adidasにおけるMDOの取り組みで、最も大きな課題となったのは、上記のマーチャンダイズマネージャーの協力をどう獲得するかにあったという。
「最大の課題は、人という観点でのチェンジマネジメントにあった。マーチャンダイズマネージャーは、商品に思い入れがある。このため、当初はマークダウンの承認率が30〜40%にとどまってしまった。そこで、マークダウンを拒否する理由を伝えてもらい、対策としてどのようなことができるかを、データサイエンティストとともに探り、これを実行に移した。今では承認率が70〜80%に上昇している」(ティップス氏)
現在ではビジネスユーザー同士で、特定品目について別のシナリオを試す、あるいはレコメンデーションに従わずに人の判断した内容でマークダウンを実行する、といった選択肢も用意しているという。ただし、このような選択をした場合には、必ず効果を計測し、結果を別の選択肢と比較するようにしているという、
では、ツールを使ったマークダウン最適化は、どのような効果をもたらしたのか。adidasでは、MDOを適用した商品と、これに似た特性を持つが、何らかの理由でMDOを適用しなかった商品について、結果をシーズン終了後に比較した。
この結果を示したのが下の図。MDOを適用した商品は、当初在庫の92.3%を売り切ることができた。一方、MDOを適用していない商品は、在庫の86.9%が販売された。すなわちMDOによるシーズン終了後の在庫減少効果は大きい(非MDOの場合の13.1%に対して7.7%)ことになる。値引き率についても、図にあるように改善している。
ティップス氏が強調するのは、図の左側の折れ線グラフだ。上側の線はMDO対象品目、下の線はMDOを実施しなかった品目の、シーズン中の累積売り上げの推移だ。非MDO対象品目は、シーズンの終わりにかけて販売数が伸びる傾向があるが、MDO対象品目では、シーズンを通じて、売り上げがかなり平準化していることが分かる。
「このことは、各ファクトリーアウトレットストアのオペレーションにも良い影響を与えている」とティップス氏は話した。販売スタッフ数の調整をする必要性が減少するからだ。また、それ以前の事実として、従来は多数の商品に集中してマークダウンを実施する結果になっていたため、値札の付け替え作業では店舗スタッフに大きな負荷が掛かっていた。それが、MDO導入後は、マークダウンの時期が分散するため、一度に実施する値札付け替え作業は少量で済むようになったという。
また、ティップス氏たちの部署は、シーズン中の価格変更に多くの時間を費やす必要がなくなり、ファクトリーアウトレットストアに投入する際の価格を判断することに、より多くの時間を割けるようになったという。
さらに、MDOを通じ、店舗ごとに品目別の整理されたデータが得られることで、各品目につき、特定のアウトレットストアにそもそも投入すべきかどうかが判断しやすくなった。また、価格に対する消費者の反応を見ることで、特定品目の売れ行きが比較的好調な他のストアへ、商品を移動することも、考えられるようになったという。
このように、adidasにおけるMDOは、既にある程度の成果をもたらしているものの、ティップス氏は「始まったばかり」と話す。
例えば、ビジネスルールおよび予測モデルについては当初、一般的なものを全店舗に適用していた。試行錯誤を重ねながら、店舗別のカスタマイズを進めようとしているところだという。
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