英国政府機関のビジネス・通商省が、AIアシスタント「Microsoft 365 Copilot」を3カ月間試験導入した結果をまとめたレポートを公開した。AIアシスタントが業務にもたらす影響や、組織がAIを導入する上で直面する課題を浮き彫りにしている。
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英国政府機関のビジネス・通商省(DBT:Department for Business and Trade)は2025年8月28日(英国時間)、Microsoftが提供するサブスクリプション型のOfficeサービス「Microsoft 365」のAI(人工知能)アシスタント「Microsoft 365 Copilot」(以下、M365 Copilot)を職員1000人に試験導入した結果をまとめたレポートを公開した。
同調査は、2024年10月1日〜2024年12月30日までの3カ月間にわたって実施されており、M365 Copilotの有用性や満足度、導入効果、リスクを評価したものだ。
M365 Copilotについて、回答者の72%が「非常に満足」または「満足している」と回答しており、「不満」は1%未満だった。また「非常に有用」「有用」「ある程度有用」が合計で80%を占めており「全く有用ではない」は3%にとどまった。
回答者の満足度を業務別に見ると、「報告書や議事録の作成」「メール作成」「文書の要約」「会議の要約」といった文章作成や情報整理に関連する業務では満足度が高かった。一方、「スライドデッキやプレゼンテーションの作成・編集」や「スケジューリング」では満足度が低かった。特にスケジューリングでは、36%が不満だったという。
参加者の多くは「M365 Copilotによって自身の業務時間を短縮できた」と評価している。レポートによると、最も顕著な効果が見られたのは「報告書や議事録の作成」で平均1.3時間、2番目が「研究の要約」で平均0.8時間、3番目が「会議の文字起こし・要約」で平均0.7時間、業務時間を短縮できたと評価していた。
一方、M365 Copilotを活用することによりかえって業務時間が増えたと評価した業務もあった。画像生成で平均0.5時間、スケジューリングでは平均0.6時間、追加で時間がかかったと評価していた。
部門やベンダーが提供するM365 Copilotのトレーニングについて、「入門的すぎて自身の仕事にはあまり役立たない」と認識しており、2時間以上を費やして自主的に試行錯誤し、使い方を学んだ回答者は、M365 Copilotへの満足度が高くなる傾向にあった。
部門内トレーニングを5時間以上受けたグループでも、M365 Copilotへの満足度は高かった。だがそれ以外のグループでは満足度の結果に有意な差は見られなかったとした。
ほとんどの回答者は、M365 Copilotがハルシネーション(幻覚)を生成する可能性があることを認識しており、22%がハルシネーションに遭遇したと回答している。43%は「遭遇しなかった」とし、11%は「遭遇したかどうか分からない」と回答した。
また多くの回答者はM365 Copilotの出力結果について文法、スペル、トーンを修正したり、不正確な情報を訂正したりする必要があったという。
「スライドデッキやプレゼンテーションの作成・編集」や「コードレビュー」といった業務でM365 Copilotを使用した場合、品質保証(QA)により長い時間がかかる傾向にあった。さらに「画像生成」や「スケジューリング」といった業務においては、QA自体が難しい、あるいは行われなかった傾向にあったという。
M365 Copilotの利用ポリシーやセキュリティに関する認識は、回答者の間でばらつきがあった。利用ポリシーに自信のないユーザーの多くは機密情報の流出を懸念し、ツールの利用を自主的に制限していた。またM365 Copilot利用者と非利用者の双方から「入力したデータがどこに保存され、どのように扱われるのか分からない」とデータプライバシーを懸念する声も挙がっていたという。
このレポートが示唆するのは、AIツールの導入が技術の問題にとどまらないという点だ。単にAIツールを配布、展開するだけでは、期待通りの成果につながらないリスクがあるといえる。利用ポリシーの策定や、データプライバシーに関する啓発、そしてAIツールについて能動的な学習を促す仕組みづくりなども検討する必要があるといえるだろう。
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