現在、市場にはさまざまなIaaSが存在しており、それぞれに特徴や強みを持っている。例えばマイクロソフトの「Windows Azure」は、特にWindows環境との親和性の高さに定評がある。IBMが2013年7月に買収した「SoftLayer」は、各国のデータセンターを専用ネットワークで結ぶことで、複数のデータセンターを1つのデータセンターのように扱えたり、物理サーバーを仮想サーバー同様に管理できたりする利便性を武器に、日本においても次第に知名度が上がりつつある。
国内に目を転じれば、先のT.E.O.Sや、NTTコミュニケーションズの「Cloudn」、IIJの「IIJ GIO」など、NISTのプライベートクラウド定義を高いレベルで満たし、海外勢にも劣らぬ内容・質を持つサービスが、国内のみならず海外でもユーザーを増やしつつある。前述の判断基準と自社の目的を基にこうした市場を俯瞰すれば、さまざまな選択肢が浮かび上がってくるはずだ。
ただ内藤氏は、その選択肢の多さを受けて、「これらのサービスを適切に選び、使い分けられるだけの目利きの能力も今後は一層重要になってくるだろう」と指摘する。
「事実、弊社も含めた多くのSIerが、ユーザーに適切なクラウドサービスを選択し、目的にかなう形でそれらを組み合わせて提案するコンサルティングサービスを提供している。こうした状況がさらに一歩進むと、業務に適したインフラを、プライベートクラウド、パブリッククラウドをまたいで自動的に選び、組み合わせる『クラウドブローカーサービス』のようなものも現れてくるはずだ」
そうしたシステムの研究開発は既に始まっており、TISでも経済産業省の平成25年度「産業技術実用化開発事業費補助金」に採択された「自律型ハイブリッドクラウドプラットフォーム」の技術開発プロジェクトを立ち上げているという。今後、SDNの活用によって個別のプライベートクラウドやパブリッククラウドの垣根を超えたネットワーク設計が可能になると見込まれている。これを生かし、目的に最適な形で複数のクラウド環境にシステムリソースを自律的に配置する技術の実現を狙う。ここには確かに「クラウドブローカー」的な要素が盛り込まれており、クラウドの将来像が透けて見える。
「こうしたプロジェクトはまだ将来的な話だが、いずれにせよ目的が起点となることは変わらない。現時点ではシステムをクラウドに全面移行することはまだ現実的ではなく、クラウドとオンプレミスのハイブリッド運用が中心になっていくと目されている以上、対立軸で考えるのではなく、オンプレミスとクラウドの使い分けと、シームレスな連携を考えることが重要だ」
その際、最も重要なのは、「クラウド選択・活用をITシステムの話としてではなく、経営問題として捉えること」と内藤氏は強調する。クラウド利用はあくまで手段であり、システム運用負担を減らす、ビジネス展開のスピード・柔軟性を高めるといったメリットを手に入れることが目的であるためだ。初期コストの低さに目を奪われ、その後のビジネスとシステム運用をイメージしておかなければ、かえって高くついてしまう可能性は十分にあり得る。
「自社のシステムにおいて、ビジネスを成長させる上でボトルネックとなっているものは何か? 業務上、どの要件の実現を優先すべきなのか? 単にコスト削減=クラウドといった形で思考停止することなく、『ビジネス成長のために、クラウドで実現したいこと』を明確化し、実際に業務が回る理想的なシステム運用イメージも持ちながら、最適なインフラを選択することが重要だ。そうした目的起点のシステム設計が自ずとコストの問題にも貢献すると考える」
市場環境変化が速い現在、多くの企業がインフラを迅速・柔軟に利用できるIaaS利用に乗り出している。AWSをはじめIaaSプロバイダーも多数出そろい、それぞれ特徴のあるサービスが提供されている。ただ近年はオープンクラウドの進展などを受けて、IaaS構成設計の自由度がさらに高まりつつある。これを受けて、企業のIaaSに対するニーズも次第に変容しつつあるようだ。では今、IaaS市場はどのような状況にあるのだろうか? 今あらためてサービス群を俯瞰し、IaaSトレンドと企業が注目すべきポイントを占う。
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