Windows Server 2019は、Windows Serverの長期サービスチャネル(LTSC)の最新バージョンとして2018年10月にリリースされ、同年11月中旬に再リリースされました。製品ラインアップは「Datacenter」「Standard」「Essentials」の3エディション。今回は、“Essentialsエディションの実体”に迫ります。
Windows Server 2019の3エディション(Datacenter、Standard、Essentials)の価格と用途、機能差については、以下の製品サイトで説明されています。
Datacenter/StandardとEssentialsの最も大きな違いは、ライセンスモデルです。このライセンスモデルは、Windows Server 2016から採用されました。
Datacenter/Standardは、サーバのコア数に基づいて必要な数を購入する「コアベースのライセンス」に加えて(ただし、コア数が少なくても最小16コアライセンスは必要)、サーバ機能にアクセスするユーザー数またはデバイス数に基づいて必要な数を購入する「Windows Serverクライアントアクセスライセンス(CAL)」が必要です。最小16コアライセンスの参考価格はDatacenterが6155ドル、Standardが972ドルで、これとは別にWindows Server CALを購入する必要があります。
これに対して、Essentialsはコア数に関係なく、1台のサーバにライセンスされる「サーバライセンス」であり、Windows Server CALが不要で、最大25ユーザーおよび50デバイスからサーバ機能にアクセスできます。1サーバライセンスの参考価格は501ドルです。25ユーザーおよび50デバイス以上の規模に対応するために、Windows Server CALを追加するというオプションは存在しません。
各エディションには利用可能なサーバの役割と機能に違いがありますが、それは後述するとして、ライセンスされたサーバで、そのライセンス内で実行が許可されるOSE(オペレーティングシステム環境)の数の違いというものもあります。
Datacenterは無制限、Standardは物理サーバまたは仮想マシン(Hyper-Vコンテナを含む)で最大2つまでのOSEにWindows Serverをインストールして使用できます。Standardで物理サーバを仮想マシンの管理だけに使用する場合は、仮想マシンの2つのOSEに加えて、物理サーバに3つ目のOSEをインストール可能です。そして、Essentialsは物理サーバと仮想マシンで各一つずつ、Windows Serverをインストールして使用できます。
Datacenterは文字通り、高密度に仮想化されるデータセンター向け、Standardは物理サーバまたは小規模な仮想環境向け、Essentialsは最大25ユーザーおよび50デバイスまでのスモールビジネス向けのエディションということになります。
しかし、Essentialsにはスモールビジネス向けに特化した機能が用意されているわけではありません。先に言ってしまうと、Essentialsのメリットは「ライセンスコストを小さくできる」ということ以外にありません。
Windows Server 2016以前のEssentialsエディションは、新規インストールすると「Windows Server Essentialsの構成」ウィザードが自動的に開始し、会社情報など最小限のパラメーターを入力するだけで、Active Directoryドメインサービスのインストールを含め、サーバの構成を完了してくれるという機能がありました(画面1)。
その後、「Windows Server Essentialsダッシュボード」を使用することで、追加の機能のセットアップを簡単に行えました(画面2)。
具体的には、ユーザーアカウントの追加や共有フォルダのセットアップ、サーバやクライアントのバックアップ、Anywhere Access(リモートWebアクセスポータルを使用したリモートデスクトップ接続や共有フォルダへのアクセス、およびVPN接続)のセットアップ、Microsoft AzureやOffice 365との統合(Azure Active Directory、Office 365、Microsoft Intune、Azure Backup、Azure Site Recoveryなど)のセットアップなどです。
この機能は「Windows Server Essentialsエクスペリエンス」(以下、Essentialsエクスペリエンス)の役割が提供するもので、Windows Server 2016のDatacenterやStandardエディションにも提供されていました。
Essentialsエクスペリエンスは、サーバにWindowsコンピュータ(Windows 7以降)およびMacコンピュータ(Mac OS X 10.5以降)をクライアントとして接続するためのコネクターソフトウェアも提供します。Essentialsエクスペリエンスは、WindowsやMacのスモールビジネス環境を簡単に整備できるサーバの役割というわけです。
Windows Server 2019からは、Essentialsエクスペリエンスの役割が削除されました。Windows Server 2019 Essentialsにもこの役割は含まれません。つまり、簡単なサーバの構成や機能のセットアップはできませんし、クライアントをWindows Server 2019 Essentialsに接続するためのコネクターソフトウェアも提供されません(画面3)。
