ISDNの終わり方に「3択」あり、あなたはどれを選ぶ?羽ばたけ!ネットワークエンジニア(25)

1988年から30年以上、企業ネットワークで大事な役割を果たしてきたISDN(INSネット)が2024年にサービス終了を迎える。2020年現在で考えるとまだ4年あるともいえる。だが、1000拠点を超えるような多拠点ネットワークでは、今からその終わり方を考えても早過ぎることはない。

» 2020年02月25日 05時00分 公開
[松田次博@IT]

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どんなスケジュールで何が行われるのか

 既によく知られていることではあるが、NTT東日本/西日本がISDN終了をどのようなスケジュールで進め、何をするのか復習しておこう。NTTの用語では「固定電話」の中に「加入電話」と「INSネット」(ISDN)が含まれる。これらが廃止され、「メタルIP電話」として提供されるようになる。理由は図1にあるように回線交換で電話を中継するPSTN(公衆電話交換網)の設備が老朽化し、保守できなくなるからだ。回線交換に代わってIPで中継するIP網へ移行する。

図1 固定電話のIP網への移行スケジュール 出典:NTT東西(2017年10月17日「固定電話のIP電話への移行後のサービス及び移行スケジュールについて」)

 

 2021年1月からNTTの電話網とKDDIやソフトバンクなど、他の電話会社との接続をPSTN接続からIP接続に切り替える作業が始まる。2024年1月からは固定電話をIP網へ収容する作業が始まり、2025年1月に完了する。作業の概要は図2の通りだ。

図2 PSTNからIP網への移行 出典:NTT東西(2017年10月17日「固定電話のIP電話への移行後のサービス及び移行スケジュールについて」)

 固定電話のうち加入電話はアナログ回線で電話局の加入者交換機に接続されており、INSネットはISDN回線で接続されている。アナログ回線は一対の回線で1番号1通話の電話にしか対応していないが、ISDNはデジタル化されており、一対の回線で2番号2通話が利用できる。

 IP網へ移行後も加入者交換機はメタル収容装置として使われる。固定電話はPSTN音声とIP音声に変換する変換装置を介してIP網へ接続される。これがメタルIP電話である。

 なお、ひかり電話を収容する光回線は「フレッツ 光ネクスト」でありフレッツ網が使われている。

3通りの対応策は何が違うのか?

 ISDNがメタルIP電話に移行する際に、多拠点ネットワークのユーザーがどう対処するか、基本的に3種類の対応策がある。「何もしない」「ひかり電話への移行」「非固定電話への移行」だ。

 図3は典型的な多拠点ネットワークの構成である。データ通信はフレッツ 光ネクストを利用し、電話とファクシミリ(FAX)は別番号でISDNを使っている。

図3 多拠点ネットワークの典型的な構成 ONU:Optical Network Unit(光回線終端装置)、CPE:Customer Premises Equipment(キャリアVPNの終端装置)、TA:Terminal Adapter(アナログ端末をISDNに接続する装置)

 一番安直な対応策は図4のように「何もしない」ことだ。拠点のメタル回線やTA、電話機やFAXといった端末もそのままで、電話とFAXを使い続けることができる。何もしないので移行の費用はかからない。これがメリットだ。デメリットはISDNの月額3530円(税別、以下同じ)という高額な基本料金を払い続けねばならないことである。1000拠点あると月額353万円、年間4236万円という大きな金額になる。

図4 対応策その1 何もしない ONU:Optical Network Unit(光回線終端装置)、CPE:Customer Premises Equipment(キャリアVPNの終端装置)、TA:Terminal Adapter(アナログ端末をISDNに接続する装置)

 2番目の対応策はひかり電話へ移行することだ(図5)。フレッツ 光ネクストにホームゲートウェイを付け、データ通信用のCPEをLANポートに接続し、電話/FAXを電話ポートに接続する。電話やFAXの電話番号は変わらず、そのまま移行できる。

 ひかり電話へ移行するメリットは基本料金を大きく削減できることだ。フレッツ 光ネクストでひかり電話を使う場合の基本料金は月額500円で済む。ISDNの基本料3530円が500円になるので、1拠点当たり3030円、1000拠点だと月額303万円、年額3636万円節減できる。

図5 対応策その2 ひかり電話への移行 HGW:ONU一体型ホームゲートウェイ、CPE:Customer Premises Equipment(キャリアVPNの終端装置)

 デメリットは移行工事の費用が必要であること。だが、3年以内で余裕を持って回収できる。その後は削減効果だけを享受できる。

 せっかく移行の手間をかけるのであれば、同時にIPv4で使っていたデータ通信をIPv6に移行するとよい。キャリアVPNとの接続にPPPoE(Point to Point Protocol over Ethernet)を使うIPv4からIPoE(IP over Ethernet)を使うIPv6に変更することで、Windows Updateなどによるフレッツ網の輻輳(ふくそう)の影響を軽減できるからだ(関連記事)。フレッツ 光ネクストのIPv6オプションは無料なので月額費用は増えない。

ISDNから移行する際に付加価値の高いコミュニケーションサービスを狙おう

 3番目の対応策は非固定電話への移行だ。最大の狙いはISDNの高い基本料をなくすることだが、それだけでなく、削減した費用を使って電話/FAXに加えてビデオ会議やビジネスチャットといった付加価値の高いコミュニケーションサービスを実現しやすい。

 ただし、図6のように電話機としてLANに接続できるIP電話機が必要だ。FAXは使えない。ひかり電話と違ってIP網内でパケットの遅延を抑制したり、帯域を確保したりする仕組みがないため、みなし音声で伝送してもFAXが送受できる保証がないからだ。

 スマートフォンでは、コミュニケーションサービスのアプリケーションを使うことで、内線電話やビデオ会議を実現できる。

図6 対応策その3 非固定電話への移行 CPE:Customer Premises Equipment(キャリアVPNの終端装置)

 ISDNの終了は企業ネットワークを見直す契機である。何もしないという消極的な対応もあれば、非固定電話への移行という積極案もある。5年先、10年先までを見据えたネットワーク高度化のプランを提案して、ネットワークエンジニアの存在価値を発揮したいものだ。

筆者紹介

松田次博(まつだ つぐひろ)

情報化研究会主宰。情報化研究会は情報通信に携わる人の勉強と交流を目的に1984年4月に発足。

IP電話ブームのきっかけとなった「東京ガス・IP電話」、企業と公衆無線LAN事業者がネットワークをシェアする「ツルハ・モデル」など、最新の技術やアイデアを生かした企業ネットワークの構築に豊富な実績がある。企画、提案、設計・構築、運用までプロジェクト責任者として自ら前面に立つのが仕事のスタイル。『自分主義-営業とプロマネを楽しむ30のヒント』(日経BP社刊)『ネットワークエンジニアの心得帳』(同)はじめ多数の著書がある。

東京大学経済学部卒。NTTデータ(法人システム事業本部ネットワーク企画ビジネスユニット長など歴任、2007年NTTデータ プリンシパルITスペシャリスト認定)を経て、現在、NECセキュリティ・ネットワーク事業部主席技術主幹。


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