開発1カ月で「セゾンのお月玉」をリリース――クレディセゾンが語るDX推進のコツ「スピード」と「安全」をどう両立させていくか(2/2 ページ)

» 2021年05月27日 05時00分 公開
[齋藤公二@IT]
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VS.ではなくWithで取り組む「グラデーション組織」が重要

 小野氏はAWS活用の具体例として「セゾンのお月玉」のシステム構成を紹介した。既存データセンターとデータ連携しつつ、お月玉用の専用サーバを内向け、外向けでAWSで構築し、フロントのスマホアプリとそれぞれ連携している。また「SAISON CARD Digital」は、完全ナンバーレスのプラスチックカードで、スマートフォンを財布代わりに利用できるというサービスだ。サービスの中核となるアプリ部分を完全内製で開発しており、AWSを活用しているという。

AWSを活用した「セゾンのお月玉」の構成(左、右)

 こうしたIT戦略や新サービスのスピーディーな開発を実現するため、クレディセゾンでは、3つのステップで組織体制を整備してきた。ステップ1は、2019年3月に新たなデジタル組織としてテクノロジーセンターをスモールスタートで立ち上げたことだ。

 「人材はスピードを重視するベンチャー系の人たちと、安全性やサポートをきちんと理解しているエンタープライズ系の人たちの半々で構成されています。当初はこのデジタル部門と既存のIT部門はそれぞれ独立して活動していました」(小野氏)

 そこでステップ2として、IT部門とデジタル部門の交流を進め、組織間の連携を強めた。ただ、本格的なデジタルサービス開発のスピードはまだ遅く、システム共通機能(セキュリティなど)の調整に時間がかかっていたり、カルチャーギャップが残っていたりした。そこで次の理想形として掲げたのがステップ3だ。

 「最終的にIT部門とデジタル部門の区別がつかなくなるまで融合させていこうとしています。モード1とモード2、ウオーターフォールとアジャイルといった対立概念をなくし、VS.ではなくWithで取り組んでいくイメージです。独立して境界線があるのではなく、一緒に同じ方向を向いて取り組んでいくグラデーション組織を目指しています。最終的には事業部門との融合も目指しています」(小野氏)

DX推進のキモは、社内の多種多様なバイモーダル組織

 小野氏はDXのような取り組みを進めていく上でバイモーダル組織が重要だとする。

 「ウオーターフォール開発やアジャイル開発もそれぞれに良さがある。プロジェクトの性質や事業のステージによって、ベンチャー的なデジタルなやり方か、日本の伝統的な企業のやり方か割合を考えながら、開発を推進できるようになりました。2014年ごろからは『バイモーダル戦略』を掲げ、モード1とモード2を混在させたIT戦略と組織体制の構築を推進しました」(小野氏)

 バイモーダルは、モード1とモード2のどちらが優れているかという議論ではなく「両方を兼ね備える組織が強い」という意味になるという。バイモーダルはもともと米ガートナーが提唱した概念で、モード1とモード2の調整役となる「守護者(ガーディアン)」がいて「二重人格的な要素を取り入れること」が勘所になるという。

 「バイモーダル組織の難しい点は両者が対立することにある。実体験としてモード1がモード2を見て『Slackでいつも遊んでいる』と軽さを非難していましたし、モード2がモード1に対して『あの人たちは滅びゆく恐竜。それどころか恐竜の化石』と固く重いことを非難することもありました」(小野氏)

 両者を融合させるためには、バイモーダルが企業という組織のどこでも見られる現象だと理解することがポイントだという。

 「バイモーダル組織は、IT、デジタル、ビジネスを融合させるグラデーション組織の中核となる極めて重要な存在です。会社組織を見渡すと分かりますが、解像度や視座の違いはあれどモード1、モード2の両方があちこちに存在しています。さまざまなレベルのレイヤーで、バイモーダルな組織を作っていくことができるかどうかがDX推進のキモです」(小野氏)

グラデーション組織のイメージ グラデーション組織のイメージ

「HRTの原則」で常識や価値観の違いによる対立を防ぐ

 小野氏は、バイモーダルを理解するための分かりやすい例が「自転車」だと指摘する。モード1は後輪で力強くこぎ前に進む推進役で、モード2は前輪で素早く方向転換するかじ取り役となる。

 「前輪が方向を変えながら進むべき方向性を模索し、後輪は方向性が決まったら、前輪に少し遅れて、自転車や事業を真っすぐ力強く進めます。両方が存在することで安定します。バイモーダルを進める上でキーワードとなるのが『HRTの原則』です」(小野氏)

 HRTの原則とは、書籍『Team Geek――Googleのギークたちはいかにしてチームを作るのか』で示されている考え方のことだ。「謙虚さ(Humility)」「尊敬(Respect)」「信頼(Trust)」の価値観を大切にすることで、優れた開発チームができるという。米Google社内でも実践されているといわれている。

 「日本的な『和』の考え方にGoogleがたどり着いて実践していることが面白いと思います。バイモーダルを実践するハウツー、プラクティスがHRTの原則であり、社内でも、常識や価値観の違いから対立する前に、あらかじめHRTの原則でやっていこうと唱えています」(小野氏)

 最後に小野氏は「新規サービスはクラウドファーストで取り組み、既存システムはコスト、EOL(End of Life)、効果などを勘案しながら計画的にマイグレーションしていきます。今後もクラウド活用の領域を順次拡大していきます」と述べ、講演を締めくくった。

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