編集部 運用側が主体となって、「速くリリースできる仕組み」「その後の安定運用を担保できる仕組み」を整備するわけですね。
岩村氏 そうですね。またDevOpsではサーバー構築の自動化、テスト自動化など、自動化が開発迅速化のポイントになりますが、これを運用側も進んで取り入れることが重要です。特に先の変更管理や、インシデント管理、問題管理、サービスリクエストなどの自動化がポイントとなります。複数のステップを踏む作業を自動化するツール、いわゆる「ランブックオートメーション」を使って、人手で行ってきた作業を自動化する。
これによって、人的ミスを防止し、あらかじめ定めた手順に沿ってガバナンス、セキュリティを担保しながら、各種作業を素早く、確実に行うことができます。監視にしても複数のサーバーを個別に見るのではなく、一元的に全サーバーを監視し、何か問題があれば自動的にアラートが上がり、既知の問題であれば過去の解決策のナレッジを基に自動的に対処するといった仕組みによって、サービスの安定稼働が狙えます。
編集部 ガバナンスやセキュリティの観点でいうと、エンタープライズでは意図的に開発と運用を分断している作業もあります。例えば、開発部門が本番環境を触るのは忌避されている例が一般的ですが。
岩村氏 その点でも自動化が有効です。例えば「定義ファイルを少し変えたい」といったときも、あらかじめそのためのプログラムを作っておいて、開発側のリクエストを受けて運用側が実行する。ランブックオートメーションがあれば、「必要な作業をそこに登録してください」と開発部門に依頼し、実行は然るべきタイミングで運用部門が行うという形にする。これによってガバナンスとセキュリティ、スピードを担保することができます。
編集部 DevOpsを行うためにはサーバー仮想化環境、あるいはクラウド環境が前提となりますが、その運用管理自体に疲弊している例も多いようです。しかし市場ニーズに対応していくためには、それに加えてアプリケーションを素早く本番環境に展開、安定運用していく必要に迫られるわけですから、運用自動化はもはや必須の課題といえそうですね。
岩村氏 昨今はビジネス展開のスピードと品質が求められています。従って、運用手順を見直し、開発部門と話し合いながら、スピードとガバナンスを担保できる最適なプロセスを整備、標準化し、自動化できる部分は極力、自動化していくことは、DevOpsという概念にならわずとも重要な課題です。ITILも無理に適用しようと考えるのではなく、最適なプロセスを整備する上で使える部分を参考にする、いわば辞書のように利用するアプローチが効果的かと思います。
編集部 ただDevOpsにしても、そのカギとなる運用自動化にしても、従来型の運用部門の観点ではハードルが高い部分もあるかと思うのですが。
岩村氏 とはいえ、ビジネス的に見てもこれだけのスピードで状況が変わり、システム構築・運用に一層のスピードと柔軟性が求められています。特に昨今はOpenStackベースのオープン性、アプリケーションの過般性を担保したIaaSが増えつつある他、プライベートクラウドに取り組む企業も着実に増加しており、ビジネスの状況に応じてインフラを使い分けるといった概念も浸透しつつあります。
もちろん前述のように、全てのシステム開発・運用にDevOpsが有効というわけではなく、「ユーザー価値を担保する」というゴールから手段を選ぶことは大前提ですが、これだけ市場環境、システム環境が変わっている中で、「一度作ったシステムは変わらない」ことを前提とした従来型の運用管理で対応するのは難しいと思います。必ずどこかでジャンプアップしていかなければなりません。開発・運用プロセスの見直しや、標準化、自動化の取り組みは必須といえるのではないでしょうか。
また運用部門は、自分たちが社内(外)の「サービス提供者」であると考えることも大切です。例えば変更管理にしても、「サーバーのパラメーターを変更するとき」「CPUを増やすとき」「ネットワーク帯域を増やしたいとき」といった具合に、誰でも明確に分かる形でサービスを定義し、それをサービスカタログとして標準化していく。開発部門と連携して、お互いに理解しやすい形でプロセスを標準化、自動化し、さらに高度化していくアプローチが重要です。
この先は、クラウド上でサービスを提供するという形が間違いなく主流になると思います。そうなるとクラウド上で作るものは全てDevOps型の開発になっていくはずです。運用部門はそれに対応しなければなりません。今行っている作業手順をあらためて見直すことが、まさに今やるべきことといえるのではないでしょうか。
DevOpsのアプローチを採用する、しないにかかわらず、経営環境がアジャイルな開発・運用アプローチを求めていることは確実。本特集「DevOpsで変わる情シスの未来」も2015年からリニューアル。第2クールとして、エンタープライズDevOpsの実践法を、あらためて掘り下げていく予定だ。
今やクラウド、ビッグデータに次ぐキーワードになったDevOps。だが前者2つが通過したようにDevOpsも言葉だけが先行している段階にあり、その意義や価値に対する理解はまだ浸透しているとはいえない。ではなぜ今、DevOpsが必要なのか? DevOpsは企業や開発・運用現場に何をもたらすものなのか?――本特集では国内DevOpsトレンドのキーマンにあらゆる角度からインタビュー。DevOpsの基礎から、企業や情シスへのインパクト、実践の課題と今後の可能性までを見渡し、その真のカタチを明らかにする。
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