国内外のサービスが乱立する“群雄割拠”の音楽ストリーミングサービス業界の現状とこれからについて、AWAへのインタビューを通じて探った。
日本で本格的な定額制の音楽ストリーミングサービスが始まって1年が経過した。AWA、LINE MUSIC、Apple Musicの3大サービスに続いて、Google Play MusicやAmazon Prime Musicも参戦し、音楽ストリーミング業界は群雄割拠の様相を呈している。また2016年7月には、世界最大手のSpotifyが日本に上陸する予定だ。
音楽を愛する者からすれば、選択肢が多くなることに負の感情は抱かない。また、音楽を供給する側からしても、販売するチャンネルが増えるのは悪いことではないだろう。パッケージメディアと異なり、デジタル音楽は流通・在庫管理などに掛かるコストがほとんど発生せず、配信事業者のプラットフォーム上に置いておけば収益機会が拡大するからだ。
しかし一方で、このような過当競争の状態で大丈夫なのだろうかと心配にもなる。各社が販売する商材(音楽)は基本的に同じものばかりだ。売っているものが同じなのだから、サービスごとに分かりやすい差別化要因がなければ、価格やブランド力に優れたものだけが生き残るという淘汰がそのうち始まるのではないか。
ただし、群雄割拠であっても市場が成長しているのであれば問題は顕在化しにくい。格安SIMが良い例だろう。NTTドコモやauの回線を借りた格安MVNOは品質に差がなく、安売り合戦に陥っているが、総務省の競争政策もあって市場全体が右肩上がりで成長しているために、大きな波乱は起きていない。
しかし、定額制ストリーミングサービス市場が爆発的に拡大しているのかというと、芳しいうわさは聞かない。各社とも有料会員数を公表していないので正確な論評はできないが、2016年5月19日には一部メディアが「LINE MUSICは会員数10万人を超えた程度」と報じている。SNS大手のLINEのブランド力をもってしてもその程度かと驚いたものだ。
LINE MUSICはエイベックス・デジタル、ソニー・ミュージックエンタテインメント、ユニバーサル ミュージック合同会社という3つの大手レーベルが資本参加しているサービスであり、2015年末にはDL数世界5位とも報じられた(関連リンク)。そんなLINE MUSICが「10万人超レベル」というのが本当であるなら、あまりにも切ない。ただ、10万という数字は筆者もあるグループ企業の幹部の口から耳にしたことがあり、真実味はある。
そんな音楽ストリーミングサービス業界の現状や今後の展開を占うには、事業者に直接話を聞くのが早いだろう。そこで本稿では、AWA取締役 小野哲太郎氏にインタビューを行った。AWAを選んだのは、アプリのデザインやユーザーのプレイリストに力を入れている点が筆者の好みに合ったからだ。
まず初めに、「LINE MUSICが10万人超えレベルだったら、AWAはどうなのだろうか」と気になる有料会員数について聞いてみたところ、これは残念ながら「非公開」とのことだったが、「想定以上のペースで右肩上がりに増えてきている」とだけ明かしてくれた。
と、有料会員数の話はこれくらいにして、今度はこれからの定額ストリーミングビジネスの成長性について聞いてみた。これについて小野氏は「今後は、もっと多くのユーザーが定額ストリーミングを利用するようになる」と力強い口調で語った。
その根拠として、「音楽を聴くという行為や音楽そのものが廃れてしまうということは考えられない。その上で、CDを買うより、レンタル店に行くより、テレビやラジオで聴くより、定額ストリーミングの方が便利でリーズナブル。CD販売やレンタルなどだけでは囲い切れていない層を集められるはず」と小野氏は訴える。
これは筆者の考えだが、月額1000円程度を支払えば、膨大なカタログ数の中から好きな曲を聴くことのできる聴き放題サービスが存在する、という事を知らない人もまだまだたくさんいるのではないだろうか。海外ではApple Musicの登場後、それまでにないペースでSpotifyの会員が増えたという報道もある。スマートフォン大手のアップルが定額制音楽ストリーミングサービスを開始したことで、同種のサービスに対する認知度も上がったのではないだろうか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.