マイクロソフトが「デバイス&サービスカンパニー」になったとき、Windowsアプリケーション開発者にはどんな利益があるだろうか。iOS向けアプリケーションとは違うアプローチでのビジネスの芽を探る。
台湾で開かれる国際展示会「COMPUTEX」の開催に先駆け、米マイクロソフト コーポレートバイスプレジデント兼チーフエバンジェリスト Developer & Platform Evangelism担当 スティーブ グッゲンハイマー氏が来日、日本の報道関係者向けに、あらめて同社の「デバイス&サービスカンパニー」としての開発者向けの取り組みを説明した。グッゲンハイマー氏はもともとマイクロソフトの中でもOEM事業で活動していた人物だ。
「今回はハードウェアではなくサービスやプラットフォームについての理解を深めていただくべく会見の場を設けた」(グッゲンハイマー氏)
サーバ/クライアント、パブリックorプライベートクラウド/マルチデバイスなどの多様化するデバイスとアプリケーションの関係について、グッゲンハイマー氏は「Windowsプラットフォームであれば共通のコアで展開できる強みがある。iOS向けアプリケーションを開発したとしてもMac Book Air向けにはUIを含めて別途開発する必要があり、Appleが提供するプラットフォームはこの点で開発者にとって煩雑だ」としている。
これに対してWindowsプラットフォームであれば、同じ開発環境でWebアプリケーションもローカルクライアントも、ストアアプリも開発でき、かつ、OSアーキテクチャが共通であることから開発そのものも容易になるというのが、同氏の見解だ。「クラウド上の最小構成で始めるスタートアップ系のアプリケーションであっても、サーバ/クライアント形式のアプリケーションであっても、同じコアを使って同じように多様な展開に発展させられる」(グッゲンハイマー氏)
マイクロソフトでは、アプリケーション開発者にこうしたマイクロソフトプラットフォームの利点を知らしめるべく、米国では技術者向けイベント「TechEd 2013」を現在開催中だ。今月末には、次世代アプリケーション開発をテーマとした「Build」も開催、ハッカソンなども行われる。
とはいえ、iOS向けアプリケーション開発者が爆発的に増加した背景には、コンシューマ向けデバイスとしてiPhoneやiPod touchといったデバイスが普及したことが大きい。現段階では、有償アプリケーション提供者側からするとユーザー母数が大きいマーケットプレイスであるAppStoreでの展開が魅力的だ。Windowsストアアプリなり、Azureベースの開発環境なりが普及するためには、どうしても、これらアーキテクチャに乗るデバイスの普及が必須である。
カギとなるのは、Windows 8ベースのデバイスが今後どこまで普及するかだ。マイクロソフトでは日本では未展開のWindows Phoneや直近で発表があったXboxといったデバイスも提供しているが、やはりWindows OSの今までの主戦場はオフィス用途での導入であった。
大手企業ではWindows XPからWindows 7への移行プロジェクトが完了したばかりで、次のリプレイス計画の策定はまだこれからというところも少なくないと聞く。こうした企業では、現行のWindows 8よりも、もう間もなくリリースがアナウンスされる予定のWindows 8.1(あるいはそれ以降のバージョン)に注目しているケースが少なくないのではないだろうか。ユーザビリティ上の懸案であった「スタート」ボタン表示の問題も解消され、Windows 8である種「追いてけぼり」になっていたユーザーの期待に応えられれば、この点で大きな変化が生まれる可能性がある。
先のマイクロソフト・アクセンチュアら3社による会見で、アクセンチュア マネイジング・ディレクター モビリティサービスグループ統括 清水新氏は以下のようにコメントしていた(関連記事)。
「いままでは、企業向けのタブレット端末展開ではAndroid端末については利便性、セキュリティの面で課題があることから、iPad端末の実質的なひとり勝ちであった。そのiPad端末についてもソーシャルサービスなどのコミュニケーションには強いが、企業利用で必要となる基幹業務系システムとの接続には問題が少なくなかった。Windows 8端末の登場はまさに“真打ち登場”」
Android OSに関しては、企業利用の観点では、アプリケーションのセキュリティ面での懸念を払しょくするには至っていない。一方、マイクロソフト陣営が提供するOSおよびデバイスではActive Directoryとの連携が可能で、かつクラウド環境「Windows Azure」上でもActive Directoryサービスの提供を開始している。また、Appleが実施しているのと同様に「ストア」経由で安全面の担保が可能なアプリケーション配布方式を持っている。Windows OSそものもがマルウェアなどの最大の攻撃対象であることは否めないが、少なくとも企業利用において懸念される管理面の問題や一定水準の安全性は期待できるだろう。
直近で発表があったIntelの新しいCPU「Haswel」に盛り込まれる省電力フレームワーク「Power Optimizer」はWindows 8以降のOSでその効力を発揮する。Haswellには、Power Optimizer以外の省電力機構も実装されているが、Haswell版UltrabookとWindows 8の組み合わせは、より長時間の利用に耐える低消費電力を突き詰めた実装になることが期待されている。非デスクワークユーザーが求める稼働時間を提供できれば、今後の展開は非常に面白くなるだろう。
グッゲンハイマー氏は、「今年のクリスマス商戦まではWindows 8.1の無償リリースを推進する」と語っていたが、コンシューマ向けのクリスマス商戦よりもエンタープライズ用途での導入推進がそれを追い越す可能性に期待したい。
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