・検証ポイントの整理
演習計画書で設定した目的に対して、演習を通して達成できたかどうかを確認するための指標が「検証ポイント」である。次のような「検証ポイント」を参考にして作成してもいいだろう。もちろん、演習の目的に「検証ポイント」が連動するため、この例の限りではない。
・攻撃者の動機の検討
検証ポイントを検討しつつ、攻撃者の動機も検討することを推奨する。自組織がサイバー攻撃の対象となる理由はどのようなものが考えられるか。自組織が攻撃者の標的となる場合、何らかの理由が存在する。攻撃者になったつもりで、自組織を攻撃する動機を考察する。次のような動機があるかもしれない。
・サイバー攻撃手法の選択
サイバー演習に当たり、どのようなサイバー攻撃がインシデントの起因となるかを検討する。サイバー攻撃を選択する際に重要なのは、そのサイバー攻撃が発生する可能性の有無だ。自組織で起き得るサイバー攻撃を選択しなければ、「そんなサイバー攻撃で被害は発生しない、こんな演習はムダだ」となり、サイバー演習は失敗に終わってしまう。そのため、事務局側で情報システムが分かる担当者が、サイバー攻撃の対象となるリソース案を用意する必要がある。
次に、演習参加者に状況付与を行う際の基になる演習シナリオを検討する。そこで準備したいのが、「机上サイバー演習用演習設計シート」(図3)である。この資料は、演習参加者への状況付与の骨子となり、演習全体を設計する上で重要な役割を持つ。あくまで一例だが、次のような項目を盛り込みたい。
ポイントは「設問」だ。これにより、演習の難易度を調整することができる。演習を初めて体験する参加者であれば、丁寧な設問を記載するといいだろう。次の例を参考にしてほしい。
演習を何度も経験している参加者であれば「どのように対応しますか?」といったオープンクエスチョン形式の設問でもよい。
サイバー攻撃が発生した際のリアルな状況に近づけるのであれば、オープンクエスチョン形式の設問がいいだろう。しかし、演習の難易度が上がるため、あくまでも演習の目的と演習参加者のレベル感を前提に考えてほしい。
演習シナリオの状況付与は複数回行う場合が多い。例えば、演習時間が60分間の場合は、10分間は検討時間を設けるとして、6回の状況付与が行われる。この6回分の演習シナリオをそれぞれ考える必要がある。
上記を踏まえ、机上サイバー演習用演習設計シートの内容を検討していくと次のような記載になる(図4)。例示している内容では「Emotet(エモテット)感染*)による情報漏えい」をテーマとしている。
*)情報の窃取に加え、さらに他のウイルスへの感染のために悪用されるウイルス。Emotetに感染させるためのメールの多くは、実在の相手の氏名、メールアドレス、メールの内容などの一部が、攻撃メールに流用され「正規のメールへの返信を装う」内容であることや、業務上開封してしまいそうな巧妙な文面であることが特徴となっている
フェーズ1でインシデント発生(サイバー攻撃)を検知し、フェーズ2でインシデントの状況を示し、フェーズ3で被害状況を述べている。徐々に深刻度が高まるようなイメージである。これを状況付与として演習参加者に見せる場合に、次のようにスライドに整理する(図5)。
机上サイバー演習の場合、演習当日に使用するツールは基本的に状況付与などを行う投影資料が必要になる。演習シナリオスライド以外に、どのような要素を盛り込むとよいかを説明する。
演習参加者は主に投影資料を見ながら検討していくことになる。演習設計シートで作成したシナリオ内容に、当日の時間割や演習の目的など、次に示す要素を盛り込み、演習を円滑に進められるように工夫する。演習参加者は、机上演習であれば、基本的に上記のスライドに記載のある内容、および当日のファシリテーターのガイドに従って検討することになる。
上記のような内容を盛り込みつつ、組織の実態に合った形で必要なスライドなどを追加していくといいだろう。演習シナリオも完成度合いも、演習を成功させるための重要な要素であるが、もう一つ重要な要素がある。それはファシリテーターの存在だ。
サイバー演習に当たり、事務局側の演習当日の役割が重要になる。弊社が提供するサイバー演習では次の表のように役割を決めた上で演習当日を迎えるように取り決めている。
役割 | 概要 |
---|---|
ファシリテーター | 演習当日の進行 |
シナリオクリエーター | 演習シナリオの作成者。演習シナリオに対する質疑応答に対応する |
補助役 | 演習が円滑に運営できるようにさまざまな補助を行う |
この中でも特に重要になるのが、ファシリテーターである。このファシリテーターがうまく対応できるかどうかが演習成功の鍵となる。ファシリテーターのスキルは一朝一夕で身に付くものではなく、サイバーセキュリティに関する十分な知識を持ち、ファシリテーション経験を積むことが重要になる。自組織で全てを対応する場合は、入念にリハーサルするといいだろう。補助役を設けている理由は、ファシリテーターのみの進行は、負担感が大き過ぎるためだ。事務局として対応できるメンバーが数名、サポ―トにまわると進行しやすい。
演習終了後、参加者の演習回答ワークシートへの回答内容やアンケート回答などを分析し、目的が実現できたのかどうか、課題は何なのかを明らかにし、何らかの文書や記録として残すとよい。
ここまでのポイントを押さえることができれば、どの組織でも簡易的なサイバー演習を行える。セキュリティ対策というと、システムやプロダクトばかりに目が行きがちになるが、ルールやプロセス、体制といったところに盲点がないかどうかを確認する必要がある。
また、常に同じ演習を行うのではなく、対応力を向上するために変化を加えることも重要である。
本稿が読者のセキュリティ対応の一助となれば幸いだ。
標的型攻撃の包括的なソリューションを最適なコストで日本市場に提供することを目的として2016年10月に複数企業をメンバーとして発足したコンソーシアム。
参加企業は、ニュートン・コンサルティング、サイバーソリューションズ、インフォメーション・ディベロプメント、ウェブルート、ベル・データ、フェス、ゾーホージャパン。
石井 佑樹(いしい ゆうき)
ニュートン・コンサルティング株式会社 コンサルタント
ベースラインAPT対策コンソーシアム(BAPT)のセキュリティコンサルティング支援メンバー。
リスク診断、CSIRT構築支援、サイバー演習支援、標的型メール演習などを提供。
前職では大手自動車販売会社向け基幹系システムのIT業務に従事。サポートしていた基幹系システムに大規模なサイバー攻撃があり、サイバーセキュリティ分野の必要性を強く認識し、現職に携わる。以降、サイバーセキュリティに関する講演の他、制御系や官公庁におけるサイバー演習シナリオの設計、運営に力を発揮。
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