製造業におけるテクノロジー投資の最適化 効果と課題のバランスの確保Gartner Insights Pickup(392)

製造業のCIO(最高情報責任者)は、製造環境における複雑なテクノロジー投資のかじ取りを担っている。テクノロジーへの投資を最適化するには、効果と課題のバランスを理解することが重要だ。

» 2025年03月28日 05時00分 公開
[Kentaro Shikanai, Gartner]

この記事は会員限定です。会員登録(無料)すると全てご覧いただけます。

ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Insights」などのグローバルコンテンツから、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 CIO(最高情報責任者)は、進化を続ける製造環境における複雑なテクノロジー投資のかじ取りを担っている。

 Gartnerが2024年に実施した調査「Business Outcomes of Technology Survey」は、テクノロジー投資の主要分野を明らかにし、その重要性と、もたらすビジネス成果を浮き彫りにしている。製造業者はテクノロジー投資の最適化に取り組んでおり、そのためには効果と課題のバランスを理解することが重要だ。

テクノロジー投資に対する包括的なアプローチ

 製造業のCIOはしばしば、ビジネスリーダーとITリーダーからの相反する要求に振り回される。Business Outcomes of Technology Surveyでは、テクノロジー投資の目的となる重要なビジネス成果の上位3つが、プロセスの効率化(52%)、コストの最適化(42%)、従業員の生産性向上(42%)であることが分かった。

 興味深いことに、環境、社会、ガバナンス(ESG)への配慮(44%)、ビジネス価値実現までの時間(42%)、従業員の能力開発(42%)といった財務以外の要因も、資金配分の決定に重要な役割を果たしている。このように財務的な基準と財務以外の基準へのバランスの取れた目配りは、テクノロジー投資を評価する包括的なアプローチを反映している。

 テクノロジー投資を正当化する上では、主要業績評価指標(KPI)が役立つ。企業は製品の品質向上(62%)、二酸化炭素排出量の削減(52%)、工場稼働率(50%)といった指標を追っている。

 だが、変化疲れ(35%)、改善効果を測定することの困難さ(35%)、未成熟な支援テクノロジー(31%)などの課題が、ビジネス成果に影響を与える場合がある。これらの課題は、ビジネス目標の達成の複雑さを際立たせ、テクノロジー導入の戦略的管理の必要性を浮き彫りにしている。

製造業のCIOに必要な戦略的優先順位付け

 製造業のCIOはこれらの課題に対処するために、プロセス効率、コスト最適化、従業員の生産性に優先的に取り組む必要がある。また、ESG、価値実現までの時間、従業員の能力開発も考慮に入れて、資金配分を決定しなければならない。

 投資を正当化するためには、品質と持続可能性に関するKPIの追跡が欠かせない。戦略的なテクノロジー管理を通じて、変化疲れや未熟なテクノロジーといった課題に対処することで、財務的な基準と財務以外の基準に沿った投資が成功につながる。

テクノロジーの重要性と展開状況の再評価

 Business Outcomes of Technology Surveyでは、企業目標に照らしてテクノロジーの重要性と展開状況を再評価することの重要性も明らかになった。下の図で、テクノロジーの重要性と、展開している企業の割合から、右上の象限にプロットされているテクノロジーについては、優先順位を上げ、投資を保護しなければならない。データ&アナリティクス(D&A)ツール、産業IoT(IIoT)、人工知能/機械学習(AI/ML)がこれに該当する。

画像をご覧いただくには会員登録が必要です
会員登録(無料)・ログイン
(出所:Gartner)

 それぞれの主なユースケースには、以下が含まれる。

  • D&Aツール:生産オーダーと販売ワークフローの可視化と分析、電力管理、品質モニタリング/管理
  • IIoT:予測メンテナンス、業務改善、製品および資産追跡、持続可能性モニタリング、製品/サービスのイノベーション、品質モニタリング/管理
  • AI/ML:生産パフォーマンス管理、生産オーダーと販売ワークフローの可視化と分析、予測メンテナンス

 左上象限にプロットされているテクノロジーは、組織の目標にとってあまり重要ではないが、展開している企業の割合が多い。これは投資を見直す理由になるかもしれない。ロボティックプロセスオートメーション(RPA)がこの象限に該当する。

新興テクノロジーの活用

 無人搬送車(AGV)、AIビジョンシステム、デジタルスレッド、デジタルツインなどの新興テクノロジーは、ユニークな機会と課題をもたらす。その重要性は業界によって異なるが、適切な文脈で十分に活用できれば、大きな価値が得られる。

  • 高度なロボット工学/AGV:多大な初期投資を必要とし、統合は難しいが、業務効率の向上、人件費の削減、安全性の向上を実現する
  • AIビジョンシステム:実装コストが高く、統合には問題があるものの、製品設計の最適化、検査の自動化、エラーの削減を実現する
  • デジタルスレッド:データ統合の複雑さや初期コストの高さなどの課題があるが、業務効率を高め、リアルタイムでの意思決定を可能にする
  • デジタルツイン:セットアップコストの高さやデータ管理の複雑さがネックとなるが、予測メンテナンスや生産プロセスの最適化といった恩恵をもたらす

生成AIの導入と戦略的統合

 製造業では、生成AIが急速に普及しつつある。Business Outcomes of Technology Surveyの回答者の73%が、業務への統合を進めているか計画している。生成AIは大きな可能性を秘めているが、全てのユースケースに最適とは限らないことを認識することが重要だ。製造業のCIOは、生成AIにばかり注力するのではなく、利用可能な幅広いAI技術を検討すべきだ。

 生成AIを他のAI技術と組み合わせることで、企業は精度、透明性、パフォーマンスの向上と、コストおよびデータ要件の削減を実現する堅牢(けんろう)なシステムを構築できる。データ分析や従業員研修など、導入率の高い分野に生成AIを優先的に導入することで、すぐに効果が得られる。ベンダーと協力して生成AIソリューションをさらに探求し、包括的なデータおよびAI倫理ポリシーを通じて倫理的なAIの実践を確保することが不可欠だ。

 製造業のCIOは、戦略的にテクノロジー投資のかじ取りをし、効果と課題のバランスを取る必要がある。主要なビジネス成果に優先順位を付け、テクノロジーの重要性を再評価し、新興テクノロジーを戦略的に統合することで、企業は進化する製造環境の中で業務効率を最大限に高め、長期にわたってイノベーションを継続し、競争力を発揮できる体制を構築できる。

出典:Optimizing Technology Investment in Manufacturing: Balancing Benefits and Challenges(Gartner)

※この記事は、2025年2月に執筆されたものです。

筆者 Kentaro Shikanai(鹿内健太郎)

Sr. Director Analyst

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

スポンサーからのお知らせPR

Cloud Native Central 髫ェ蛟�スコ荵斟帷ケ晢スウ郢ァ�ュ郢晢スウ郢ァ�ー

隴幢スャ隴鯉ス・隴帷」ッ菫」

注目のテーマ

4AI by @IT - AIを作り、動かし、守り、生かす
Microsoft & Windows最前線2025
AI for エンジニアリング
ローコード/ノーコード セントラル by @IT - ITエンジニアがビジネスの中心で活躍する組織へ
Cloud Native Central by @IT - スケーラブルな能力を組織に
システム開発ノウハウ 【発注ナビ】PR
あなたにおすすめの記事PR

RSSについて

アイティメディアIDについて

メールマガジン登録

@ITのメールマガジンは、 もちろん、すべて無料です。ぜひメールマガジンをご購読ください。