ITコストを急にカットしなければならない場合に考えるべき10の指針Gartner Insights Pickup(157)

IT予算を急にカットしなければならない事態に直面した場合、CIOはビジネスの中長期的な健全性への悪影響を最小化するコスト削減方法を選択しなければならない。この時に指針として使える10のルールを示す。

» 2020年05月08日 05時00分 公開
[Susan Moore, Gartner]

ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 「コスト削減だけでは成長できない」とよく言われるが、コスト削減によって生き残ることはできる。自然災害やテロ攻撃から、景気悪化、アグレッシブなライバル企業の登場まで、企業はさまざまな理由から存続のために直ちにコストを削らなければならない場合がある。

 Gartnerは、体系的かつ継続的なアプローチでコスト最適化に取り組むことを勧めている。厳しい時期も戦略的な投資を続ける企業は、競争を勝ち抜く可能性が高いという調査結果がある。だが、ときには、困難な状況の中で難しい判断を迫られることもある。

 「早急なコスト削減が必要な事態に直面したら、CIO(最高情報責任者)は、ビジネスの中長期的な健全性への悪影響を最小化するコスト削減方法を決める必要がある」と、Gartnerのアナリストでシニアディレクターのクリス・ガンリー(Chris Ganly)氏は語る。

 「コスト削減がもたらす結果とリスクを定義し、ステークホルダーに伝える必要もある。状況が切迫していて、削減策を講じるまでのリードタイムの短縮を求められるとしてもだ」(ガンリー氏)

 既に費用が投じられた、あるいは発生したプロジェクトやサービスを縮小または終了すると、それらが生み出す価値が限られてしまう。また、投資してやり直しがきかない、あるいは成果が出そうな取り組みを縮小すると、苦境を乗り越えて再び攻めに出るときに支障が出るだろう。

ITコストを早急に削減するための10のルール

 ITコスト削減の選択肢を評価する際は、以下のルールを念頭に置く。

1.即時の効果を狙う

 コスト抑制効果が数年のスパンではなく、1カ月、6カ月、または9カ月で現れるコストを排除、削減、または中止する。こうした費目の例としては、従量課金で年1回ではなく、毎月、または四半期ごとに費用が発生し、支払いが行われる費目が含まれる。

2.凍結するのではなく、削減する

 コストを当期において凍結し、将来再開するのではなく、本当に削減したり、排除できるコストに的を絞る。

3.現金を何よりも優先する

 減価償却費のような非現金項目ではなく、損益計算書の現金に影響する項目に焦点を当てる。例えば、クラウドサービスのコスト削減は現金に影響するのに対し、オンプレミスソフトウェアのライセンスや、ハードウェアのような保有資産の削減は影響しない。資産の売却やリースバックも現金の節約につながる。

4.支出も支払いも確約されていない費用に狙いを定める

 支払った費用(または確約した費用)を取り戻したり、前払いした費用の払い戻しを受けたりすることができない以上、削減余地が最もあるのは、まだ発生していない費用や確約されていない費用ということになる。契約を評価し、再交渉や解約の条項を確認する必要がある。

5.運用経費と設備投資を考慮する

 一般的に、運用経費(OPEX)の方が削減効果が出やすいが、設備投資(CAPEX)も抑えられる。Gartnerの「IT Key Metrics Data」は、平均的なIT予算の25%が、資本として計上されるものに投入されていることを示している。そのため、早急にコスト削減をする場合は、削減対象としてIT支出の全範囲を検討すべきだ。

6.一度に実施することを計画する

 ほとんどの企業は、最初に十分な規模のコスト削減をしない。そのために多くの場合、再びコストを見直して削らなければならなくなる。だが、そのプロセスでは、従業員は先行きが不透明な中で職務を実行しなければならず、往々にして混乱が起こり生産性が低下してしまう。コスト削減策に人員削減が含まれる場合は特にそうであり、こうしたコスト削減の繰り返しに伴う副作用が深刻化しがちだ。

7.サンクコスト(埋没費用)を考える

 一般的に、コスト削減については「サンクコストは無関係」といわれる。これは、将来の支出は過去に支払った回収できない費用――つまり、サンクコストとは切り離して考えなければならないということだ。早急なコスト削減の観点では、これは正しい。だが、コストを削減するメリットがコストを払い続けることで得られるメリットを上回るかどうかを考えることは、依然として価値がある。

8.裁量的支出と非裁量的支出に対処する

 多くの場合、裁量的支出(新規プロジェクトの実行や、機能またはサービス追加のための支出など)はカットしやすく見える。だが、裁量的支出ではない「ビジネスを運営する」ための非裁量的支出(ITインフラやオペレーションの費用など)も、使用量やサービスレベルの引き下げによってカットできる。

9.変動費と固定費の両方の抑制に取り組む

 固定費は、生産量や販売量にかかわらず、常に一定額が発生する費用を指す。例えば、オフィス賃貸料やサブスクリプション料金、給与などがそうだ。固定費については、特定の費用の支出をなくすことに注力する。一方、変動費は、生産量や販売量に応じて変わる費用を指す。例えば、通信費や契約業者への業務委託料、消耗品費などがこれに当たる。変動費については、特定の費用の削減と排除に注力する。

10.勘定科目を調査し、コスト・ベースを評価する

 財務担当者の協力を得て、経費の詳細な支出状況(費用勘定など)と主要な貸借対照表勘定(発生費用や前払い金など)を精査する。その結果を基に、すぐに削減効果が表れる現金支出の削減対象を特定する。

出典:10 Ways to Quickly Reduce IT Costs(Smarter with Gartner)

筆者 Susan Moore

Director, Public Relations


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