東芝は、大規模案件を対象に工事進行基準を採用していました。工事進行基準は、ゼネコンをはじめとして、多くの企業で採用されている方式で、それ自体が問題となるものではありません。それでは、東芝の事件はどういった点に問題があったのでしょうか。
答えは「工事原価総額」です。原価総額を少なく見積もっていたのです。
先ほどの建設工事を例に取り、本来は原価総額を「20億円」と見積もるべきところを「15億円」と見積もると、1年目の売り上げがどうなるかを計算します。
6億円÷15億円=40%
30億円×40%=12億円
先ほど計算した売り上げよりも「3億円(12億円−9億円)」多くなりました。原価総額は将来掛かる原価を予想しているため、ある程度の見積もり誤差は許容されます。しかし東芝は、意図的に小さく見積もっていたとされています。
1年目の売り上げを多くすると後になってしわ寄せがきて、2年目、3年目の売り上げは減ります。トータルの売上金額は変わらないので、いわゆる架空取引による売り上げの水増しを行っていたわけではありませんが、こういった早期売上計上も許されることではありません。
工事進行基準を悪用した不正会計は、東芝が初めてではなく、これまでにも何度も発生しています。この点を見ると、そもそも工事進行基準の採用を禁止してしまえばいいのではないかと感じるかもしれません。
代替策として「工事完成基準(完成したときに売り上げとする)」があります。
それでも、工事進行基準が認められている理由は、大規模案件で工事完成基準を採用すると、経営成績がゆがんでしまうからです。先ほどの建設工事に工事完成基準を当てはめてみましょう。売上金額は以下の通りになります。
1年目:30億円×0=0円(未完成のため)
2年目:30億円×0=0円(未完成のため)
3年目:30億円×1=30億円
1年目、2年目はどれだけ頑張っても、売り上げに反映されません。これでは、決算書を見る人からすると、いびつと言わざるを得ません。このような理由で、大規模案件では工事進行基準が採用されているのです。
IT企業も大規模開発では、工事進行基準を採用することがあります。そうなると、東芝と同じように原価総額が問題となる可能性があります。
「最善の見積もり」という言葉ありますが、原価総額は決算ごとに見直しが必要です。大規模案件に関わるエンジニアの皆さんは、ご自身の担当プロジェクトは最善の見積もりができているか確認してみてはいかがでしょうか。それではまた。
イラスト:Ayumi
吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピューターの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。
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