2024年にサービスが終了するISDN(Integrated Service Digital network)。今も多くの店舗やオフィスで電話、ファクシミリ用の回線として役立っている。今回はISDNが担ってきた電話やFAXをデータ通信用のフレッツに統合し、コスト削減や利便性の向上を図る方法について紹介する。
1988年にサービスを開始したISDN、2018年はちょうど30年に当たる。NTT東西は2024年初めにISDNサービスの終了を予定している。ISDNは既に企業ネットワークの主役ではないが、今でも流通業の店舗や小規模なオフィスでは電話、ファクシミリ(FAX)用のISDNと、データ通信用のフレッツを併用しているケースが多い。
この併用を解消することで、コスト削減を図ることができるだけでなく、電話、FAXの使い方を見直し、利便性を向上できる。
図1はISDNとフレッツを併用した小規模拠点での典型的な構成である。データ通信にはフレッツを使用し、広域のレイヤー3(L3)サービスで多数の拠点がデータセンターに接続されている。拠点ではNTTが設置するONU(Optical Network Unit:光回線終端装置)にユーザーのルーターを接続している。
ISDNの回線終端装置はDSU(Digital Service Unit)だが、DSUを内蔵したTA(Terminal Adapter)を利用することが多い。TAはデジタル回線であるISDNにアナログ端末である電話やFAXを接続する装置だ。
電話やFAXにある0AB-J番号は03(東京)や06(大阪)で始まる固定電話用の電話番号を意味する。
ISDNをフレッツに移行する方法は複数ある。最も単純なのは、フレッツのひかり電話サービスを使う方法だ。ONUにホームゲートウェイを接続しルーターや電話機をつなぐ。NTTのホームゲートウェイにはフレッツ網でPPPoE(Point-to-Point Protocol over Ethernet)を使って通信するLANポートが4つ、IP電話網を使って帯域保証型で通信する電話ポートが2つある。接続する電話などの端末が多い場合は別のゲートウェイを使用する。図2ではLANポート1つと電話ポートを2つ使用している。
ISDNからひかり電話に移行しても、電話やFAXの電話番号は変わらない。使い方も変わらない。ただしFAXはG3モードだけであり、高速通信ができるスーパーG3モードは保証されていない。家庭用などの小型FAXは通常G3モードしか持っていないので問題にならないが、スーパーG3が可能な機種はG3モード固定で使うよう設定しておく必要がある。
図2の方法でひかり電話へ移行するには、ホームゲートウェイの設置やルーター、電話機、FAXの接続といった工事が発生し、費用と手間がかかる。せっかく費用をかけるなら、これまでと同じことしかできない構成ではなく、働き方改革にも有用な電話の高度利用を可能にする構成を検討しよう。
図3はその一例だ。構成のポイントは次の6点である。
※1 閉域モバイル網については本連載第3回「働き方改革から災害対策まで「働き方改革から災害対策まで『閉域モバイル網』を徹底活用しよう!」を参照。
図3に示した主な4種類の通話の流れ(丸数字の付いた赤い点線)は、次のように動作する。
クラウドPBXは通信事業者やネットワークベンダーなどが、多くのサービスを提供している。社内や取引先の連絡先をWeb電話帳に登録して、個人で使ったり、グループ内で共有できたりするサービス、社内のメンバー間で使えるセキュアなチャットサービスなど、利便性の向上に役立つメニューがある。
図2と図3の構成の違いによってランニングコストがどのように変わるか比較したものが、図4である。フレッツの品目は「フレッツ 光ネクスト ファミリー・ハイスピードタイプ」で、NTT東日本の料金を挙げた。にねん割などの割引は適用していない。さらに、電話の通話に応じて課金される通話料は対象としておらず、固定費だけの比較である。
併用構成(左端)と比べて、単純なフレッツへの統合(中央)で月額3300円安くなり、クラウドPBXを使って電話の高度化を図る構成(右端)では2000円安い。多数の店舗を展開する流通業などでは大きなコスト削減になる。電話の高度化を図る構成では、従業員にスマートフォンを持たせることで店頭にいてもバックヤードで作業をしていても電話が使えるなど利便性が向上する。
ISDNのサービス終了は、単に別のサービスに切り替えるだけではなく、ネットワークの構成や使い方を見直す良い機会だ。2024年を待たずに、自社にとってメリットのある移行方法を検討してはいかがだろう。
松田次博(まつだ つぐひろ)
情報化研究会主宰。情報化研究会は情報通信に携わる人の勉強と交流を目的に1984年4月に発足。
IP電話ブームのきっかけとなった「東京ガス・IP電話」、企業と公衆無線LAN事業者がネットワークをシェアする「ツルハ・モデル」など、最新の技術やアイデアを生かした企業ネットワークの構築に豊富な実績がある。企画、提案、設計・構築、運用までプロジェクト責任者として自ら前面に立つのが仕事のスタイル。『自分主義-営業とプロマネを楽しむ30のヒント』(日経BP社刊)『ネットワークエンジニアの心得帳』(同)はじめ多数の著書がある。
東京大学経済学部卒。NTTデータ(法人システム事業本部ネットワーク企画ビジネスユニット長など歴任、2007年NTTデータ プリンシパルITスペシャリスト認定)を経て、現在、NECスマートネットワーク事業部主席技術主幹。
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