Windows Server 2019の役割や機能、クラウドサービスをマニュアルでセットアップすることで(画面4)、ファイル共有環境やリモートアクセス環境を構築することはできますが、クライアントのバックアップ機能とリモートWebアクセスは完全に利用できなくなります。
なお、Windows Server 2016 Essentialsは、ライセンス条項において、当該サーバソフトウェアを単一のドメインコントローラー、ドメインフォレストのルート、子ドメインではないこと、他のドメインとの信頼関係がないという構成のActive Directoryドメインで実行しなければならないという制限がありました。
同じ制限は、Windows Server 2019 Essentialsのライセンス条項にも記載されています。このライセンス条項に従うには、マニュアルでActive Directoryドメインをインストールして構成する必要があります。
Windows Server 2019 Essentialsの180日評価版ダウンロードサイトや公式ドキュメント、製品条項(PT)などに、Essentialsエクスペリエンスの機能やコネクターソフトウェアが含まれるかのような記述がありますが、これはWindows Server 2016 Essentialsのサイトやドキュメントのバージョンを書き換えただけのミスだと思います(画面5)。
この事実を知らずに旧バージョンからアップグレードしようと製品版を購入してしまうと、アップグレードや新規インストール後に、目的の機能が見つからないという状況に初めて気が付くということが予想されます。
そのような失敗を避けるために、購入前に評価版で試用することをお勧めします。ただし、Windows Server 2019 Essentials評価版を、評価終了後にWindows Server 2019 Essentials製品版へ切り替える(変換する)ことはできません。
なお、Windows Server 2016 EssentialsからWindows Server 2019 Essentialsへのインプレースアップグレードがサポートされるかどうか、現時点で明確な情報は見つかりませんでした。
試しにアップグレードを強行してみたところ(ウィザードで作成した管理者ではActive Directoryスキーマの拡張に失敗するので、Administratorアカウントを有効化して実行)、Active Directoryドメインと「C:\ServerFolders」内の共有フォルダ、その中に格納されていたデータは引き継ぐことができましたが、Essentialsダッシュボード(C:\Windows\System32\Essentials\Dashboard.exeなど)は削除され、正常に機能しないEssentials用Webサイト(/connectや/remoteなど)の仮想ディレクトリが残ってしまう結果となりました。
Windows Server 2016 Essentialsは長期サービスチャネル(LTSC)リリースなので、メインストリームサポートが「2022年1月11日」まで、延長サポートが「2027年1月12日」まで提供されます。
Essentialsエディションにライセンスのメリットではなく、スモールビジネス環境向けの機能を期待しているのなら、そうした機能を備える最後のバージョンであるWindows Server 2016 EssentialsやWindows Server 2016 Standard/Datacenterの導入を検討した方がよいかもしれません。
Windows Server 2016の180日評価版は現在でも入手可能です。ただ、正式にサポートされるWindowsクライアントはWindows 8.1までです。Windows 10にもコネクターを導入してクライアントにできるようですが(少なくともWindows 10 バージョン1809までは可能です)、今後リリースされるWindows 10の新バージョンで問題が発生しないとは言い切れません。
Essentialsエクスペリエンスの役割が削除されたことで、Windows Server 2019 Essentialsは、機能的にWindows Server 2019相当であると思う人がいるかもしれませんが、それは全く正しくありません。
Windows Server 2016 EssentialsとWindows Server 2019 Essentialsでの役割と機能の差異と、Windows Server 2019のエディション間の役割と機能の差異を調べてみました。
Windows Server 2019 Essentialsには、Essentialsエクスペリエンスだけでなく、「リモートデスクトップサービス」のほとんどの役割サービスが含まれなくなったことにも注意が必要です(リモートデスクトップライセンスのみ含まれます)。Windows Server 2016 Essentialsでは、リモートWebアクセスが「リモートデスクトップゲートウェイ」の役割サービスを利用していました。リモートWebアクセスが削除されたので、不要になった役割サービスも削除されたのでしょう。
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP:Cloud and Datacenter Management(2018/7/1)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。
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