製造品質の管理、工場系システムの問題予兆検知、プロアクティブな対応などを狙い、日本の製造現場にも着実に浸透が進むIoT。だが“ITとOTの融合”には複数の課題が横たわっている。これをどう解決するか。日本ストラタステクノロジー 代表取締役社長 松本芳武氏に聞いた。
日本ストラタステクノロジーは、新たな製品ラインとして、産業用システム向けのゼロタッチエッジサーバ「Stratus ztC Edge」(以下、ztC Edge)を2018年9月19日に発表した。同社ではこれまで、バックエンドのミッションクリティカルシステム向けに高可用性のプラットフォームやソフトウェアを提供してきたが、今回の「ztC Edge」は、エッジコンピューティング専用に設計・開発した、初のアプライアンス製品となる。今、エッジコンピューティングにフォーカスした製品をリリースした背景と狙いについて、日本ストラタステクノロジー 代表取締役社長 松本芳武氏に話を聞いた。
日本ストラタステクノロジーは、ミッションクリティカルシステムのダウンタイムを回避するための高可用性ソリューションとして、独自開発の無停止型(FT:フォールトトレラント)オペレーティングシステム「VOS」、x86系のオールインワンFTサーバ「ftServer」、オープン系PCサーバでFT運用を実現する高可用性ソフトウェア「everRun」を展開しており、エンタープライズ企業に多数の導入実績を持つ。
新たに発表した「ztC Edge」は、この3つの主力製品とは異なるアプローチで、エッジコンピューティングの領域を狙う第4の戦略製品と位置付けられる。これまでミッションクリティカルシステムをターゲットにしてきた同社が、エッジコンピューティング向け製品を投入する背景について松本氏は次のように話す。
「当社のFTソリューションは、主に社会インフラや金融機関などミッションクリティカルな用途で活用されてきた。しかし近年では、バックエンドのデータセンターだけではなく、データソースに近いエッジコンピューティングで使われるケースも急増している。実際に、ワールドワイドの2018年2月期の業績では、金融分野の売上を、産業オートメーション分野の売上が初めて上回った。こうした状況を受け、エッジコンピューティングに特化したFT製品を提供する必要があると判断し、『ztC Edge』を開発するに至った」
また、同社がエッジコンピューティング領域を狙う、もう一つのキーワードとして挙げているのが「I(Industrial)IoT」(産業分野のIoT)だ。現在、産業オートメーション分野のOT(Operational Technology)の現場にもIoTセンサーやコネクテッドデバイスが急速に普及しつつあり、今後IoTによって生成されるデータの多くがネットワークエッジに保存され、処理・分析・利用されると見込まれている。
「IoTデバイスの利用拡大に伴い、ネットワークエッジで発生するデータ量は飛躍的に増大している。例えば、温度や振動のセンサーデータでは、1日に100TBものデータが発生するケースもある。この膨大なデータを全てクラウド上に格納し、処理・分析するのは現実的ではない。そこで、データが発生する現場で処理を行うエッジコンピューティングが重要な役割を担うことになる」
だが一方で、現在のエッジコンピューティングは、IIoTの実現に向けてさまざまな課題を抱えているのが現実だという。
「例えば、今OTの現場で使われている一般的なエッジサーバには、管理・運用にITスキルが必要であり、ITを理解できる人材が求められる。また、機能ごとに複数のサーバを設置する必要があり、各サーバ単体でしか可用性が担保されない。さらにクラウドへの接続においては、現場機器との接続性やトラフィック遅延の問題、セキュリティ面での不安も残っている」
これらの課題を解決し、OTの現場にエッジコンピューティングインフラを提供するべくリリースしたのが、今回のゼロタッチエッジサーバ「ztC Edge」だ。同製品は、単一のシステムとして動作する冗長ノードで構成され、全ての機能をあらかじめ組み込んだ完全統合型アプライアンスである点が大きな特長だ。これにより、「OTの現場スタッフでも特別なITスキルを必要とせず、ケーブリングと数回のクリックだけで、わずか30分でセットアップを完了できる。実際に、社内でセットアップのテストを実施したところ、誰でも30分以内にインストレーションを行うことができた」という。
また、仮想化プラットフォーム「Stratus Redundant Linux」を内蔵。最大3台のWindowsまたはLinux仮想マシンで、異なる産業用制御アプリケーションやIoTアプリケーションを実行できる。これにより、複数のエッジサーバを設置することなく、IoTデータの処理、分析、機械学習などの機能を利用できる。
可用性についても自律的な保護機能が組み込まれており、ワークロード移行、データ複製、冗長ネットワーキングにより、中断のないシームレスなフェイルオーバーを実現。また、最新パッチの適用やトラフィック監視、ハードウェアとOS、BIOS、仮想化基盤の自己監視およびアクセスコントロールなどにより、高度なセキュリティも担保。「次期フェーズでは、アプリケーションも含めたフルスタックでの自己監視に対応していく」としている。万一の障害発生時にはノードのホットスワップ、フルユニット交換が可能。ワンクリックで自動復旧できる機能を備えている。
保守サービスメニューも充実させたという。具体的には、24時間×7日のWeb・電話サポートや障害時の原因分析などを提供する基本保守サービスに加え、オプションとして「システム健全性監視サービス」を用意している。
「システム健全性監視サービスでは、セキュアなネットワークを経由して、24時間×7日のリモート監視、アラーム分析および対処、故障の予兆分析などを提供する。これにより、OTの現場では、故障が発生する前に予兆を察知して、重大な問題に発展する前に潜在的な段階で対処することが可能になる」という。この他、日本独自のサービスメニューとして、産業用システム分野のニーズに合わせて最長10年の長期保守も提供。3年/5年/7年/10年の一括契約、または10年までの単年度契約に対応するなど、OT現場における課題や不安を徹底的に解消するよう配慮した。
「ztC Edge」のターゲット分野としては、スマートマニュファクチャリング(ロボティクスと機械学習)、エネルギーや電気・水道など社会インフラ(スマートグリッド)、施設管理とセキュリティ(ビデオ分析)、自律型の交通・運輸、小売・配送などを想定。既に海外では「ztC Edge」の導入が進みつつあり、大手石油化学企業や燃料電池の発電システム会社、家族経営の飲料・食品加工業者など、規模を問わず幅広い業種の企業に適用されているという。
また、産業分野向けにAI/機械学習をエッジコンピューティング領域で提供するFogHorn Systemsは、「ztC Edge」との組み合わせで、工場の複数ラインからのデータを「ztC Edge」上に集約。リアルタイムな可視化、分析、検知、判断、モデル化を並行して行うソリューションを展開している。
日本市場での販売展開について松本氏は、「日本は、IT領域とOT領域を両方手掛けているベンダーが多いため、そうしたパートナー企業との協業展開を進めていく」と話す。また、FA(ファクトリーオートメーション)とITとの協調を目指している「Edgecrossコンソーシアム」や、三菱電機が推進するFAパートナープログラム「e-F@ctory Alliance」に参画し、OT領域の新たなパートナーの開拓にも積極的に取り組んでいくという。
松本氏は、「『ztC Edge』は、『シンプル』『万全のセキュリティ』『自律性』をコンセプトに、OTの現場に負荷をかけずに、エッジコンピューティングに効果をもたらすゼロタッチの高可用性エッジサーバとなっている。これを機に、産業用システム分野へのIIoT浸透を将来にわたってサポートしていく計画だ」と述べ、まずは従来の産業用コンピュータから「ztC Edge」へのリプレース提案に力を注いでいくと意欲を見せた。
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