生成AI活用におけるデータベース管理はどうあるべきか――PostgreSQLをけん引するEnterpriseDBに聞くOSSと商用製品はどう使い分けるべきか

生成AIの登場でデータ活用やデータマネジメントの在り方が大きく変わりつつある。生成AIの進化は速く、AIに関わるデータをどう管理するか、多くの企業の課題になっているのが現状だ。企業のデータとAIの取り組みを支援するEnterpriseDBのCEOに話を聞いた。

» 2025年03月24日 05時00分 公開

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 生成AI(人工知能)の登場でデータ活用やデータマネジメントの在り方が大きく変わりつつある。生成AIの進化は速く、AIに関わるデータをどう管理するか、多くの企業の課題になっているのが現状だ。そのような中、ハイブリッドクラウド、データセキュリティ、データ主権、ソブリンAIといったキーワードで、企業のデータとAIの取り組みを支援するのがEnterpriseDB(以下、EDB)だ。CEOのKevin Dallas氏に話を聞いた。

データ&AIの在り方が大きく変化、変化への対応に苦慮する企業

──生成AIによって企業システムの在り方も大きく変わっているようです。現在のAIを取り巻く状況をどう見ていますか。

 AIを機能として搭載しているインテリジェントなアプリケーションが急増しています。金融、医療、公共などの業界を中心に幅広い領域で使われ始めています。われわれが行ったユーザー調査でも、「今後、アプリケーションにAI機能を組み込むための投資を検討している」という回答は約60%に達しました。AIがもたらしたこうした変化は、アプリケーション開発やデータ活用を考える上で非常に興味深い変化です。インテリジェントなアプリケーションの開発には、ますますデータが欠かせなくなってきているからです。言い方を変えると、インテリジェントなアプリケーションは、データドリブンなアプリケーションだということです。

──生成AIは次々と新しいAIモデルやアプローチが出てきます。企業はその変化に対応するのに苦労しています。

 変化を3つのフェーズで考えるとよいでしょう。生成AIは「ChatGPT」を使う、最初のフェーズから、Agentic AI(AIエージェント)を使うフェーズに移ってきています。さらに次のフェーズとしてはフィジカルAIがあります。これら3つのフェーズは、企業にとって、3つの活用シナリオとして考えることができます。

 第1フェーズは、生成AIを使って質問にきちんと回答できる環境を作るシナリオです。第2フェーズは、AIエージェントを使ってユーザーの代わりにアクションをとらせるシナリオです。AIエージェントは推論することもできますし、長期メモリ、短期メモリも持っているので、ユーザーの代理になることができます。第3フェーズのフィジカルAIでは、自動運転車やヒューマノイドロボットを活用するシナリオです。ここでポイントになるのは、これら3つのシナリオに共通するのは、AIとデータだということです。データがなければAIは機能しません。

──データについてはどう見ていますか。生成AI活用におけるデータベース管理はどうあるべきでしょうか。

 企業はデータについて、幾つか大きな課題に直面しています。データをAIで扱うためのデータの処理や加工、AIで安全に利用するためのデータのセキュリティやプライバシー、AIとデータを自社のものとして扱う際のデータの主権(データソブリニティ)やAIの主権(ソブリンAI)の問題などです。

 ソリューションの中にはプロプライエタリな技術でこれらを解消しようしているものもありますが、その場合は、オープン性も課題になります。こうした課題に対応するために、EDBでは、AIとデータの両方を扱うことのできるオープンなプラットフォームを提供しています。

EnterpriseDB CEO ケビン・ダラス氏

ベクトル検索やGPUアクセラレーター、セキュリティに対応

──改めてEDBについて紹介してください。

 2004年に設立された、OSS(オープンソースソフトウェア)のデータベース「PostgreSQL」を基にしたエンタープライズ向けデータプラットフォームを提供する企業です。私たちのプラットフォームの上で、世界最大規模のトランザクションがやりとりされています。金融、公共、ヘルスケア領域のワークロードではグローバルで大きなシェアを持っています。いま多くの開発者はインテリジェントなアプリケーションを開発するために、複数のツールやプラットフォームを使っています。EDBの製品なら、PostgreSQLで標準化されたツールを使って単一のプラットフォーム上でアプリケーションを構築できます。また、次世代のインテリジェントなアプリケーション開発をリードすることもできます。

──データの課題の中でも処理や加工の課題をどう解決するのか教えてください。

 例えば、AIでデータを扱う際には、データをベクトルで表現し、ベクトルを検索することで、意味やコンテキストといった情報の類似性を見つけ出します。AIサービスの検索ツールを使ってベクトルを検索することが多いですが、EDBはプラットフォームの中にベクトル検索機能を搭載しています。ベクトルの埋め込み(エンベディング)を自動化し、ベクトル検索を効率化できます。AI処理のスピードを上げるためには、GPUによるアクセラレートが重要です。EDBはプラットフォームとしてさまざまなGPUアクセラレーターに対応しています。

──データのセキュリティについてはどうでしょうか。

 AIでデータを扱う際にはデータのプライバシーやセキュリティを考慮することが求められます。プライバシーデータや個人情報、企業の重要情報を学習に利用する際に外部に漏えいしないようする仕組みが必要です。AIで利用するデータだけでなく、データそのものを保護する必要もあります。データの約9割は非構造化データです。データベースに格納する構造化データだけでなく、そうした非構造化データを含めてセキュリティを確保することが求められます。EDBでは、データ暗号化を活用して、データのセキュリティを保証します。

