と、ここまではプレイリストの価値について力説してきた。“プレイリスター”を自認する筆者としては、プレイリストやそれを基にした的確なリコメンドがサービスの魅力を下支えするという説に異論はない。ヘビーリスナーであれば、同好の士のプレイリストに対し「いい選曲だ」「その選曲はない」「自分ならこの曲を入れる」などとツッコミを入れながら聴くのも1つの楽しみだし、自己表現の一環として作成したプレイリストを公開するのも、また喜びだろう。
だが、ライトユーザーはどうだろうか。日本において音楽のライトユーザーにプレイリスト文化がどこまで浸透するのかは未知数だ。米国と日本のラジオを比較するとよく分かるが、米国のラジオではヘビメタやカントリー、クラシックなどジャンルごとの専門局がほぼノンストップで曲をかけるのが一般的なスタイルであるのに対し、日本のラジオはあくまでもトークが中心であり、音楽だけがノンストップでかかるという番組は少ない。トーク中心のラジオ文化が定着した国において、音楽だけがノンストップで再生されるプレイリスト文化がどの程度に受け入れられるのかは判断が付かない。
筆者としてはプレイリストの魅力が徐々にでも浸透することを願っているのだが、そのためには、プレイリストをSNSへシェアする機能は欠かせないだろう。AWAのアプリにはSNSにシェアする機能はあるものの、現状では、YouTubeやSpotifyが取り入れているような、ブログに動画やプレイリストを埋め込む仕組みはない。
AWAでは、この点に関しても「近日中に類似の追加機能をリリースする予定」とのことだ。
プレイリスト以外に、AWAとしての成長戦略はあるのだろうか。小野氏によれば「本陣であるスマートフォンアプリの磨き上げに加えて、マルチデバイス対応を併せて進めている」そうだ。2015年10月にはAndroid Autoに対応したことを公表しし、2016年1月にはデスクトップ版アプリを公開、その後2月にはChromecastや国内アプリとして初めてApple CarPlayに対応したことを発表したAWAだが、今後もApple TVやAndroid TV、Apple Watch、Android Wearなどマルチデバイス対応を積極的に推進していくという。
また、チケット販売やアーティスト公認グッズ販売との協業も視野に入れており、小野氏は「単にストリーミングでのサービスに終始することなく、音楽を中心として、その周辺でアーティストやレーベルが収益構造を構築するためのプラットフォームとして機能させたい」とも力説する。
インタビューの最後に、AWA事業の収支について尋ねた。これに対して小野氏は、「現状は赤字だが収益化は可能」と自信を見せた。SpotifyやPandoraといった海外の独立系大手が創業以来赤字続きであることを考えると、世界に先駆けた定額制ビジネスの成功例となれるように、ぜひとも実現してほしいところだ。ただ、Apple、Google、Amazonといった、音楽事業単体で収益を追いかけていない(であろう)強力な黒船勢を迎え撃ちながらの戦いになるだけに、楽観視はできないとは思うが……。
パッケージメディア時代の流儀が通用しなくなったインターネットにおいて、アーティストやレーベルが良質な音楽を作り続けるためには、AWAのようなインターネットビジネスを知り尽くしている事業者が運営するプラットフォームが健全に育つことが不可欠だといえる。AWAには引き続き頑張ってほしいものだ。
長く音楽制作業を営む傍ら、インターネットが一般に普及し始めた90年代前半から現在に至るまで、IT分野のライターとして数々の媒体に執筆を続けている。取材、自己体験、幅広い人脈などを通じて得たディープな情報を基にした記事には定評がある。著書多数。ヴィンテージ鍵盤楽器アプリ「Super Manetron」「Pocket Organ C3B3」「Combo Organ Model V」「Alina String Ensemble」の開発者であると同時に演奏者でもあり、楽器アプリ奏者としてテレビ出演の経験もある。音楽趣味はプログレ。
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