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» 2014年07月15日 18時00分 公開

ベンダーはどこまでプロジェクト管理義務を負うべきか「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(3)(2/2 ページ)

[ITプロセスコンサルタント 細川義洋,@IT]
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予算と費用のコンティンジェンシーをユーザーに理解させる

 とはいえ、現実の「商売」を考えると、こうした管理や要求をベンダーが行うのは難しい場合もある。

 まず、ユーザー自身がスケジュールやコストに余裕を持っていない場合だ。システム開発は、かなりの割合で当初の予定を逸脱する。にもかかわらず、契約時、あるいはプロジェクト計画時に全く余裕のないスケジュールやコスト計画を立てている場合が少なくない。

 ベンダーも、顧客の期待に応えたいという思いから、こうした計画をそのまま受け入れてしまう場合が多い。しかし、日本のシステム開発におけるQCD(※)順守率が3割にも満たないという統計などを見ると、あまりに無謀である。

 プロジェクト計画時にさまざまなリスクを洗い出し、最悪の場合はどこまで遅れ、コストが膨らむ恐れがあるのかをユーザーに申し入れた上で、それらに余裕を見てもらう。家の建築やPCの修理では当たり前に行われていることを、システム開発の現場でも実践すべきだし、そうして成功しているプロジェクトも数多く存在する。

 (無論、コストについてはベンダー側から申し入れにくいことではあるが、「要件が変わればコストは膨らむ。当初予定の2倍程掛かるプロジェクトも多い」といった程度のことをユーザーに話し、コンティンジェンシー予算(※)を積んでもらうことは可能かと思う)。

※QCD=品質(Quality)、価格(Cost)、納期(Delivery/Time)の略
※コンティンジェンシー予算=Contingency budget 偶発損失積立金 予測しうる不測の事態のための予算

プロジェクト管理義務を果たすにはユーザーの信頼が必須

 ベンダーがプロジェクト管理義務を果たす上でのハードルがもう1つある。ユーザーからの信頼だ。

 何度も言う通り、コンピューターシステムは専門性が高く、多くのユーザーからするとベンダーの各種提言や追加費用などの要求の妥当性判断が難しい。ベンダーがいくら、誠実にこの辺りの話をしたところで、ユーザーがベンダーを信頼していないと、素直に受け入れられず、「不要な要求や過剰な請求では?」と疑われることも少なくない。

 ベンダーから見れば、フラストレーションがたまるかもしれないが、ユーザーの身になってみれば、これも致し方のないことである。まだ、その能力も誠実さも判断しかねる人間あるいは組織の言うことを、ただ信じろといっても無理がある。

 信頼は仕事の中で勝ち得ていく他はない。「あの人が言うのなら」「あの会社の見解なら仕方ない」とユーザーに思えるようになるまでは、誠実に仕事を行いつつ、さまざまな要求を断られても交渉を続けるしかないのが現実だ。

 人の心を動かすには、やはりそれなりの継続的な努力が必要である。逆に言うなら、そうした信頼を勝ち得るまでは、成果物に責任を持つ請負契約を結ぶことはリスクである。システム開発プロジェクトに参加する場合に、契約を「請負」とするか、成果物の責任を負わない「準委任契約」とするか、判断材料の1つとして「ユーザーからの信頼を十分に得ているか」を挙げておく。



 今回は、システム開発におけるプロジェクト管理義務について解説した。現実的な話になるが、こうした義務をベンダーが果たすためには、相応の工数、つまり費用を要する。プロジェクト管理費用は一般的には開発費の10〜15%を要し、これを素直に認めてくれないユーザーもまだいるが、それは、そもそもベンダーがユーザーに対してプロジェクト管理の必要性をきちんと訴求できていないことにも一因がある。

 今回紹介した事例の判決はベンダーにとって厳しいものに見えるかもしれないが、逆にこうした判決が出ていることも踏まえて、ユーザーに対して自分たちのスペシャリティを示し、「要求するものは要求する」プロフェッショナルらしい姿が、今ITベンダーに求められると私は考える。

本判決についての参考文書

情報システム・ソフトウェア取引高度化コンソーシアム 編 「経済産業省 情報システム・ソフトウェア取引トラブル事例集」(42〜43P)


東京地方裁判所の判決の要旨

本件についての東京地方裁判所の判断は、本件電算システム開発委託契約の途中解除により、被告ベンダーには3億4650万円の損害が発生したことを認めた上で、その原因はベンダー自身による懸案事項の解決の遅れ、技術面の検討作業の遅れおよび適切なプロジェクトマネージメントを欠いたことによるものが大きいとし、損害の6割を被告ベンダーが負担することが妥当である、としたものだった。


※変更履歴 2014年7月16日 事件の概要と裁判所の判断の要旨内の表記を一部変更しました

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細川義洋

細川義洋

東京地方裁判所 民事調停委員(IT事件担当) 兼 IT専門委員 東京高等裁判所 IT専門委員

NECソフトで金融業向け情報システムおよびネットワークシステムの開発・運用に従事した後、日本アイ・ビー・エムでシステム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーおよびITユーザー企業に対するプロセス改善コンサルティング業務を行う。

2007年、世界的にも季少な存在であり、日本国内にも数十名しかいない、IT事件担当の民事調停委員に推薦され着任。現在に至るまで数多くのIT紛争事件の解決に寄与する。


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