既存のインシデント対応体制を強化する方法の1つである「サイバー演習」は、組織のセキュリティ強化に欠かせない。今回はどの組織でも簡易的にサイバー演習を実践できる手法を紹介する。
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本連載「中堅・中小企業向け、標的型攻撃対策の現実解」では、中堅・中小企業における「高度標的型攻撃(APT)」への現実的な対策を、経済産業省が発行している「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」を参照しながら解説している。
ベースラインAPT対策コンソーシアム(以下、BAPT)のメンバーが交代で各回を担当。第1回と第2回では最初に取り組むべき「リスク分析」を扱った。第3回は「出入口対策」、第4回は「ログ管理」、第5回は「エンドポイント対策」について解説した。
前回の記事では、コンピュータセキュリティに関わるインシデントに対処するための組織、CSIRT(Computer Security Incident Response Team)構築の勘所を解説した。本記事は構築したCSIRT、また既存のインシデント対応体制を強化する方法の一つである「サイバー演習」を中心に、セキュリティ強化するための方法を紹介していく。
サイバーセキュリティというとファイアウォールやセキュリティソフトなどのシステムやプロダクトを中心に考えがちであるが、必要な対応は当然それだけではない。次の4つの観点が重要である。
セキュリティ対応を高めるには、上記4つのカテゴリーがバランス良く運用されているかどうかを検証する必要がある。システムやプロダクトを導入しても、それを使いこなせる人がいなければ(あるいはスキルがなければ)最大限の効果を発揮できない。また、インシデント発生時に対応するためのルール、プロセスがなければ適切に対応できない。そしてそれらを運用できる組織、体制が整備されていなければ、インシデント発生時の対応が遅れてしまう。これらの4つのカテゴリーが不足していないかどうかをまとめて検証する方法としてサイバー演習がある。
そもそも演習とは何か。演習とは、ルール、プロセスを浸透させたり、既存の組織、体制などに過不足がないかどうかなどを抽出したりするために行う模擬練習のようなものである。サイバーセキュリティで演習を行う場合、「サイバーセキュリティ演習」「サイバーレジリエンス演習」「サイバー演習」など、さまざまな呼び名があるが、本記事では「サイバー演習」と統一して書き進める。
本記事で紹介するサイバー演習で、次のような効果などを得られる。
サイバー演習の大きなメリットの一つはセキュリティ対応を「自分事化」できる点だろう。サイバー攻撃やサイバーセキュリティに関する情報は本やネットでも多く掲載されている。だが、重大なインシデントが発生した緊急事態に、それらの媒体から得た知識を適切に活用できるだろうか。
サイバー演習では、模擬的にインシデントが発生した状況を作り出したり、演習を通して当事者としてセキュリティに対する現状を認識したりすることができる。
ここからは「サイバー演習をどのように行うか」を具体的に紹介する。今回紹介するのは、複数種あるサイバー演習の中で、机上で行う「机上サイバー演習」と呼ばれるタイプのものだ。
まずは、サイバー演習を企画する際の事務局側の体制から検討しよう。筆者は複数の企業へセキュリティ対策を支援してきたが、そこでは次のような役割、機能を持った人を事務局として迎えることを推奨している。
いずれも一部のメンバーに参加してもらえれば十分だ。全ての部門のメンバーが参加すると、むしろ演習シナリオの内容が知れ渡り、サイバー演習の効果が半減してしまうので、演習企画は限定的なメンバーで行う必要がある。
体制が整えば次はサイバー演習を設計していく。設計するに当たり、次のような演習概要をまとめた演習計画書を事務局メンバーで検討する。
演習の目的 | 何のために演習を実施するのか 例) ・経営層のセキュリティ意識を向上させる ・○○マニュアルの内容の過不足や修正点を抽出する |
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演習日時 | いつサイバー演習を行うのか |
対象サービス、システム | サイバー演習でインシデントが発生するサービス、システムが何か 例) ・○○部のファイルサーバ ・Webサーバ |
場所 | サイバー演習を行う会場はどこか |
演習参加者 | 演習に参加するメンバーや部署は誰か |
当日までの準備物 | サイバー演習当日に何がどれだけ必要か 例) ・プロジェクター:1個 ・スクリーン:1個 ・ホワイトボード:4個 ・○○マニュアル:参加人数分 ・ボールペン:参加人数分 ・演習時の回答用紙:参加人数分 |
レイアウト | 演習参加者をどのように配置するか 例)・机を取り囲むようにして座る島方式(図1) ・スクリーンを正面として同じ方向を見て座るスクール方式(図2) |
当日のアジェンダ | 時間配分も含め、演習当日に何を実施するのか 例) ・13:00〜13:05 オープニング ・13:05〜13:25 セキュリティ研修 ・13:25〜13:30 演習実施方法の説明 ・13:30〜14:30 サイバー演習(2シナリオ分) ・14:30〜14:55 演習振り返り ・14:55〜15:00 クロージング |
大まかなシナリオ概要 | サイバー演習時にどのようなシナリオを提示するのか 例) ・標的型攻撃による顧客情報の流出 ・DDoS攻撃によるECサイトのダウン |
次に行うのはシナリオ作成と演習ツール作成だ。この2つには次のような意味がある。
次ページで、順を追って説明する。
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