ソラコムが、2015年9月30日にユニークなIoTプラットフォームサービスを正式発表し、同時に提供開始した。同社の提供するサービスは、「モノのためのMVNOと、これを支える周辺サービス」といえる。本記事では、その概要と、IoTプラットフォームサービスとしての可能性を探る。
Amazon Web Services(AWS)の日本法人、アマゾンデータサービスジャパンの技術統括本部長だった玉川憲氏が設立し、代表取締役社長を務めている企業、ソラコムが、2015年9月30日にサービスを正式発表し、同時に提供開始した。同社の提供するサービスは、「モノのためのMVNO*と、これを支える周辺サービス」といえる。
*MVNO 仮想移動体通信事業者(Mobile Virtual Network Operator)。一般には格安SIM(Subscriber Identity Module)を展開する事業者あるいは提供サービスそのものを指す場合が多い。
ソラコムが2015年9月30日に提供開始したのは「SORACOM Air」。これはひと言で言えばNTTドコモ系のMVNO、あるいは「格安SIM」。3G/LTEのデータ通信を、多数のモノの接続に使うのに適したやり方で提供し、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)のハードルを下げるのが、同サービスの最大の目的だ。
このために、ソラコムはNTTドコモ(の通信網)とレイヤー2接続をしている。レイヤー2接続では、自前でパケット交換システムや、「OSS」「BSS」と呼ばれる運用支援システム*を運用しなければならない。ソラコムはこれら一連のシステムをソフトウエアとして「Amazon Web Services(AWS)」上で動かすことで、ハードウエアへの莫大な投資を回避するとともに、これらシステムの運用コストを、ビジネスに比例してスケールできるようにしている。同社の共同創業者でCTOの安川健太氏は、サービスが動いている仮想インスタンスの一部がダウンしても、他の仮想インスタンスで即座に代替することにより、サービスを中断せずに提供できるパケット交換システムの実装が、技術的なブレークスルーだったと話している。
*OSS サービスの運用支援システム(Operation Support System)。BSS 課金・顧客サポートなどのビジネス支援システム(Business Support System)。
SORACOM Airの料金体系は、基本的には通信量に基づく従量課金。具体的には1Mバイト当たり0.2円からとなっている。1回線ごとの固定料金は、開通後1日10円(開通前は1日5円)。このため、例えば1カ月(30日)間に500Mバイト使ったとすると、従量料金100円+固定料金300円で、1回線当たり月400円の計算になる。音声通信サービスは「やろうと思えばできるが、そこにイノベーションはない」(玉川氏)。一方、IoT デバイスに対して遠隔から指示を出すアプリケーションが適用できるように、SMS機能付きのSIMも提供している。
なお、1Mバイト当たり0.2円「から」というのは、上り/下り、日中/夜間、速度クラス(後述)によって料金が異なるためだ。
ソラコムは既存MVNOに比べて圧倒的に安いとは言えない。既存の格安SIMには、例えば最大通信速度が200Kbpsではあるものの、無制限で使えて月額440円といったサービス(「DMM mobileデータSIM ライトプラン」の例)もある。
だが、そこにソラコムの狙いがある。SORACOM AirはIoTのために最適化されたサービスだ。少なくとも現時点では、少量のデータしかやり取りしないモノや、大量のデータ転送が発生するものの、頻度が非常に低いといったユースケースに適している。
また、AWSと同様、「使った分だけ支払う」という従量課金は、IoTアプリケーション開発者やIoTサービス運用者にとって、納得感がある。IoTアプリケーション開発者は、利用する通信サービスのプランを気にしながら開発する必要がない。
一方でSORACOM Airは、同サービスを再販する事業者や、モノをつなげたサービスを構築・運用したい事業者が喜びそうな、コスト効率、制御性、柔軟性を提供しようとしている。
まず契約事務手数料は、一般的なMVNOでは一回線当たり3240円だが、SORACOM Airは580円と低い。SIMはアマゾンで個人でも1枚から購入でき、ソラコムのWebサイトからは1000枚単位で調達することも可能。また、一般のMVNOでは長期固定契約が必要とされることが多いが、SORACOM AirではSIM単位でいつでも解約できる。
料金支払いは、クレジットカードのみ。請求書に基づく支払いについては、AWSの場合と同様、再販業者による対応に期待している。同社としては、本質でないところでユーザーに余計なコストが掛かることは避けたいという。
購入事業者は、SIMあるいはSIMグループ単位で、個体識別番号を使ってAPIあるいはWebコンソールによりきめ細かく管理ができる。まず、SIM単位で複数の速度クラスから選択して適用できる。速度クラスとは、ソラコムが定義した上り・下りの最大通信速度制限。現時点では、32Kbps、128Kbps、512Kbps、2Mbpsの4種類がある。
各SIMは、時間単位で通信の開始・休止、解約、速度クラス変更ができる。例えば夜間のみ、バッチ処理的な作業のために通信を有効化するといった設定が可能。各SIMについてほぼリアルタイムで通信量などの監視もでき、盗難にあったなどが判明した場合には、APIかWebコンソールでこのSIMを無効化できる。
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