多くの企業が、デジタルトランスフォーメーションにどこから手を付ければよいかで悩んでいる。デジタルビジネスへの変革を進めるに当たっては、まず出発点を設定すべきだ。出発点は4つに大別される。
ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。
デンマークのコペンハーゲンでは、心臓発作が起こった場合の生存率が高いことをご存じだろうか。コペンハーゲンの救急隊員が、心停止の判断に仮想エージェントを利用するようになったからだ。人間の救急隊員による心停止の認識率は73%だが、初期データでは、人間の救急隊員が仮想エージェントを利用する場合の認識率は95%に達している。これは、人工知能(AI)がどのようにデジタルトランスフォーメーションに道を開き、マシンが組織に価値をもたらすかを示す一例だ。
「こうした事例は、CIOが、人々が考えるビジネスの将来像を変えるのに役立つ」と、Gartnerのバイスプレジデント兼ディスティングイッシュトアナリスト、クリスティン・モイヤー氏は説明する。
「われわれの調査によると、リーダーの66%がデジタルトランスフォーメーションを目指しているが、デジタルビジネスを実現しているリーダーは11%にとどまっている。自社が既にデジタルトランスフォーメーションを果たしているかどうかを判断するには、『利益を上げる方法を変えたか』『価値を生み出す方法を変えたか』といった質問を自問するとよい。答えが『いいえ』なら、まだやることがあるということだ」(モイヤー氏)
だが、多くの組織がデジタルトランスフォーメーションの取り組みに、どこから手を付けるべきか悩んでいる。Gartnerの調査では、約57%の組織がデジタルビジネストランスフォーメーションの出発点を見いだしていない。CIOはビジネスリーダーと協力し、出発点として設定できる4つの候補から最適なものを選択して、そこからデジタルトランスフォーメーションの取り組みを展開するとよい。
コネクテッド化は多くの場合、トランスフォーメーションではなく最適化の取り組みだ。組織はIoT(モノのインターネット)や専用デジタルプラットフォームのような技術を実装することで、デリバリー時間の短縮やデバイスの有効活用、生産性向上を目指す。組織がコネクテッド化を利用して新しい方法で利益を上げるようになると、トランスフォーメーションが始まる。例えば、こうした新しい利益創出の方法として、組織が生成されたデータを使って売り上げにつながる新サービスを開発したり、バリューチェーン全体にわたってデータの可用性と可視性を高めたりといったことが挙げられる。
自律技術により、マシンは人間を支援し、人間はマシンの力を引き出す。「コペンハーゲンで心停止の判断に使われている仮想エージェントは、自律アプローチの好例だ。AIに基づき、リアルタイムの音声分析や高度な機械学習を利用して、緊急通報が行われた状況から手掛かりを見つける。新しいビジネスモデルを構築するために、技術プロバイダーは緊急対応当局に、リソースの効果的な配分に役立つ匿名の患者データを販売するかもしれない」と、モイヤー氏は語る。
組織はエンパワーメント(能力や自由の拡大促進)の手法により、顧客やビジネスエコシステムパートナーが自らのために価値を生み出せる。これにより、価値の創造が行われる可能性を高められる。こうした手法の一例が、医師が立ち会わなくても人々が自宅で基本的な検査を自分でできるようにする、医療IoTデバイスの提供だ。
「検査キットにより組織は新しい収入源を開発するとともに、パートナーと顧客のできることや選択肢を増やしている。医療機関は医師に基本的な検査の代わりに、より高度な職務に当たってもらうことができ、患者は医療施設に足を運んで待合室で時間を浪費せずに済む」と、モイヤー氏は説明する。
プログラマブル化を出発点として設定する場合は、ビジネスモデルとオペレーションモデルの両方の変革に取り組むことになる。目的は、自組織による価値の創造と提供に、他の関係者に貢献してもらう仕組みを作ることだ。これはAPI、オープンソース技術、ブロックチェーンによって実現する。
「例えば、銀行業界では、一部の銀行はサービスの一部を誰もがAPIで利用できるようにしている。APIの呼び出しに料金を課したり、デジタルアイデンティティー(ID)のような新商品を販売したりすることで、この取り組みから新たな収入源が生まれる可能性がある」(モイヤー氏)
出典:Choose Your Digital Transformation Starting Point(Smarter with Gartner)
Director, Public Relations
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