イラストや人物を自動生成できる「画像生成AI」の存在感が増しつつあります。
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「画像生成AI」と呼ばれる人工知能(AI)の存在感が増しています。「呪文」や「プロンプト」と呼ばれるテキストを入力するだけで、そのイメージに合った画像を自動生成するAIです。「Stable Diffusion」や「Midjourney」などが代表例です。
プロの画家が描いたような美麗な絵を数十秒で描けたり、プロ顔負けのデザインを簡単に出力できたり。さまざまな作品が日々、大量に生成、公開されており、イラストやデザインの世界を大きく変える可能性があると言われています。
画像生成AIの使い道は無限です。イラストやデザインはもちろん、スマートフォンアプリなどのUIデザイン案を出力したり、Webサイトのバナーなどのデザインに活用したりする人も出てきています。
筆者が最も便利に活用したのは「塗り絵」です。筆者には4歳の娘がおり、塗り絵が好きなのですが、塗り絵の本を買ってもすぐに使い終わってしまったり、好みのタイプの絵でないとそもそも塗ってくれず、無駄になったりするという悩みがありました。
ある時、友人がMidjourneyで、娘が好みそうな塗り絵を大量に生成し、印刷して娘に渡したところ、娘は「これかわいい!」と大喜びで、次々に塗ってくれたのです。画像生成AIは、日常のちょっとした「困った」を解決する可能性も秘めています。
AIで生成した画像は、ビジネスにも使われ始めています。先日は「画像生成AIを活用したバーチャルYouTuber(VTuber)事務所」が誕生。「おそらく世界初」の試みだそうです。
イラストやアニメ風の画像を生成するStable DiffusionやMidjourneyとは少し趣が異なりますが、GAN(Generative Adversarial Network:敵対的生成ネットワーク)を使って「実在しない」人間の顔画像を大量に生成できるサービスも数年前から実用化されており、ビジネス化も進んでいます。
2019年には、写真素材サイトを運営するACワークスが、実在しない人物の顔画像を機械学習で生成した「AI人物写真素材」を公開。実在のモデルと異なり、“本人”から使用許可を得る必要なく使えるのが特徴です。
キャラクターだけでなく“人間”が、AIによって無限に作られる。そんな時代が既に来ているのです。一方で、実在の人物やキャラクターなどの「偽物」を、誰でも簡単に作れてしまうというリスクも当然、はらんでいます。
2022年9月、静岡県で水害が発生した際、「ドローンで撮影した水害の画像」と称し、Stable Diffusionで作った偽の水害画像がTwitterに投稿され、物議をかもしました。ぱっと見ただけでは、実際の水害画像にも見えるリアルな画像でしたが、Stable Diffusionに「flood damage, Shizuoka」というキーワードを入力しただけで出てきた画像だったそうです。この話題はネットだけでなくテレビのニュース番組などにも取り上げられ、制作者が顔出しで謝罪するなど大きな騒動になりました。
ネット上の偽画像問題は、何年も前からありました。まったく関係のない過去の画像を引っ張り出して、「今起きていることだ」と誤認させたり、画像を合成して偽の画像を作る「コラ画像」だったり……。
ただ「すぐに偽物だとバレない過去の画像」を検索するにもある程度の手間はかかりますし、コラ画像を作るには、画像制作ソフトで合成するなど、それなりの技術が必要です。画像生成AIなら、そういった技術がなくても、幾つかのフレーズを入力するだけで「それっぽい画像」を生成できてしまうのです。Twitterなど各種SNSが発展した今「それっぽい偽画像」は簡単に拡散されてしまいます。
画像だけでなく動画にも同様な問題があります。動画の技術や音声合成AIも進化している今、著名人の“偽の発言動画”を作り、本人が言ったかのように拡散する……「ディープフェイク」と呼ばれるものです。ポルノ動画に著名人など別人の顔を合成する「フェイクポルノ」も問題になっています。
AIが発達したことにより、画像も動画も音声も“偽物”が簡単に作れる。フェイクニュース作りはより簡単になり、それが偽物だと見抜くことはより難しくなっていきそうです。
一方で、AI生成か本物かを見抜く技術も発展し続けています。例えば、米フロリダ大学の研究チームが発表した技術は、音声から声の通り道「声道」を作成して、その声道から人の音声か偽物の音声かを識別するもので、精度は99%以上といいます。
AIが作ったものをAIが判定し、取り締まる……SFのような世界が現実になりつつあります。
技術は常に進んでいき、後戻りできません。便利に使える部分は一気に広がりますし、問題のある使い方も広がっていきます。社会は、問題を見つけては対応策をとっていく、いくでしょうし、法律面での整備も進んでいくでしょう。
技術は包丁のようなもので、使う人によって、良くも悪くもなります。包丁でおいしい料理を作りながら、銃刀法を整備して、使われ方を制御していく……画像生成AIについても、そうした流れになっていくでしょう。
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