ビジネステクノロジストの台頭Gartner Insights Pickup(249)

ビジネステクノロジストは、企業における新しい技術提供モデルの確立に貢献している。

» 2022年03月18日 05時00分 公開
[Ashutosh Gupta, Gartner]

ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 ビジネステクノロジストの増加は、技術やアナリティクスに対する企業の考え方が大きく変化していることを示している。技術はもはやIT部門の専売特許ではなく、テクノロジストの5人に4人はIT以外のビジネス部門で働いている。こうしたビジネステクノロジストを効果的にサポートする組織は、デジタルトランスフォーメーションを加速できる可能性が2.6倍高くなる。

 ビジネステクノロジストの役割と意義などについて、Gartner Researchのディスティングイッシュト バイスプレジデントのハイミー・カペラ(Jaime Capella)氏に話を聞いた。

ビジネステクノロジストとは何か?

 ビジネステクノロジストは、社内外でビジネスに利用される技術やアナリティクス機能を構築するが、IT部門以外の部署に所属する従業員を指す。非IT部門のリソースにデジタル機能を構築するための能力を創出し、戦略的な役割を担う。

 Gartnerの調査によると、ビジネステクノロジストと呼べるのは従業員全体の41%だが、この割合は業種によって大きく異なる。例えば、政府機関のように技術への依存度があまり高くない業種では25%近くだが、エネルギーのようにITへの依存度が高い業種では50%近くになる。

「デジタルデリバリーの民主化」とは何を意味するのか?

 「デジタルデリバリーの民主化」とは、デジタル機能を構築する責任、ツール、説明責任を、IT部門だけでなくビジネス部門にも持たせることを意味する。新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)に伴い、そうすることが新たな緊急の重要課題となった。組織の働き方や顧客対応のデジタル化を進めるためだ。かつては専任のITチームだけが担当していた技術の仕事が、今や“民主化”されつつある。

 ハイパーオートメーションの飛躍的な普及と、ローコード/ノーコード開発ツールの台頭が、このデジタルデリバリーの民主化を可能にした。多くの企業がIT部門と非IT部門の境界を見直し、技術的な責任の配分を再検討するようになっている。

シャドーITは、ビジネステクノロジストとどう違うのか?

 シャドーITは、ビジネス部門がIT部門を通さずに独自に調達、利用するITや、ビジネス部門内でこうした調達、利用する個人やグループを指す。これに対し、ビジネステクノロジストは重要性の高い事項に取り組み、活動の透明性が高い。多くの場合、IT部門と密接に連携している。ほとんどのビジネステクノロジストは、IT部門とのパートナーシップを非常に価値があるものと考えている。イノベーション、セキュリティ、活動のスピードアップに役立つからだ。

ビジネステクノロジストは、ITからより多くの価値を引き出すことにどう貢献するのか?

 Gartnerの調査によると、ビジネステクノロジストに備えと権限を与えているIT部門は、デジタルビジネストランスフォーメーションを加速できる可能性が2.5倍高くなる。デジタル機能の構築の民主化により、こうしたIT部門はデジタルの取り組みを実現させ、短期間で価値を引き出せる。

 さらに、こうしたIT部門は、デジタル分野でのライバルとの競争や、業界の不測の事態による混乱といった課題もうまく克服できる。ビジネステクノロジストがいることで、最近のCxO(最高責任者レベルの役員)が行う最も戦略的で重要な会話の中心に、ITを据えることができる。

ビジネステクノロジストはどんなプロジェクトに携わるのか?

 ビジネステクノロジストの仕事は、4つのカテゴリーに大別される。

  • AI(人工知能)や高度なアナリティクスを利用して洞察力やパーソナライゼーションを追求し、価格設定やマーケティング、モデリングなどに応用する
  • 予測分析を利用して複雑なシステムを最適化することで、ダウンタイムを最小化する
  • RPA(ロボティックプロセスオートメーション)によって手作業を自動化し、生産性向上につなげる
  • さまざまなチャネルでの顧客体験を統合し、オムニチャネル体験を提供する

 これらは、組織にとって重要な注力分野だ。ビジネステクノロジストがExcelマクロを作成する単なるアマチュアではなく、非常に重要な機能に目覚ましく貢献していることは極めて明らかだ。

ビジネステクノロジストの存在は、企業の業務モデルを変えるか?

 間違いなく変える。ビジネス部門の幹部などの業務のあり方や、ビジネステクノロジストとの関わり方が大きく進化する。例えば、次のような進化の方向が予想される。

  • ビジネス部門のゼネラルマネジャーは、ビジネステクノロジストをフュージョンチーム(技術と他の分野の専門人材の混合チーム)の一員に加えるというアイデアを、受け入れることが求められる
  • これまで官僚的な統制を進めてきた管理部門は、デジタルに関する説明責任をビジネステクノロジストに円滑に移譲することが求められる
  • これまで、人事部門は役割の明確化を重視してきたが、役割の柔軟性と、チーム間でのスタッフのローテーションを後押しする必要がある
  • 情報セキュリティ部門はこれまで、チェックポイントに基づいてセキュリティコンプライアンスを徹底してきたが、ビジネステクノロジストが適切な判断の下で自律的に仕事ができるように支援することが求められている

ビジネステクノロジストの台頭という文脈の中で、CIO(最高情報責任者)の役割はどのように変化しているのか?

 これまで、CIOは業務上の一連の大きな責任を負ってきたが、今ではビジネステクノロジストに備えと権限を与え、優先順位に沿ってデジタル機能を構築できるようにする責任も担っている。IT部門の内外でビジネステクノロジストの仕事の連携と調整を確保し、他のビジネスリーダーとともに、技術とビジネスの成果について説明責任を負っている。

 先進的なCIOはCxOと協力し、全社レベルでの新しい技術提供モデルの確立に取り組んでいる。このモデルはビジネスや技術、ガバナンスの専門ノウハウを結集し、ビジネスと技術の成果に関する説明責任を共有するものだ。

 より多くの企業が、顧客へのデジタルサービスやデジタルチャネルの管理、統合されたクロスチャネル体験の提供を強化する必要があると認識している。これは、デジタルデリバリーを民主化することで、そして顧客に最も近いところで活動し、必要とされているデジタル機能を誰よりも理解しているビジネステクノロジストに権限を与えることで実現できる。

出典:The Rise of Business Technologists(Gartner)

筆者 Ashutosh Gupta

Content Marketing Specialist


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