前回は、Windows Server 2019のActive Directoryドメインサービス(AD DS)がWindows Server 2016とほとんど変わらず、新機能は存在しないことを解説しました。ただし、下位互換性という点では、Windows Server 2016が最後のバージョンになることも説明しました。今回は、その点を実際に確認してみました。
新しいOSが、既に製品サポートの終了したOSに対するサポート(製品サポートと動作保証の両方)を提供しないことや、製品サポートが終了したOSとの組み合わせ利用を想定していないことは、多くの利用者が承知しているところだと思います。
Windows Server 2016のリリース時、サポート対象から外されたのはWindows Server 2003/2003 R2です。例えば、以下のドキュメントにある通り、Windows Server 2016のActive Directoryからは、Windows Server 2003への対応機能が部分的に削除されました。
上記ドキュメントの見出し「ファイルレプリケーションサービス(FRS)とWindows Server 2003の機能レベルの廃止」だけを見ると、FRSと「Windows Server 2003」のフォレスト/ドメイン機能レベルがWindows Server 2016で廃止されたように受け取れます。しかし、この「廃止」は「Deprecation」を翻訳したもので、実際には「非推奨」や「将来廃止予定」という意味合いになります。
見出しに続く説明には「Windows Server 2003のドメインとフォレストの機能レベルは引き続きサポートされますが、組織がSYSVOLレプリケーションの互換性とサポートを将来にわたって確保するためには、Windows Server 2008(またはそれ以上)の機能レベルに上げる必要があります」とあります。
「Windows Server 2003」のフォレスト/ドメイン機能レベルは、Windows Server 2016の1つ前のWindows Server 2012 R2で非推奨になりました。Windows Server 2016でも非推奨ですが、新規フォレスト/ドメインのインストール時に「Windows Server 2003」のフォレスト/ドメイン機能レベルを選択できなくなったことが、廃止に向けて一歩進みました。
「Active Directoryドメインサービス構成ウィザード」の選択肢にこれらの機能レベルは出てきませんし、Windows PowerShellの「Install-ADForest」コマンドレットも「-DomainMode」と「-ForestMode」オプションは「Win2003」を受け付けなくなりました(画面1)。
「ファイルレプリケーションサービス(FRS)とWindows Server 2003の機能レベルの廃止」という見出しと、利用可能な選択肢からの削除という具体例を目にすると、「Windows Server 2016のActive Directoryで、Windows Server 2003のサポートは本当に削除されてしまったんだ」とか「ドメインを移行するには、間のバージョンのWindows Serverを挟まなきゃダメなんじゃないか」と思ってしまうかもしれません。
Windows Server 2016がリリースされてから2年以上経過したこともあって、実は筆者もそんな風に想像してしまうことが何度かありました。繰り返しになりますが、Windows Server 2016のActive Directoryは「Windows Server 2003のドメインとフォレストの機能レベルは引き続きサポート」しています。
ドキュメントで理解したつもりでも、長い時間がたつと筆者のように知識があやふやになってきます。実際に試したことがあれば、Windows Server 2016のActive DirectoryにおけるWindows Server 2003機能レベルの対応状況がしっかりと身に付いていたはずです。
Active Directoryの「フォレスト機能レベル(Forest Functional Level:FFL)」と「ドメイン機能レベル(Domain Functional Level:DFL)」は、そのフォレストやドメインに追加できる“ドメインコントローラーの最小バージョンを決めるもの”で、機能レベルによってActive Directoryで利用可能な機能(新機能)も変わってきます。
Windows Server 2016のActive DirectoryにWindows Server 2003サーバを参加させたり、Windows Server 2003のActive DirectoryにWindows Server 2016サーバを参加させたりするのは関係ありません(機能レベルとは関係なく、参加が可能です)。
「引き続きサポート」とは、「Windows Server 2003」のフォレスト/ドメイン機能レベルで構成されたActive Directoryに、Windows Server 2016のドメインコントローラーを追加できるということです(画面2、画面3)。
そのため、Windows Server 2016の「Active Directoryはファイルレプリケーションサービス(FRS)」もサポートしています。「Windows Server 2008」以上の機能レベルでは、SYSVOL共有のレプリケーションに既定で「分散ファイルシステムレプリケーション(DFS-R)」が利用されますが、「Windows Server 2003」の機能レベルではレガシーなFRSしか利用できないからです。
ちなみに、FRSのサポートはWindows Server,version 1709で削除されました。そのため、Windows Server,version 1709以降やWindows Server 2019のドメインコントローラーを「Windows Server 2003」機能レベルのドメインに追加することはできません(画面4)。
前出の画面2の「ドメインコントローラーを追加できくなる可能性」という警告は、その通りに実施されました。「Windows Server 2003」機能レベルで運用中のActive Directoryがまだある場合は、Windows Server 2016がドメインの移行に使える最後のバージョンということになります。
というわけで、Windows Server 2016のActive Directoryは、Windows Server 2003で構築されたActive Directoryを、中間バージョンのWindows Serverを経由することなく、直接移行可能な最後のWindows Serverになります。
シンプルなシングルドメイン構成であれば、以下に紹介する手順で簡単に「Windows Server 2003」機能レベルから「Windows Server 2016」機能レベルのフォレスト/ドメインに移行できるはずです(図1)。移行してしまえば、将来のOSバージョンへのドメインのアップグレードで、当面、悩むことはなくなるはずです(ちなみに、Windows Server 2019でも最上位の機能レベルは「Windows Server 2016」です)。
「Windows Server 2003」フォレスト/ドメイン機能レベルのActive Directoryドメインに、Windows Server 2016のメンバーサーバをドメインコントローラーとして追加する。
Windows Server 2003のドメインコントローラーが所有している操作マスター(FSMO)の5つの役割を、全てWindows Server 2016のドメインコントローラーに転送(または強制移行)して、Windows Server 2003のドメインコントローラーをメンバーサーバに降格し、その後、サーバを撤去する(画面5)。
ドメインコントローラーがWindows Server 2016だけになったら、ドメインの機能レベルとフォレストの機能レベルを「Windows Server 2016」に上げる(画面6)。
「DFSMIG.exe」ツールを実行して、SYSVOL共有のレプリケーションをFRSからDFS-Rに移行する(画面7)。
今回筆者は、Windows Server 2008のドメインコントローラーをWindows Server 2003と見立てて、「Windows Server 2003」機能レベルから「Windows Server 2016」機能レベルのフォレスト/ドメインに移行できることを確認しました。参考資料も示しましたが、比較的スムーズに短時間で完了しました。
スキーママスターがうまく転送できないというトラブルはありましたが、操作マスターの強制移行の方法で簡単に回避できました。ただし、Windows Server 2003を実行するドメインコントローラーではないため、Windows Server 2003でも同じようにスムーズに行くかどうかは、やってみなければ分かりません。
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP:Cloud and Datacenter Management(Oct 2008 - Sep 2016)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows Server 2016テクノロジ入門−完全版』(日経BP社)。
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