IaaSプロバイダーにとっては、TISの自律型ハイブリッドクラウド・プラットフォーム計画のように、あらゆる物理設備・仮想機能を動的に制御することを目指すSoftware Defined Infrastructure(SDI)コンセプトの具体化に向けて注視すべきポイントが山積みだ。
例えば、NISTなどが進めるクラウドタクソノミの整備、BlueLockのRaaSなどアルゴリズムによってインフラストラクチャの状態を動的に制御するサービスの出現、さらにはISO/IEC27017やISO27036といったセキュリティ、サプライチェーンモデルの標準化などが、今後のIaaSの在り方に大きな潮流を作り出しつつある。
こうした一連の取り組みの進展に合わせて、徐々にSDIは姿を現してくるだろう。SDIはデザインパターン的な静的な構造化によってサービスを実現していた従来のIaaSに対し、適応的エージェントとして振る舞うモジュール群の相互作用を利用した動的なモデルによって表現されるだろう。こうした大きな変化の過程で断続的に生じるギャップを埋め、利用者のリスクを軽減することによってクラウドブローカーの価値が発揮される。これらさまざまなサービスが有機的に結び付き、クラウドエコシステムが成長していく過程では、クラウドオーディターによるチェック機能の充実も欠かせない。
このようなクラウドエコシステムの充実が、IaaSのみならず、クラウド全般のガバナンス水準向上に寄与し、MBaaS(Mobile Backend as a Service)やMNO(Mobile Network Operator)を介してあらゆるモノをインターネットに接続するIoT(Internet of Things)を加えた「Fog Computing」の時代に向かう土壌を醸成するだろう。
既に、IaaSに限らずクラウドに関わるさまざまなサービス利用の進展によって、大規模な利用者は数千〜数万に及ぶ仮想マシンなどのインスタンスの状況を一瞬で把握する必要に迫られている。「Chef」などによる自動化も進んでいるが、人間がシステムの状況認識と判断を素早く行うためには思い切った抽象化も必要になるだろう。その点、Ciscoが提唱する「Interactive Visual Orchestration」や、Tableauが提供する視覚化された情報分析サービスの考え方を応用したUX改善は開発・運用の姿を進化させるものとなろう。
前述したクラウドを拒否する14.4%を除く85.6%の人々にとって、クラウド利用は他人事ではない。まして本稿のような記事を最後まで読んでしまったあなたにとっては喫緊の課題に違いない。
今後、企業は希少な人材資源を節約することで、新商品や新サービス開発、ビジネスソリューションの実装にリソースを回すことを、より積極的に考えることが求められよう。そのための具体策として、クラウドブローカー的なサービスも含め、IaaSが提供する豊富な資源をどのように使うか、各プロバイダーのサービスをさまざまな角度から検討してみてはいかがだろうか。本稿が少しでも読者のお役に立つなら幸いだ。
川田大輔(かわだ だいすけ)
外資系ITベンダー数社を経てITベンチャー創業に参画。取締役CTOを務めた後、コンテンツ事業会社に移り技術戦略を担当。事業開発、技術開発および技術投資業務を経験。2009年より電気通信事業者(旧区分一種)に勤務し、SOAに対応しNIST定義準拠したOSSクラウドアーキテクチャ開発に取り組み、2011年5月に技術公開。他に個人としてガバナンス観点からクラウドアーキテクチャを整理しメトリクス整備を目指す「atoll project」を主宰。
※本稿での記述内容は個人の見解であり、その責任は全て筆者個人に帰するもので、所属する組織を代表する意見ではありません。
市場環境変化が速い現在、多くの企業がインフラを迅速・柔軟に利用できるIaaS利用に乗り出している。AWSをはじめIaaSプロバイダも多数出そろい、それぞれ特徴のあるサービスが提供されている。ただ近年はオープンクラウドの進展などを受けて、IaaS構成設計の自由度がさらに高まりつつある。これを受けて、企業のIaaSに対するニーズも次第に変容しつつあるようだ。では今、IaaS市場はどのような状況にあるのだろうか? 今あらためてサービス群を俯瞰し、IaaSトレンドと企業が注目すべきポイントを占う。
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