adidasは、ファクトリーアウトレットでの価格戦略に統計予測をどう生かしているか欧州アウトレット責任者が自ら語った(1/2 ページ)

国際的スポーツ用品・衣料メーカーのadidasは、統計予測ツールを活用してファクトリーアウトレットにおける価格最適化を行っている。これにより、マージンを確保しながら、在庫を最小化することに成功しているという。

» 2018年01月16日 05時00分 公開
[三木泉@IT]

 ビジネスに統計分析を活用できる分野の1つに、ダイナミックプライシングがある。「adidas」と「Reebok」の2つのブランドを擁する国際的スポーツ用品・衣料メーカー、adidasは、西欧におけるファクトリーアウトレットの運営で、統計分析に基づく「マークダウン・オプティマイゼーション(マークダウン最適化)」を2016年に導入。成果を上げているという。

 adidasの西欧ファクトリーアウトレット事業におけるマーチャンダイジングディベロップメント・ディレクターを務めているポール・ティップス(Paul Tips)氏は、2017年10月にオランダ・アムステルダムで開催された「SAS Analytics Experience 2017」で、同社におけるマークダウン最適化(以下、MDO)の取り組みについて説明した。以下では、これを紹介する。

132のファクトリーアウトレットストアを対象に

adidasの西欧ファクトリーアウトレット事業におけるマーチャンダイジングディベロップメント・ディレクターを務めているポール・ティップス氏

 ファクトリーアウトレットは一般的に、各シーズンにおける商品の余剰在庫を減らすことを目的として運営されている。ティップス氏の部署は、西欧各国に存在する132のファクトリーアウトレットストアを対象に、在庫削減と売り上げの最大化を目的とした活動を行っている。

 ティップス氏たちは2017年5月よりMDOを進めている。

 ご存じの方が多いだろうが、「マークダウン」とは「値下げ」だ。ファクトリーアウトレットでは一般的に、商品の価格を一般の店舗価格より下げて販売する。また、アウトレットにおける売り上げの推移を見て、追加的に値下げを行い、販売の促進を図る。こうした取り組みにより、シーズン終了時の商品在庫を可能な限り減らそうとする。

 在庫をゼロにすることだけが目的であれば、全品目について大幅な値下げを行うだけで済む。だが、それではブランド価値が毀損するし、売り上げで会社に貢献できないことになる。そこでティップス氏の部署が日常的に頭を悩ませるのは、「どの商品を」「いつ」「どれくらい」値下げするかという判断だ。

 ティップス氏たちのチームでは、各商品の在庫と売り上げデータを集計したスプレッドシートとのにらめっこで、この判断を行ってきた。

 しかし、西欧のアウトレットでは、各シーズンで総計約4万の品目を扱っている。各品目について、きめ細かなマークダウンを実行する余裕はない。結局のところ、シーズン終了直前に、多数の品目を同時にマークダウンすることになりがちだった。

マークダウン最適化では、統計予測で各品目のマークダウン率や時期を自動的に計算し、提示する。一般的に、きめ細かなマークダウンが実行できる

 また、欧州共同体のおかげで、「欧州は1つ」と言われることもあるが、国によって消費者の購買力やそれぞれのスポーツについての感じ方に違いがある。価格管理は、少なくとも国単位で個別に考えなければならない。可能であれば、ファクトリーアウトレットストア単位で、個別に管理したい。

 人手による価格調整作業は、スタッフにとって大きな負担だ。きめ細かな対応ができないばかりか、作業の効果も検証しにくく、知見が蓄積されにくい。

 そこでティップス氏たちは、統計分析を活用し、自動的なMDOを推進することにしたという。

 ツールとしては、SASの「SAS Markdown Optimization(SAS MDO)」という、その名もズバリなソリューションを採用した。このツールは、在庫と売り上げのデータに基づき、「どの商品を」「いつ」「どのストアで」「どれくらい」値下げすれば、シーズンの終わりの在庫レベルを最小化し、一方で売り上げおよびマージンを最大化できるかについて、レコメンデーションを提示する。

 より詳しく言えば、各ストアにおける各品目の需要データおよび在庫データ、シーズン終了後に達成したい在庫レベル目標、価格変動に対する消費者の反応(売れ行きの変化)といったデータから、在庫クリアランスと売り上げ/収益の最大化という観点で、最適な値下げ戦略を提示する。

 だが、SAS MDOは完全に自動で最適な答えを出してくれる「魔法の箱」ではない。adidasでは、予測モデルのチューニングや、レコメンデーションの適用手法を含めて、数々の試行錯誤を繰り返してきたという。

マークダウン最適化は、具体的にどう行われているか

 SAS MDOを使ったadidas西欧ファクトリーアウトレットのためのMDOは、現在次のように行われている。

adidasの西欧アウトレットを対象としたMDOのプロセス

 まず、マークダウンを行う頻度や間隔などをビジネスルールとして設定。これに基づいてSAS MDOを運用する。毎週、アウトレットストア単位の各品目の売り上げデータを、IT部門が投入。一方、データサイエンティストは予測モデルのチューニングや効果の計測を継続的に行う。

 SAS MDOは毎週、マークダウンをすべき品目と場所、値下げ幅について、予測モデルに基づいてレコメンデーションを示す。これについて、ティップス氏のチームと各商品カテゴリーのマーチャンダイズマネージャーが協議して、マークダウンを実行するかどうかを決める。マークダウンが決まれば、これを実行に移す。このサイクルを、毎週繰り返す。

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