例外もないわけではない。
例えば、まだ若いエンジニアが職種を変えて金融業界に転職したいと考える場合には、ファイナンス(金融論)に強いビジネス系大学院に入って、知識を得つつ人間関係を作るのは有効だ。
金融業界でも業務によってはそれなりに複雑な数学を使う。理系出身者のロジカルシンキング能力が大きなアドバンテージになるケースはまだあるからだ。
ただし、ロジカルシンキング能力やシステム開発力だけを売り物に金融業界に転職しても、理系の専門人材としてある種の部品のような使われ方をしてしまうこともある。こうならないためには、ビジネス系の大学院で得た知識が役に立つ。
これ以外のケースでは、よほどピンポイントで仕事上のニーズと大学院の講義内容が一致しているのでもない限り、エンジニアがビジネス系の大学院に行くことがキャリアのプラスになるケースは少ない。
ビジネス系大学院に多いのは、30代前半くらいで、仕事に余裕があったり、現状に不満があったりして、新しい職業人生を切り開くための打開策として入学を決めた人々だ。彼らは「MBAを取ると転職に有利だろう」とか、「社内での評価が改善するのではないか」と考えがちだ。
しかし、この考えは現実的ではない。
分かりやすい例で考えてみよう。例えば、あなたが中途採用を担当する人事担当者で、30代前半のプログラマーを採用しようとしているとしよう。そこで、基本情報処理技術者試験、ITストラテジスト試験、MCSE、CompTIA、LPIC、ITIL、Javaプログラミング能力認定試験、英検2級、中小企業診断士、内部統制評価指導士……といった資格を並べた履歴書を見たら、その転職希望者をどう思うだろうか。
資格を持っているだけでは、仕事ができるとは保証されない。
「勉強好きで真面目かもしれないが、いわゆる『資格好き』で、仕事に不満を持って資格取得に情熱を傾けている人」、といった人物像が浮かばないだろうか。面接まで進めば採用することもあるかもしれないが、履歴書の段階では少なからず警戒するだろう。
社会人になってから大学院を卒業してMBAを持っている、または資格を複数持っているということは、採用担当者に資格取得に注力した背景を「本業の仕事が暇だった人」だとまで推測され、転職活動で不利に働く可能性まであるのだ。
実際、筆者が過去に経験した日本の大手企業では、将来大いに出世するような「エース」級の人材は、職場で忙しく仕事にまい進しているのが普通で、大学院に通うような暇はなかった。もちろん、海外留学への派遣も少なかった。
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