OSSのデータベースとの違い

──OSSのPostgreSQLでも、データ暗号化に対応していますが、EDBは何が違うのでしょうか。

 お客さまがOSSのPostgreSQLではなくEDBを選択する理由の一つがセキュリティです。例えば、パスワードや特定の列などに対する暗号化はPostgreSQLでも提供していますが、「透過的データ暗号化」(Transparent Data Encryption)という機能はEDBでしか利用できません。透過的データ暗号化は、暗号化されてデータベースに格納されているデータに対して、正規ユーザーがアクセスしたときには透過的にデータを利用できるようにする仕組みです。アプリケーションからは通常のデータベースとしてアクセスできますが、不正な手段でデータにアクセスしても、暗号化されて読み取ることができません。AIアプリケーションからのアクセスにも対応していますし、ランサムウェア攻撃による不正アクセスやデータ窃取などに対しても有効です。

──透過的暗号化の他にEDBならではのセキュリティ機能はありますか。

 ランサムウェア攻撃のシナリオを考えたとき、データセキュリティをより良くする必要があります。そこでお客さまからリアルタイムでフィードバックを受け取っています。暗号化はさらに強化する方針ですが、それ以外に2つの重要な取り組みについてフィードバックを得ています。

 1つは「役割ベースのアクセス権制御」(RBAC)です。誰がどこにアクセスしているか、アクセスを管理する仕組みをデータベースの中に組み込んだり、連携させたりできないかという要望です。ここで重要なのは、データにアクセスしてくるのが、人間かもしれないし、AIエージェントかもしれないということです。そこはしっかりと識別していく必要があります。

 もう1つ、お客さまが要望しているのは、セキュリティをモニタリングするAIエージェントです。どういうデータに誰がアクセスしているかをAIエージェントに監視させ、何か異常な振る舞いがないかどうかを検知していこうとしています。

 これら暗号化、RBAC、振る舞い分析の3つがいま強化している機能です。2024年にインテリジェントプラットフォームとして「EDB Postgres AI」を発表しましたが、この3つの機能も含まれます。

よりプライオリティが高いのはデータ管理におけるソブリンAIへの対応

──セキュリティ以外で特に注力している分野はありますか。

 まず、ハイブリッド対応へのニーズが高いです。これはセキュリティの問題とも関係があるのですが、AIとAIに関連するデータを全て自社の責任で管理したいというニーズがあります。AIセットとAIデータセットをオンプレミスで管理する場合にどのような要件が必要になるか、よく質問されるようになりました。これに関連してAI主権の取り組みを進めています。AIセットとデータセットの両方をユーザーがフルにコントロールできるようにするものです。EDB Postgres AIでは、「ソブリンAI」という機能を提供しています。

──ソブリンAIを利用すると、ユーザーはどのようなことができるのでしょうか。

 データベース内のデータがオンプレミスにあろうとクラウドにあろうと、AIとデータをプラットフォームとして管理できるようになります。このソブリンAIプラットフォームでは、データをセキュアに扱い、データを自社占有のものとして保持できます。重要なのは、インテリジェントなAIアプリケーションや、企業のデータを学習したLLM(大規模言語モデル)などが増えていく中で、それらが企業の外にさらされるような事態を防ぐ仕組みを整備することです。ソブリンAIはそれに応えるものです。ランサムウェア攻撃への対応ももちろん大事なのですが、プライオリティがより高いのはソブリンAIです。自分たちのデータとAIをしっかりと自分たちで管理したいというニーズはより高まっています。

社会インフラ企業でもオープンソースを積極的に活用している

──最後に、EDBのオープン性について教えてください。

 オープンソースとしてプロダクトを開発し、エンタープライズ向け機能を加えて商用サポートの下で提供するビジネスモデルは、他のOSSベンダーと共通します。EDBが誇りにしているのは、PostgreSQLのコードへの貢献という点で、2番手、3番手が束になってかかってもわれわれには勝てないくらい貢献しているという点です。大変多くのコードを提供しています。

──日本ではよく「OSSを利用するだけでなくコードに貢献すべき」といった議論が起こります。どう思いますか。

 どう貢献するかは企業の事情によります。日本でもPostgreSQLの開発に貢献してくれている企業や開発者は多いです。われわれのパートナー企業もそうです。さまざまな形で貢献すればいいと思います。また、OSSを取り巻く状況は大きく変わってきています。データ分析やデータ活用のプラットフォームにもOSSが採用されていて、社会インフラを支える金融や公共といったお客さまもOSSを積極的に利用しています。OSSを活用してシステムを作ることも貢献の一つのかたちです。

 いわゆる「エンタープライズ」の大手企業の約35%がOSSのPostgreSQLを採用しています。EDBは、トランザクション系だけでなく、分析系やAIのワークロードを扱うことができます。また、ハイブリッド対応、ソブリンの要件にも対応できます。お客さまが、クローズドな環境に投資したくない、ベンダーロックインに陥りたくないという要件があるなら、オープンなプラットフォームに投資してください。また、オープンの中でも、エンタープライズに求められる要件が必要なら、EDBのようなプラットフォームに投資してください。

左からエンタープライズDB 代表社長 勝俣正起氏、EnterpriseDB CEO ケビン・ダラス氏、APJ地域担当・バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャー スチュワートフィッシャー氏

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