実は、オラクルは今回の新サービスの投入を機に、「Oracle Cloud At Customer」という新ブランドを打ち出している。同社が新サービスに込めた野望を探るヒントは、どうやらこの新ブランドにありそうだ。この新ブランドについて、杉原氏が発表会見で次のように説明していた。
「オラクルではオンプレミスとパブリッククラウドの間に、両方をつなぐハイブリッド利用とともに、ユーザーの手元でそれぞれのメリットを享受できる利用形態が求められるようになると見ている。その利用形態を実現するサービス群を“Oracle Cloud At Customer”と名付けてブランド化した。今回のOracle Cloud Machineはその新ブランドにおける第1弾のサービスだ」(図3)
さらに、杉原氏はこう続けた。
「日本のIT市場は2016年現在、全体が15兆円規模の中で、プライベートクラウドは約6000億円、パブリッククラウドは約3000億円。つまり、クラウド市場は合わせて9000億円規模である。これが2019年には倍以上の2兆円規模になると見ている。そうした勢いの中でユーザーニーズが高まりつつあるのが、Oracle Cloud At Customerの利用形態だ。クラウド市場が2兆円規模になったとき、この新しい利用形態がその中で一定の割合を占めている可能性が高い。当社はそうした見立てで今回の新サービスを投入している」
オラクルではこの新ブランドの下で、今回のOracle Cloud Machineに続いて、「Oracle Exadata Database Machine」および「Oracle Big Data Appliance」によるパブリッククラウドサービスの拡充を計画している。
杉原氏が語った「一定の割合」とは、果たしてどれくらいか。あらためて本多氏に聞いたところ、「クラウド市場が2兆円規模になったとき、Oracle Cloud At Customerの利用形態は単独でその数10%を占めるようになると見ている」とのこと。仮に30%とすれば、6000億円になる計算だ。今のところ同様のサービスは存在しないので、オラクルはOracle Cloud At Customerブランドのサービス群でこの市場を一気に取りに行く構えだ。これこそが新ブランドの大いなる野望である。
最近の企業向けクラウドサービス市場では、パブリッククラウドとプライベートクラウドの“いいとこ取り”をしたホステッドプライベートクラウドサービスが注目を集めている。今回オラクルが打ち出したOracle Cloud At Customerブランドのサービスは、データを手元で保管したいユーザー向けに、ホステッドプライベートクラウドサービスと同様のメリットを提供する狙いがある。新ブランドの大いなる野望を実現する可能性は、このポテンシャルにある。
とはいえ、デメリットもある。ユーザー企業にとって、マシンが貸与されるとはいえ、実際に設置する必要がある。当然ながら、場所や消費電力などの費用は別途発生する。それを踏まえたうえで選択肢の1つとして考えたいところだ。
最後に、こうしたユニークな戦略を展開するオラクルの本多氏に、ユーザー企業のIT担当者へのメッセージをお願いしたところ、次のように語ってくれた。
「企業ごとのさまざまな事情から、クラウド化は無理だと諦めていたり、難しいと考えたりしている方は、ぜひOracle Cloud Machineを検討していただきたい。それぞれの事情に合わせてクラウドとの接点を見いだしていただけると思う」
企業システムのクラウド化は、移行するかしないかの二者択一ではない。クラウド移行の過程において、Oracle Cloud Machineを活用するという手もありそうだ。この新サービス、クラウド市場で思わぬヒット商品になるかもしれない。
ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。Facebook
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