国内クラウド市場規模予測は、IDCジャパンなど、さまざまな調査機関が手掛けており、いずれも華々しい成長を予測している。クラウドは旧来のICTサービスに価格破壊を伴っている以上、全体としてのICTサービス市場規模を縮小させながらも、従来型オンプレミスシステムからクラウドへの置き換えを促進することは間違いない。
IDCが2013年10月に発表した「国内パブリッククラウドサービス市場予測」の数字を信じるならば、2013年末時点での国内パブリッククラウド市場規模はいまだ1321億円にとどまり、プライベートクラウド市場規模も4627億円に過ぎない。同じくIDCの調査では、国内IT市場規模は13兆8288億円、通信を含めたICT市場規模は25兆1890億円としている。
つまり、パブリックとプライベートの両クラウド市場規模を単純合計しても5948億円であり、IT市場規模の4.3%、ICT市場規模の2.4%にすぎない。2017年には、単純合計したクラウド市場規模が1兆7505億円に達するとみられているが、その間、IT/ICT市場規模が横ばいで推移したとしても、IT市場規模の12.7%、ICT市場規模の6.9%を占めるようになるにすぎない。
こうした国内のトレンドは、クラウドを利用するユーザー企業の意識調査にも表れている。クラウド利用者の意識調査を継続的に行っている調査は数が少ない。ここでは国内において、ほぼ同じ質問構成で2010年から2012年までの3年間継続して調査されている、総務省による通信利用動向調査の数字を紹介したい。
通信利用動向調査は、「世帯及び企業における情報通信サービスの利用状況」を平成2年から毎年継続的に調査(企業調査は平成5年から)しており、クラウドに関する設問は平成22年度(2010年)から導入されている。
まずクラウドの受容性については、2010年時点では利用意向を含めても36.1%にとどまっており、「クラウドはよく分からない」との回答が25.9%を占めていた。これが2012年には、「利用中/利用意向」を含めたクラウド受容派が48.6%と2分の1に迫り、「よく分からない」とした回答が16.7%と大幅に減少している。クラウドについての理解が、この3年間で格段に進んだことが見て取れる。他方、「利用予定なし」とした拒否派は、2010年の38%から34.6%と微減にとどまり、根強い拒絶感情を持った層が一定比率、存在することが浮き彫りになっている。
続いて、2012年時点でも34.6%が残る、クラウド拒否派の否定理由を見てみよう。図7を見ると、セキュリティ不安、ネットワーク安定性、通信費用などの他、アプリケーションカスタマイズ、改修コストといった問題が挙げられている。コンプライアンスについてはAWSなど業界上位の事業者を念頭に置くと、これまでの導入事例から、金融機関などコンピュータシステムの安全対策基準(FISC基準)ですらクラウドは満足し得ることが既に判明している。
唯一、ビッグデータに含まれるパーソナルデータの取り扱いの問題など、法制度に未整備な部分がある点は否めないが、この問題はクラウドに限った話ではない。この調査結果で最も厄介な否定理由は、「判断できない」と「必要がない」の2つだろう。
筆者は、「判断できない」という回答の根底には、ICT利用戦略に対する意識不足が隠れていると見ている。実際、米Gartnerが2013年3月に発表した「CIO調査」を見ると、IT戦略の優先順位として、日本のCIOが重視している項目は抽象的で、コスト削減と社内の非IT部門との調整に腐心している内向きな姿勢が垣間見える。
一方、世界のCIOが重視している項目は事業実行のための実装であり、ICTサービスの普及が生み出す機会を最大限に活用して事業効率を改善する具体的な施策に注目していることが分かる。
さらに、同調査の「ビジネス戦略についての優先度」(図9)においては、日本と世界の違いはより明確に見えてくる。Gartnerの「CIO調査」を素直に読むなら、どうやら日本のCIOは自社の既存事業を「衰退市場」に位置付けているようだ。新商品や新サービス、新しい市場や地域への拡大、イノベーション促進といったキーワードがそれを物語っている。
ひるがえって世界のCIOはどうだろう? 企業成長を加速するために現行事業のオペレーション効率化で成果を挙げ、その手段としてIT人材を確保し、さらに自社のシステム改善に取り組んでいる他、アナリティクスとビッグデータを利用してさらなる成長を実現しようとしている。世界のCIOが取り組んでいるのは成長・成熟市場での戦略立案と実行だといえるだろう。
2011年版とデータが古くて恐縮だが、経済産業省がJUAS(日本情報システム・ユーザー協会)の「企業IT動向調査」を全文公開している(図10)。このデータを見ると、1社当たりの平均開発費と保守運用費の予実がある程度垣間見える。
筆者が知る限り、これでも保守運用比率は低い方だと考える。自社の既存事業が衰退市場においてフォールトラインに達する前に、テクノロジー導入サイクルでの試行錯誤を繰り返し、キャズムを乗り越えようとしているのであるならば、運用保守費支出が開発費を予算、執行率の双方で上回っている現状の打破が、まず必要なのではないだろうか。
一方、「必要がない」という断固とした否定はいっそ清々しいと感じる。全体の34.6%を占める「利用予定なし」とした層のうち、42.3%がこの回答を選んでいる点から、全体の14.4%がクラウドを「必要なし」と考えていると捉えてよいだろう。こうした人々と組織にとって、クラウドは他に選択肢がなくなるまで本当に必要ないのかもしれない。
断固とした利用否定派はひとまず置いておくにしても、クラウド利用のすそ野を広げ、利用に対して漠然とした不安を感じている層に向けては、クラウドを利用した簡便なデータ分析機能や意思決定支援手段などの提供も必要だろう。
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