「アジャイルか、ウォーターフォールか」という開発スタンスでは失敗する理由特集:Biz.REVO〜開発現場よ、ビジネス視点を取り戻せ〜(1)

ビジネスにアジリティが求められている現在、システム開発にも一層のスピードが求められている。だが最も大切なのは、各開発手法の是非ではなく「役立つシステム」をスピーディに開発すること。ただ速く作ることではない。

» 2014年09月08日 16時00分 公開
[内野宏信@IT]

サーバーは動いていても、ビジネスが止まっていては意味がない

 仮想化、クラウドが企業に浸透し、インフラを迅速に整備できるようになった現在、業務を支えるアプリケーション開発にも一層のスピードが求められている。特に市場環境変化が速い近年は、時間をかけて設計、開発するウォーターフォールのアプローチだけでは、リリース時にビジネスニーズと乖離(かいり)してしまうケースも増えている。これを受けて、短いスパンでビジネス部門と共に成果物を確認しながら開発を進めるアジャイル開発や、アジャイルを核にリリースサイクルを加速し、継続的にシステムの改善を重ねるDevOpsに取り組む企業も増えつつある。

 支援ツール類も、オープンソースソフトウェア、商用ソフトウェアを問わず充実している。特にChefやPuppetなどによる構成管理の自動化、CI(継続的インテグレーション)ツールのJenkinsなどによるビルド、テストの自動化など、効率化に役立つツール類もここ数年で大きな関心を集めた。

 ただ、こうしたトレンドの中で最も注目すべきは、「スピード」や「ツール」というより、「ビジネスとITの連携」があらためて問い直されたことだろう。

 例えば運用管理分野では、「必要なときに、必要なだけリソースを利用する」「サーバーが壊れたり不要になったりすれば廃棄し、必要になれば即座に構築する」といった概念が浸透し、ビジネスにリニアに連動する“動的なインフラ整備”が重視されるようになった。整備以外の管理面でも、例えばパフォーマンス管理なら、従来はサーバーが正常に稼働していれば「管理者は責務を全うしている」と見なされてきたが、現在は「ビジネスの安定運用」とひも付けてパフォーマンスを管理することが重視されている。

 開発分野も同様だ。ビジネス展開に応じて、必要なシステムを、必要なタイミングでスピーディかつ柔軟に開発することが求められている。ポイントは、この「ビジネス展開に応じて」という言葉が「スピード」だけを意味するものではないことだ。「サーバーは動いていてもビジネスが止まっている」では意味がないように、いくら迅速にシステムを開発し、安定運用したところで、収益向上を軸とした自社のゴールにつながらなければ意味はない。

 つまり開発、運用ともに、「ビジネスゴール達成に向けて、システム面からビジネスを後押しする」ことが本来のミッションであり、「開発すること」「運用すること」そのものは、あくまでもゴール達成のための手段にすぎない――ここ数年で、こうした認識が一層強まったのではないだろうか。

開発作業はあくまで手段。開発現場にとって「本当のゴール」とは何か?

 では「自社のゴールにつながるシステムを迅速に提供する」ためには、具体的にはどうすればよいのか。

 事実、開発現場においては時間、コストをはじめ、さまざまな制約が存在する。開発部門としては、そうした中でもビジネス要件を正しく理解し、設計や成果物に適切に落とし込まなければならない。このためにはプロジェクトのリーダー層が、深い業務知識に基づき、ビジネス部門と密接なコミュニケーションを取ることが不可欠だ。また、システム要件と開発のスピード、コストのバランスを取る上では、実装機能の取捨選択も必要だ。そうである以上、エンドユーザー、運用スタッフも含めた全ステークホルダーに対し――システムを作らないという選択肢も含めて――調整・提案する能力も求められる。

 国内で一般的な、「開発をSIerに依頼し、運用は自社で行う」ケースになるとさらにハードルは高くなる。「共通のゴールを見据える」といっても「契約」が挟まる以上、SIerにとっては「納品」がゴールとなり、顧客企業のビジネスゴールとはそもそも一致しないことになる。二次受け、三次受けが存在すれば、さらに事態は複雑化する。

 こうした中で、一体どうすれば真にビジネスに役立つ“サービス”を迅速に開発できるのだろうか。そう、ほとんどの業務をITが支え、その競争優位をシステム開発・運用の在り方が左右するようになった今、「システムのお守り」や「言われたものを言われたままに、納期通りに開発する」といった、従来型の“ITの世界に閉じた認識・スキル”では、もはや対応しきれない状況になっているのだ。

 以前、取材したグロースエクスパートナーズの執行役員で、日本Javaユーザーグループ会長 鈴木雄介氏の言葉も示唆的だ。同社において、ITアーキテクトとして多数の開発案件を手掛ける同氏は、ビジネスに役立つシステム開発の要件を次のように語った。

 「アーキテクトの観点を持った人間が、全体観を基に全ステークホルダーと調整することが不可欠ですし、体制整備のための人的リソース、コストの問題にも配慮する必要があります。〜中略〜 (そのためには)目先のコストだけで判断せず、ビジネスのゴールを基に中長期的な観点で考えることが重要です。〜中略〜 顧客企業やエンドユーザーから、言われたままに基本設計をして、その通りにソフトウェアを作る、あるいは作る契約をする、といった従来のスタイルでは、こうした発想にはなりにくいかと思います。重要なのは、『顧客企業、あるいは社内外のエンドユーザーと一緒に、サービスを開発し、育てるんだ』ということにコミットできるかどうかですし、今後はそうしたスタンスが一層重要になっていくと思います」

 ではスキル、リソース、コスト、時間、開発体制など、さまざまな制約がある中で、真にビジネスゴールに役立つシステムをスピーディに開発するには、どうすればよいのか――本特集「ビジネスレボリューション〜開発現場よ、ビジネス視点を取り戻せ〜」は、こうした課題認識を基に、有識者や開発現場の声を通じて、“ビジネスに寄与するサービス”を迅速に開発するための要件を掘り下げていく企画だ。これを通じて、多くの現場で半ば掛け声と化している「ITでビジネスに寄与する」ことの具体像を明らかにし、その実現に向けた開発スタンス、必要なスキル、ツールの使い方などを洗い出していく。

 特に開発現場においては、スピード・品質が求められるあまり、「アジャイルかウォーターフォールか」「開発手法やツールはどれが優れているのか」といったように、ともすればゴールよりも手段に目を奪われがちな傾向も強い。だがエンドユーザーの要求は各社各様であり、“銀の弾丸”はそもそも存在し得ない。では開発のスピードと品質を担保する上で、“本当に考えるべきこと、持つべき視点”とは何なのか? 本特集を通じて、あらためて自問してみてはいかがだろう。本編は2014年9月末からスタート予定だ。ぜひ参考にしてほしい。

関連特集:Biz.REVO−Business Revolution〜開発現場よ、ビジネス視点を取り戻せ〜

市場環境変化が速い近年、ニーズの変化に迅速・柔軟に応えることが求められている。特に、ほとんどのビジネスをITが支えている今、変化に応じていかに早くシステムを業務に最適化させるかが、大きな鍵を握っている。では自社の業務プロセスに最適なシステムを迅速に作るためにはどうすれば良いのか?――ユーザー企業やSIerの肉声から、変化に応じて「ITをサービスとして提供できる」「経営に寄与する」開発スタイルを探る。



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