2015年2月6日、SAPジャパンはビジネススイート「SAP Business Suite 4 SAP HANA(SAP S/4HANA)」を発表しました。既報では「23年ぶりの刷新」、「SAP HANAのみで稼働」といったポイントが大きく取り上げられています。S/4HANAは略称が表すようにSAPが昨今強調している「Simple」の「S」、それから技術面の柱となるデータベースアプライアンス「SAP HANA」を軸としています。
記者説明会ではSAP SEエグゼクティブ・ボード・メンバーのロバート・エンスリン氏(写真)が来日し、S/4HANAの優位性を強調しました。エンスリン氏はSAPジャパンのプレジデント兼CEOを務めたこともあります。今回の発表は、ビジネス的なインパクトが注目されがちですが、ここでは技術的な特徴に目を向けましょう。
S/4HANAの特徴は何といってもデータベースをSAP HANAに絞り、最適化した点です。
少し背景を考えてみましょう。SAPといえばERPパッケージベンダーとして広くIT業界にその名が知られています。一方で、昨今ではERPだけでなく、SAP HANAの売り上げが急成長しています。1年前の発表では、日本国内におけるSAP HANAの成長率は130%、新規に導入されるSAP ERPでは過半数でSAP HANAが採用されているとありました。当時からSAPは「HANAを全てのプラットフォームに」と話すほどSAP HANAの展開に意気込みを見せていました。
そう考えるとS/4HANAは当然の帰結のなのかもしれません。
従来だとERP、つまりアプリケーションありきで、HANAはERPパッケージの仕組みを支える目的で導入するデータベースの選択肢の一つでしたが、大きな発想の転換が起こりました。今回、SAPはSAP HANAを最大限活用すべくS/4HANAではアプリケーション内部を刷新しているのです。「SAP HANAありき」でアプリケーションを作り直したということです。
具体的にはデータモデルやアプリケーションとデータベース(SAP HANA)との接続部分をSAP HANAに特化して改良しています。以前は複数のデータベースに対応するために、さまざまな意味でのオーバーヘッドがありました。S/4HANAではデータベースの選択肢をHANAに絞り込み、内部の実装を簡素にし、また、特定ターゲット向けにチューニングした性能向上も狙えます。
実は、S/4HANAではビジネススイートの全体像も大きく変わります。従来はERPを中心に据え、CRM(顧客関係管理)やSCM(サプライチェーン管理)などの業務アプリケーション群が周辺に配置されていました。しかしS/4HANAではSAP HANAというデータプラットフォームの上にERPがあり、その上にCRMやSCMなどが乗るような形になります。そうすることでデータがより効率的に扱えるようになり、無駄な転送処理も減らすことができます。
またS/4HANAはHANAをベースとしているので、HANAの特徴をそのまま生かせます。例えば、HANAは全てのトランザクション処理をカラム型に格納し、しかもHANAの並列処理による高速化を実現しています。アクセス頻度の高い「ホットデータ」とアクセス頻度の低い「コールドデータ」に振り分けることで、データ利用時の効率化をデータベースレベルでも実現しています。
画期的な新製品を出す一方で、SAPは既存ユーザーへの配慮も忘れていません。少し前にSAPはERPやCRMなどのBusiness Suiteの保守について、2025年まで延長すると発表しています。こちらも重要なポイントではないでしょうか。
S/4HANAにはSAPが目指す世界観やSAP HANAに賭ける意気込みがひしひしと伝わってきます。
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