SORACOM Airは、IoT事業者が「土管」、つまり通信経路として利用できる。だが、IoTではネットワークセキュリティ上の課題がある。
モバイル通信は暗号化されているものの、それ以降の、インターネットを経由してIoT事業者のサーバーに到達するまでの区間が平文通信なのでは、セキュリティ上問題がある。また、通信しているのが正しい端末であることを示す端末認証も必要だ。
かといって、デバイスが非力だと、暗号化/復号処理を実行するのは困難な場合がある。ネットワーク的な負荷も高まる。端末認証のために証明書を導入するのも、管理上難しいことが考えられる。
そこで、ソラコムがパブリックベータを提供開始したもう一つのサービス「SORACOM Beam」は、IoTデバイスからの通信の暗号化の代行処理を行う。
つまりこういうことだ。SORACOMはNTTドコモと専用線接続し、AWS上でパケット交換機能を実行している。そこで、SORACOMのパケット交換サーバーとIoTデバイスとの通信のネットワークセキュリティは確保されていることになる。残る問題は、SORACOMサーバーと事業者のアプリケーションサーバーとの間のネットワークセキュリティだ。
このため、ソラコムのサーバーが事業者のサーバーとの間の通信暗号化処理を代行し、エンドツーエンドのセキュリティを確保する。端末認証に関しては、SIMの個体識別番号を、証明書代わりにアプリケーションサーバーへ伝える。これがSORACOM Beamだ。
SORACOM Beamは、セキュリティ以外の機能として、端末からのトラフィックを、ユーザーの指定するサーバーにルーティングすることができる。ルーティング先はSIMごとに指定可能。
ルーティング先は、SORACOMの動いているAWSの任意の仮想インスタンスやサービスにも指定できる。すると、AWSの提供している「AWS Lambda」「Amazon Kinesis」「Amazon Redshift」などのサービスや、AWS上に構築したアプリケーションに直結できることになる。ソラコムは、同社の通信サービスとAWSの組み合わせで、だれでもIoTアプリケーションのビジネスを、少ない初期投資で始められるとしている。
もちろん、他のクラウドサービスにルーティングすることもできる。
SORACOM AirとSORACOM Beamは、IoTをめぐるさまざまな課題の中で、通信とセキュリティに特化したサービスを提供している。IoTビジネスを始める大小の事業者が共通に抱える、通信に関わるコストの問題に対処しようとしている。それは料金レベルに加え、ビジネスの規模に応じて柔軟にスケールできるかどうかという問題でもある。
ソラコムは、新たなIoTベンチャービジネスの創出を促すことを狙っている。「スモールスタートして、やめたい場合にはいつでもやめられる」という仕組みは、そのための仕掛けの一つだ。もう一つの仕掛けは、IoTのための通信方式として幅広いユースケースに対応できるモバイル通信を選択し、多様な業種におけるIoTへの取り組みの障壁を低めていることだ。言い換えれば、「これなら、試しにうちの製品もつなげてみようか」と発想できるような通信サービスを提供しようとしている。
ソラコムは2015年10月にIoT開発者向けカンファレンスの開催を予定するなど、自社がIoTエコシステムのハブとしての機能を果たそうとしている。
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