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» 2019年06月24日 05時00分 公開

丸投げしたんだから、頑張ってくださいよ(作業量は増えたけどね)「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(67)(3/3 ページ)

[ITプロセスコンサルタント 細川義洋,@IT]
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予定43.5人月→実態278.7人月

 判例の続きを見てみよう。

東京地方裁判所 平成23年4月27日判決から(要約)(つづき)

機能数の増加に伴い、開発作業が中止されるまでに下請けベンダーが実施した開発作業の工数は、278.7人月に上っている。これに対し、本件下請け契約の締結時点においては、下請け企業は、予定作業工数を43.5人月、月額単価を70万円と見積もっていたものと認められる。

そうすると、下請けベンダーが実施した開発作業の工数の実績値は、本件下請け契約締結時の見積もりの約6.4倍に相当する作業量であり、代金額にして1億9509万円に上るものである。

以上のように、開発に要する作業量が著しく増大したことによって、開発作業は、本件下請け契約が締結された時点とは、その内容において著しく異なることとなり、これに伴って、必要作業量も著しく増大したものであって、その前提が契約締結当初とは根本的に異なるものとなってしまったということができる。

これに照らせば、元請けベンダーが下請けベンダーに対し、プロジェクトを全面的にストップする指示を受けた時点においては、(下請けベンダーが)開発作業を継続し、完成する義務を負っていたと解することはできない。従って、下請けベンダーが、作業を中止したことは、本件下請け契約についての債務不履行を構成しないというべきである。

 「下請けの債務不履行はなく、そこまでにかかった費用は支払え」という判決だ。金額は「1億8000万円」。要求通りとはならなかったが、下請け側の勝訴と考えていいだろう。

 単に「追加見積もりが合意に達しなかった」ということであれば、もともとの契約にあった部分についての債務不履行が認められる余地もあったかもしれないが、本件の場合「当初の予定とあまりにも懸け離れた作業内容となったので、契約自体が既に破綻している」とする考え方だ。

 要するに、機能追加の大きさが分かった時点で、別の契約を結ばなければならなかったし、元請けはその時点で、下請けの作業をいったんストップさせなければならなかった(他の判決にもあるように、受注者が作業をしているのを知りながら、発注者がこれを止めないと、実質的な発注と見なされ、契約なしでも費用の支払いを命じられる場合がある)。

 これがもっと小さな機能追加であるなら、そこまでの必要はなかったかもしれないが、これだけの規模になったら、もはや当初契約は何の役にも立たないものになったと見なされるのだ。

 スケジュールが苦しい中、いったん作業を止めて見積もりの合意を待つのは、元請けにとっても、下請けにとっても、あるいはユーザー企業にとっても好ましい話ではない。

 だが、実質的に破綻した契約の上で作業をしたところで、本件のようにモメて、プロジェクトが破綻してしまう可能性は大きい。当初見積もりと追加の「差」を慎重に見極めて、ある時点になったら契約解除と再契約、そして必要なら「そもそもシステム開発を行う動機となった経営計画そのもの」も第三者が見直す必要すら出てくる。

 システム開発のためにそこまでやる必要があるかと思う方もいるかもしれないが、例えるなら、「店の建築が遅れたら、開店時期を遅らせざるを得ない」という、ごく常識的な話である。

細川義洋

細川義洋

政府CIO補佐官。ITプロセスコンサルタント。元・東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員

NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。

独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまで関わったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。

2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わる

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