムの新規の開発案件を持ってきました。ただし業界は、現在担当しているものとは異なります。

 ここであなたには2つの選択肢があります。1つは、今担当している業界だけでなく、別の業界の販売管理も知り、業界ごとにテンプレートで対応できるようなパッケージにできないか考えてみようという選択肢。もう1つは、選択と集中が特に初期段階では重要なので、やはり今担当している業界に特化しようという選択肢。

 どちらも可能性があります。ケースバイケースでベターな選択肢が変わるような話です。ただ、どちらにしようか迷っている場合も、また現在の担当業界に特化すると決めている場合も、お客さまの前では歯切れの悪いことしか言えなくなってしまいます。

 こういう事情がもしあるなら、事前に営業ときちっと擦り合わせておくべきでしょう。営業もあなたが真剣に考えているなら、いろいろとアイデアを出してくれるはずです。まずは営業と合意してから、お客さまを訪問すべきです。

「目的の確認」――訪問のゴールを明確に

 次に、「目的の確認」カテゴリの項目を見ていきましょう。具体的には「今回のゴール」「ヒアリング内容」です。

 営業はまだ張り切って話をしているのに、ITエンジニアはもう帰りたがっている。こんな雰囲気を感じたら、お客さまは不信感を抱くでしょう。

 そんなことを防ぐために必要なのが「今回のゴール」の確認です。これについては営業の考えを優先すべきでしょう。彼らには一通りの営業のストーリーがあるはずで、それを尊重することが、営業との連携を強め、あなたの市場価値を高めることにつながるからです(営業との連携がITエンジニアの市場価値を高める理由については第3回「『あいつに頼もう!』エンジニアと営業の理想的な関係」に詳しく書きました)。

 営業だって忙しい。「今回のゴール」に達したら、訪問を切り上げて次に行きたいと思っているはずです。まだ話が続くのであれば、それはゴールに達していないからでしょう。しかし事前にゴールを確認していなければ、ITエンジニアには単なる無駄話に聞こえるかもしれません。逆に、本当に営業の無駄話が多い場合、ゴールを決めておくことで防止することができます。

 「ヒアリング内容」についても、大まかでいいのでまとめてから客先に臨みましょう。最初に「今回はこういうことを伺いたい」と断ってから始めるのとそうでないのとでは、訪問の効率が大きく違います。

 ヒアリング内容は、6W2H(いつ・どこで・誰が・誰に・何を・なぜ・どのように・どれぐらいの数量で)の観点で考えると出てきやすくなり、漏れもなくなります。

 これもユーザー企業のITコンサルタントとして打ち合わせに同席した経験からいうと、事前にヒアリング内容をまとめてくる会社は本当に少ない。これだけでも他社と差別化できます。

「方法の確認」――どちらがツッコミ役? 資料の確認も怠らずに

 最後に「方法の確認」カテゴリの「役割分担」「資料確認」です。

 「役割分担」は、こんなイメージです。

 一般的に、営業は話が上手で、ITエンジニアは口下手だという概念があるようですが、実際にはそんなことはありません。優秀な営業には口下手な人が多いと感じますし、マネージャクラスのITエンジニアには(多くの顧客と折衝を重ねてきているため)話が上手な人がいます。

 漫才でいえば、ボケは営業、ツッコミはITエンジニアと思われがちですが、逆にした方がいい場合も多いわけです。話の流れを主導するのがボケ、状況に応じて軌道修正するのがツッコミとなります。ボケとツッコミは決まっていた方がお客さまに安心感を与えられますので、それぞれのキャラクターに応じて決めておくといいでしょう。

 ネタは「目的の確認」で見た「ヒアリング内容」です。そしてオチが「今回のゴール」。

 優秀な営業はよく、落語を参考にするといいます。ITエンジニアの営業同行においては漫才が参考になります。重要なのは「間」です。これらの芸能を鑑賞する機会があれば、間の部分をよく見るようにしてみてください。

 持参する資料の内容レビューなどの「資料確認」については、いうまでもないでしょう。しかし、失敗も多い。

 私も何回も重要な資料のレビューを怠ったり、持ち忘れをしたりしたことがあります。営業もITエンジニアのどちらも、相手が持ってくるだろうと思っていたこともあります。資料の部数も重要な確認事項です。打ち合わせ場所にプロジェクターがないのに、ノートPCだけ持って行って失敗したこともあります。極端に誤字・脱字が嫌いなお客さまもいます。

 注意して、し過ぎることはありません。また、1人では見落としたり忘れたりしがちなことも、2人以上の目で見ると忘れないものです。

違いは細かいところにある

 お客さまを訪問する際に、営業としておくべき事前打ち合わせのポイントについてお話ししました。

 「面倒だな」と思う内容もあったかもしれません。しかし、事前打ち合わせ一つで、十分他社と差別化できるのです。

 差別化というのは市場価値の源泉です。違いのないところに価値は生まれません。

 今どき、商品やサービスで差別化するのは難しい。今回お話ししたような細かいところがいかにきちっとしているかが、差別化につながっていくのです。

 「凡事徹底」という言葉があります。エクセレント・カンパニーといわれるような企業は本当に徹底しています。「凡事徹底」であなたの市場価値を高めていきましょう。

筆者紹介

ITブレークスルー代表

森川滋之

1963年生まれ。1987年、東洋情報システム(現TIS)に入社。同社に17年半勤務した後、システム営業を経験。2005年独立し、ユーザー企業側のITコンサルタントを歴任。現在はIT企業を中心にプロモーションのための文章を執筆するかたわら、自分の価値を高める「自分軸」の発見支援にも従事している。

著書は『SEのための価値ある「仕事の設計」学』、『奇跡の営業所』など。日経SYSTEMSなどIT系雑誌への寄稿多数。

ライターとしてのサイト

自分軸発見支援のサイト



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