多数の事例取材から企業ごとのクラウド移行プロジェクトの特色、移行の普遍的なポイントを抽出する本特集「百花繚乱。令和のクラウド移行」。カブドットコム証券の事例では、オンライン証券取引における課題とネットワーク機能の移行ポイントを中心にお届けする。
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オンプレミスのシステムで証券サービスを提供してきたカブドットコム証券。しかし、証券取引のトラフィックは大量かつ変動が激しい。高度なセキュリティも必要。しかも自前の運用で。加えて、停止が決して許されない。これらはいずれも高コストなのが課題だった。
これらの課題を低コストで解決するため、Amazon Web Services(AWS)を選択。試算ではネットワークコストを40%強削減できるという。「AWS Summit Tokyo 2019」に登壇したカブドットコム証券 システム技術部 部長の宮本喜与士氏の講演「【カブドットコム証券様登壇事例】クラウド化の価値はネットワークにあり 〜その恩恵と検討ポイントとは〜」からクラウド移行のポイントを探る。
カブドットコム証券は、日本オンライン証券とイー・ウイング証券の統合によって、インターネット専業の証券会社として2001年に設立された。三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)におけるネット金融サービスの中核にあり、「顧客投資成績重視」を理念として事業を展開している。グループ内で先端技術を追う立場でもあり、FinTechの取り組みにも余念がなく、貸株業務や売買審査などにAI/機械学習を活用するなど積極的だ。
「当社では2020年に向けて、ネット証券からMUFG×KDDIデジタル金融企業へと進化し、デジタルイノベーションのフロントランナーとして、『先進性No.1』『多様性No.1』『効率性No.1』という3つのNo.1を目標とした取り組み『カブコム2.0』を推進しています。2019年のAWS移行も、その重要な施策の一つです」(宮本氏)
カブドットコム証券では、2012年に業界でもいち早く証券サービスの機能をWeb API(「kabu.com API」)として提供を開始。2018年8月にはインフラをAWSへ移行して、「次世代のFinTechプラットフォームを目指す」として話題となった。その後、テスト環境(「Amazon EC2」を活用)やコールセンターの自動案内(「Amazon Connect」を活用)など、AWS化を進め、2019年10月にもフロントシステムのAWS移行(「Amazon CloudFront」「AWS Shield」を活用)を計画している。
もともと同社では、オンプレミスのシステムで証券サービスを提供してきた。しかし、証券取引のトラフィックは大量かつ変動が激しいのが大きな課題として考えられていた。常に大量の株価データを配信しなければならず、経済や政治などの周辺環境に応じて相場が急激に変化すると「通常の3倍」というアクセスが集中することもある。オンプレミスであるため、WANだけではなくLANでの対応も必要となる。
また、オンライン証券取引は非常にセンシティブであるため、高度なセキュリティ機器や技術が必要で、しかも自前で運用しなければならない。
そして、証券サービスは停止が決して許されない。単一障害点をなくすため、インターネット接続を含めて全ての冗長化が求められた。
「大量のトラフィック、セキュリティ、可用性という3つの課題を解決するには大きなコストがかかります。最大の課題はコストでした」(宮本氏)
カブドットコム証券は、上記3つの課題を低コストで解決するため、AWSを選んだという。
Amazon CloudFrontなどを活用することで、固定された回線帯域を用意する必要がなく、変動するトラフィックへ対応できるようになる。急な相場変動でトラフィックが急増しても、回線増強は不要だという。予備回線や帯域余裕を確保しなくてもよく、コストを抑えることができる。
セキュリティについては、AWSには各種マネージドサービスが用意されており、高度なセキュリティ機能を短期間で導入することが可能であるという。サードパーティー製品が豊富で、個別の案件にも容易に対応できる。
またAWSの回線や各種マネジメントサービスも可用性が保証されているため、バックアップ回線や機器への投資は必要ないという。
「オンプレミスのような固定費用が不要で、当社の試算ではネットワークコストを40%強削減できるという結果を得ています。これがAWSを選定した要因の一つです。コンピューティングだけではなく、ネットワークやセキュリティにも魅力がありました」(宮本氏)
以前は、現場に「クラウドを導入したい」というニーズがあっても、経営層がコスト効果やセキュリティの課題を懸念して、決断が遅れるという問題があった。一方、昨今では経営者が率先して「クラウドファースト」をうたうも、「現場がセキュリティポリシーや利用ガイドラインの策定に時間がかかる」として、なかなか推進しないケースもあるという。
そこで宮本氏は、クラウド移行を推進する上で気を付けたポイントを紹介した。ポイントは大きく4つ、「モチベーション」「ナレッジ活用」「経営層の巻き込み」「育成」である。
まず、最初から100%を目指すことは避け、現場のモチベーションを保つ工夫が必要だ。開発環境や重要度の低い社内システムなどからスモールスタートし、小さな成功を積み重ねることで、大きな推進力へ変えていく。利用ガイドラインやセキュリティポリシーも、対象のシステムに合わせて拡張していくアプローチが望ましい。
新規に設計、検討することは負荷が大きいため、社内外から既存のナレッジを集めてコストを抑えることも重要だ。カブドットコム証券では、MUFGグループが保有している知見を活用できたとしている。インターネット上にあるAWSのベストプラクティスも有用で、「AWS Professional Services」の支援を活用するのもいいだろう。「ベンダーに設計などを丸投げして莫大(ばくだい)な時間とコストを浪費するのは最悪です」と宮本氏は指摘する。
経営層には、定期的な報告や勉強会、他社事例紹介など、適切なインプットを随時行う。経営判断は、リスクを完全に払拭(ふっしょく)してから行うのではなく、リスクを見極めて判断することが重要だ。
宮本氏は、社内のAWSエンジニアが適切にコントロールしなければクラウド移行は加速しないとし、AWSスキル保有者の育成は重要な施策であると指摘する。そこでAWS認定などを活用して、スキル保有者の拡大を推進している。
カブドットコム証券では、前述の計画に加えて、AI/ビッグデータ/マイクロサービスといった先端技術を活用した先進的サービスの開発や提供、「AWS Transit Gateway」を活用した内部ネットワークの最適化など、AWSの活用範囲をさらに広げて、カブコム2.0や3つのNo.1の実現を目指したいとした。
時は令和。クラウド移行は企業の“花”。雲の上で咲き乱れる花は何色か?どんな実を結ぶのか? 徒花としないためにすべきことは? 多数の事例取材から企業ごとの移行プロジェクトの特色、移行の普遍的なポイントを抽出します。
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