インフレ下でITベンダーとの契約交渉戦略を最適化する5つの方法Gartner Insights Pickup(288)

ITベンダーの提案や契約更新でインフレによる値上げに直面したら、その根拠となる情報を全て詳細に把握すべきだ。

» 2023年01月27日 05時00分 公開
[Jackie Wiles, Gartner]

この記事は会員限定です。会員登録(無料)すると全てご覧いただけます。

ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 この6カ月間に、ベンダーから提案を受けたことがあるだろうか。もしあるなら、通常は価格が年3〜5%上がるIT契約で10%、あるいは30%もの値上げを提示されたかもしれない。上層部から「その値上げは本当に妥当なのか?」と問われたときに、言葉に詰まらずに済むだろうか。価格が上がる理由を診断する適切なプロセスと、条件を(再)交渉する戦略が必要になる。

 インフレ率の上昇がコストの可視性を損なっており、ビジネスコストの削減や競争優位を確立するために技術を導入しようとしている企業にとっては、厄介な状況だ。

ベンダーとの交渉上の立場を強化する

 ベンダーとの交渉は、ITコストの最適化戦略の重要な部分だが、マクロ経済状況がどんなに良好でも難しい。今日の高水準のインフレ下では、ベンダーがコスト削減に努めながらコストに応じて価格を設定しているのか、コスト上昇をそのまま価格に転嫁して単にマージンを維持しようとしているのかは、さらに分かりにくい。

 「一見、法外な値上げや過大な更新価格が、適正で経済指標に沿ったものかどうかは見分けられる」と、Gartnerのディスティングイッシュト バイスプレジデント アドバイザリのジョアン・ローゼンバーガー(JoAnn Rosenberger)氏は語る。「だが、交渉上の立場を強化するには、透明性とコストモデルが必要になる」

 交渉戦略や戦術の一環として、以下の5つのことを実行する必要がある。

1.IT契約の価格改定の根拠を把握する

 契約更新時に提示された新価格が過大な場合や、提案で設定された価格が高過ぎると思われる場合は、ベンダーの営業チームにその根拠となるコスト詳細の提供を求める。「インフレ/経済の不確実性/サプライチェーンの遅延のため」といったあいまいな説明は受け入れないようにする。多額の予算超過につながる予期せぬ高額な価格の妥当性を、説明または正当化する十分な詳細情報を要求する必要がある。

 新しい技術を調達する際も、契約を更新する際も、ベンダーとの事実確認のプロセスに十分な時間をかけることが重要だ。

2.経済指標のデータポイントをIT契約のコストモデルに利用する

 公的な情報源から得られる価格やコストの指標として、消費者物価指数(CPI)、生産者物価指数(PPI)、雇用コスト指数(ECI)などがある。

 これらの経済指標をモニタリングすることで、ベンダーが設定する価格を見積もったり、将来の価格改定を予測したりするのに役立つ。また、こうしたデータをコストモデルに組み込めば、交渉の際の信頼性を高められる(次の「3」を参照)。

3.コストモデルを交渉戦術に取り入れる

 一般に公開されている情報を含む厳密なコストモデルは、適正な値上げについて交渉するのに役立つ。

 例えば、アプリケーション保守サービス会社から年間契約の更新時に「保守とサポート価格を18%値上げする」との通知が届き、値上げの理由として、労働市場の逼迫(ひっぱく)による社内人件費の増加が挙げられているとする。

 だが、あなたが調べたところ、地域のECIの上昇率が前年度の4%にとどまっていた場合には、これを“あるべきコスト”のモデルとして使って、より適正な新価格を対策として提示できる。

4.ベンダーや案件に合わせて交渉戦術を工夫する

 交渉上の立場をさらに強めるために、ベンダーや案件に合わせた戦術を追加する。

 例えば、ベンダーの四半期末や年度末に合わせて交渉を進めたり、人件費の安いオフショアプロバイダーの利用など、より低コストな選択肢を検討したりすることができる。ベンダーの営業チームへのインセンティブとして、「こちらからの対案が受け入れられれば、複数年契約のオプションを検討する余地がある」ことを伝えるという手もある。

5.交渉戦術の一環として、IT契約の条件を見直す

 対案にベンダーの同意を取り付けても、すぐにサインしないようにする。どんな交渉も、契約条件について譲歩を引き出し、改善する機会だからだ。例えば、上記の「3」のアプリケーション保守サービス会社との交渉では、将来の値上げに上限を設定することで、1年後の契約更新に際して、また18%(より大幅ではないとしても)の値上げに直面するという二の舞いを避けられる。

 値上げを抑制する適切な文言をIT契約に加えれば、マクロ経済状況が芳しくないときは自衛につながり、経済状況が正常化すれば、コストメリットが得られる。

 例えば、CPIが自社のIT契約と最も関連性が高い指標である場合、「どちらか低い方」といったただし書きを追加し、契約の文言を(弁護士の承認を得て)次のようにする。「貴社(顧客)が更新を選択した場合、値上げ率は、付属書類『X』の表『Y』に記載された金額に対して、その時点におけるCPIまたは3%のどちらか低い方を超えないものとする」


要約

  • インフレ期には、IT契約とその更新時の価格に関するベンダーとの交渉の複雑さが増す
  • CIO(最高情報責任者)とそのチームは、取引を最適化するための交渉戦略や戦術を持つ必要があり、価格の透明性を要求しなければならない
  • IT契約がインフレの影響を受けるときには、交渉においてコストモデルを用いて厳密かつ強力な主張をする

出典:5 Ways to Optimize Vendor Negotiation Strategies Amid IT Contract Inflation(Smarter With Gartner)

筆者 Jackie Wiles

Content Marketing Manager


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

スポンサーからのお知らせPR

注目のテーマ

Microsoft & Windows最前線2025
AI for エンジニアリング
ローコード/ノーコード セントラル by @IT - ITエンジニアがビジネスの中心で活躍する組織へ
Cloud Native Central by @IT - スケーラブルな能力を組織に
システム開発ノウハウ 【発注ナビ】PR
あなたにおすすめの記事PR

RSSについて

アイティメディアIDについて

メールマガジン登録

@ITのメールマガジンは、 もちろん、すべて無料です。ぜひメールマガジンをご購読ください。