大好きな人を突然失った悲しみは、Xでハッシュタグを追い、みんなの思い出や感想を見ることで持ちこたえられました。
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ここ1年ほど、X(旧Twitter)が不穏です。イーロン・マスク氏の方針に反発するユーザーは多く、「Xはじわじわと終焉(しゅうえん)に向かっている」といわれることもあります。
でも私は今、Xがあって良かったと心から思っています。
2023年11月12日、シンガー・ソングライターのKANさんが天に召されました。私は彼と彼の作品がずっと好きでした。2023年3月7日に行われたライブは最高に楽しかった。まさかそれが最後になるなんて……。突然過ぎる訃報に、何も手に付かなくなりました。
私には、KANさんファンの友達があまりいません。誰かと話して落ち着きたかったけど、語り合える仲間がいない。気持ちも体も、どこに置けばいいのか分からなくなっていました。
そんなときに寄り添ってくれたのは、KANさんファンやアーティストの方々の、Xへの投稿でした。
みんな悲しんでいたし、泣いていました。悲しくて何もできないのは私だけではなかった。一人じゃないということが心強かった。Xがあって良かった。心から、そう思いました。
KANさんは2019年にTwitter(X)を始め、独自の使い方を編み出していました。
例えば「クイズ・ハウメニィ?」。ブドウやブルーベリー、マッチ棒など、容器に詰め込まれたモノの写真を見せ、幾つ入っているかフォロワーに当ててもらう企画です。「クイズ・あの人この歌」は、KANさんが海外で購入してきたCDのジャケットだけを公開し、歌手名と曲名を自由にイメージしたリプライを募集するというもの。
回答者には報酬として「mental point」(mp)という「精神的なポイント」が付与されます。ハウメニィには正解がありますが、あの人この歌には正解がなく、応募したユーザー自身が納得すればmpがもらえます。mpを加算、管理するのはユーザー自身。筆者は「420mp」しかためられませんでしたが、ファンの中には数千ポイントためている方もいらっしゃいました。
訃報が公表された翌日、ラジオで追悼番組が放送されました。1人ではとても聞けないと思ったけれど、Xで番組ハッシュタグを追い、みんなの感想を見ながら聞くことで、持ちこたえられました。
その番組は「Wabi-Sabi レディオ・ショー」。大阪の放送局、FM COCOLOの番組ですが、radikoのエリアフリーのおかげで、インターネットを通じて東京でも聞くことができました。
ミュージシャンの根本要さんと馬場俊英さんが、KANさんの葬儀の様子を語っていました。遺影が夏目漱石の肖像写真をオマージュした「夏目漱石風画像」だったこと、還暦の記念に撮ったきらびやかな振り袖姿の写真が、棺(ひつぎ)のそばに飾られていたこと……KANさんが闇に消えてしまったように感じていたけれど、最期までKANさんがKANさんであり続けたことが分かって、少しホッとしました。
KANさんは、古いものを手入れして大切に使い続ける人でした。愛車は「愛は勝つ」のころに買ったものを修理しながら30年以上乗り続けていたし、携帯電話は最後までガラケーだったそうです。曲作りにはかなり古いMacbookを使っていたし、音楽はCDで聞いていて、自宅の押し入れには大量のCDが、アーティスト名順に整理されていたようです。
亡くなる9日前に突然「ヨロシクサブシュク」と言って楽曲のサブスクを解禁し、さらにその後、YouTubeで楽曲動画が多数公開されました。びっくりしました。サブスクにはずっと出していなかったし、YouTubeには、ごく一部のMVだけしか公開していなかったから。
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