続いて、PostgreSQLの周辺はどうでしょうか。
MySQLとは対照的に、PostgreSQLは開発の中心に特定の企業を置かない状態を保ちながら発展しています。あくまで開発の中心はグローバルなメンバーが参加するコミュニティーです。
しかし、企業向けサポートやコンサルティングサービス、PostgreSQLベースの製品、PostgreSQLと組み合わせて使う製品など、企業のPostgreSQL導入を支えるソリューションを展開するプロバイダーは数多くあります。こうした企業もPostgreSQLにはなくてはならない存在です。
2016年12月に東京で開催された、PostgreSQLの年次イベント「PGConf.Asia」では、PostgreSQLの最新技術や導入事例の他に、PostgreSQL関連企業の歴史も語られました。最初にPostgreSQLに特化した企業は、1997年に誕生した「PostgreSQL Inc」だそうです。名前からしてそのままですね。同社はPostgreSQLコミュニティーのファウンダーも参加して事業を開始したものの、ビジネスの拡大までには至らず、2005年に静かに幕を閉じています。
次にチャレンジしたのは、2000年に誕生した「Great Bridge Inc」でした。こちらもPostgreSQLのコアメンバーなどが参加し、「OSSデータベースのレッドハット」を目指していました。創業年には米フォーチュン誌で「25 Coolest Global Companies(クールなグローバル企業25選)」として取り上げられるなど、輝かしく船出したかのように見えました。しかし同社はわずか1年ほどで解散となり、主要メンバーはそれぞれオープンソース系企業に移籍したといいます。2000年前後の時代の苦難を振り返ると、OSSであるPostgreSQLでビジネスを進めることの難しさが伝わってきます。
ところが2004年に登場した米エンタープライズDBは違いました。もちろん2017年も実在しているどころか、「EDB Postgres Advanced Server」をはじめとする独自のPostgreSQL関連製品の他、企業のPostgreSQL導入を支援するソリューションを積極的に展開しています。何よりも多くのPostgreSQL開発者を雇用していることでも知られ、PostgreSQLコミュニティーを実質的に支えているといえます。
この他に日本でのPostgreSQLに強い企業として、SRA OSSも挙げられます。SRA OSSはPostgresSQLにおける企業向けサポートやトレーニングなどのサービスの他、PoetgreSQL互換の「PowerGres」を提供しています。
SRA OSSでは、昔からPostgreSQLのコミッターを務め、日本のPostgreSQLの普及を後押ししてきた石井達夫氏が同社支社長を務めています。ちなみに近年では、NTTデータの藤井雅雄氏もコミッターに加わっており、NTTグループが関与を強めています。
もともとPostgreSQLは企業システム向けというイメージがあります。このことから、商用データベースからの乗り換え対象として目されることが多いようです。そのため日本では「PostgreSQL エンタープライズ・コンソーシアム」という企業連合体でノウハウを共有しようとする活動もあります。
またPostgreSQLが使われている製品も意外と多くあります。PostgreSQLの名称が表に出ることはあまりありませんが、人事システムや図書管理システムなど企業向けのパッケージ製品でPostgreSQLが組み込まれています。
この他、データウェアハウスの「Netezza」(現在は「IBM PureData System for Analytics」)や「Greenplum」「Amazon Redshift」もPostgreSQLをベースにしています。今ではすっかり別製品ではあるものの、PostgreSQLの隠れた功績といっていいでしょう。
加えて日本では、富士通が提供している「Enterprise Postgres」もあります。名前から想像できるように、PostgreSQLをベースに、セキュリティや処理性能、信頼性向上に関する同社の独自技術と、24時間365日対応や長期保証などの企業向けサポートを付加した製品です。大手の国内ベンダーが提供することによる安心感も大きいと思われます。
冒頭のスーツとギークに戻ると、日本ではMySQLがギークに愛され、PostgreSQLがスーツに愛されている──というのが筆者の印象です。「OSSデータベース」とくくれるにしても、生い立ちや現状、コミュニティー文化をはじめ、両者は何かと対照的な存在です。
しかし対照的だからこそ、特化している部分も際立ちます。ユーザーはどちらが使いやすく、自身が望む機能を備えているか、どちらが顧客のメリットや自社のビジネスに貢献できるか。こんな視点で好みの方を選べます。だからこそ開発者は互いに切磋琢磨して発展してこれたのではないかと思っています。
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