知っていると何かのときに役に立つかもしれないITに関するマメ知識。AppleのAirTagに代表される「紛失防止タグ」。AirTagのおかげで行方不明になった荷物や盗まれたクルマが回収できたというニュースを聞きます。3センチ程度の小さなデバイスで正確な位置が特定できる上に、1年以上も位置を特定していることに疑問を感じませんか? そこで、その仕組みを調べてみました。
AirTagはなぜGPSなしで場所が分かる?最近、筆者の知り合いがヨーロッパからの出張の帰り、機材トラブルで北京経由の飛行機に振り替えになったことで、トランクケースが行方不明になってしまったそうです。航空会社に調べてもらってもなかなか見つからない中、トランクケースに入れておいたAppleの「AirTag(エアタグ)」の位置を確認したところ、北京の空港にあることが分かり、航空会社に連絡して、無事にトランクケースの引き取りに成功した、ということがありました。
このようにAirTagのおかげで、行方不明になった荷物や盗まれたクルマが回収できたというニュースも聞きます。しかし、待ってください。AirTagは、直径31.9ミリ、厚み8.00ミリというコイン状の小さなデバイスです。この小さなデバイスで正確な位置が特定できる上に、1年以上も位置を特定していることに疑問を感じませんか? そこで、その仕組みを調べてみました。
Appleの紛失防止タグ「AirTag」AirTagは、一般には「紛失防止タグ」や「忘れ物防止タグ」などと呼ばれるものの一種です。「紛失防止タグ」には、Androidに対応したものや、iOS/Androidの両方に対応した独自アプリを使うものなどがあります。基本的な仕組みはどれも同じようです。ここでは代表してAirTagの仕組みについて紹介します。
AirTag自体は、GPSを代表とする衛星測位システムを搭載していません。では、どのようにして位置を特定しているのでしょうか。実は、世界中に存在するAppleデバイス(iPhone、iPad、Mac)の「探す」ネットワークを利用しているのです。
AirTagは、匿名化された識別子を乗せたBluetooth Low Energy(BLE)の信号を定期的に周囲に発信しています(Bluetooth Low Energyについては、Tech Basics/Keyword「Bluetooth Low Energy(BLE)」を参照のこと)。
この信号を、近くにある他のユーザーのiPhoneやiPadなどのAppleデバイスが、自動的かつ匿名で検知・受信するのです。信号を受信したAppleデバイスは、そのデバイス自身の「おおよその位置情報」と、AirTagの信号に含まれる匿名化された識別子を暗号化した状態でAppleのiCloudサーバに送信します。
AirTagの持ち主が「探す」アプリを開くと、iCloudサーバから暗号化された情報が送られ、AirTagが最後に検知された「おおよその位置」がマップ上に表示される、という仕組みになっています。
つまり、あなたの普段利用しているiPhoneやiPadが、近くにあるAirTagの情報をiCloudサーバに送信することで、紛失物を探している人はAirTagの現在の位置が分かるのです!
ちなみにAndroidの場合は、同様にGoogleの「デバイスを探す」のネットワークを利用して探します。AirTagや「探す」ネットワークが普及したことで、最近では少なくなってしまいましたが「MAMORIO」のような独自アプリによるネットワークを利用するものもあります。
ここまでは、「紛失防止タグ」に共通した位置を知らせる仕組みです。AirTagでは、さらにiPhone 11以降で対応している超広帯域無線(Ultra Wideband:UWB)技術を使って、より正確な紛失物の位置を特定することができるようになっています。
「探す」アプリを起動すると、紛失物の位置が地図上に示されます。ただ、前述のようにこれは「おおよその位置」でしかありません。例えば、家の中でAirTagを付けた鍵や財布の場所が見つからない場合、あまり意味を持ちません。
このような場合、「探す」アプリの[探す]ボタンをタップすると、UWB技術を使って、数センチ単位の非常に正確な距離と方向を示してくれます。iPhoneがAirTagに近づくと、UWB信号を送受信して、AirTagまでの距離と方向を正確に計算してくれるのです。
「探す」アプリでさらに詳しい場所を探す(1)この機能は、AirTag互換のサードパーティー製「紛失防止タグ」では対応していないものも多いので注意してください。
なお、iPhone 10以前のUWB非対応の機種や、AirTagがおおよその位置にある場合、「探す」アプリからAirTagの内蔵スピーカーを鳴らして、音を頼りに探し出すこともできます。
また、AirTagを紛失した場合、「探す」アプリで「紛失モード」を有効にすることで、他の人がAirTagをNFC(Near Field Communication)対応のスマートフォンで読み取った際に、持ち主が設定したメッセージや連絡先を表示させることも可能です。これにより、落とし物を見つけてくれた人からの連絡を促すことができます。
AirTagは、消費電力の低いBluetooth Low Energyによる通信技術と、広大なAppleの「探す」ネットワークを利用することで、一般的に1年以上の電池寿命を実現しています。それも、電池は比較的入手が容易なCR2032というコイン型で、ユーザー自身で簡単に交換が可能となっています。
AirTagは、小さなコイン形状のデバイスのため、簡単に荷物に忍び込ませることが可能です。勝手に他人の荷物に忍ばせて、行動を把握するといった用途に悪用される危険性があるわけです。
このような迷惑な追跡から保護する機能も用意されています。AppleとGoogleが策定した業界規格により、自分のiPhoneやAndroidに登録されていない「紛失物タグ」による追跡を検知した場合、警告を発する機能があります(Appleの「迷惑なトラッカーを検出する」参照のこと)。もし、「あなたと一緒に移動しているAirTag…」といった警告が画面に表示された場合は、知らない「紛失物タグ」が忍び込まされている可能性があります。カバンの中などを確認するとよいでしょう。
AirTagは、このような仕組みで位置を特定し、知らせてくれます。皆さんが普段使っているiPhoneやiPadがAirTagの位置の特定に活用されているわけです。そのため、Appleデバイスが近くにない場所に紛失物が移動してしまうと、最後に送信された「おおよその位置情報」のまま更新されなくなってしまいます。
また、現時点ではiPhoneの「探す」ネットワークとAndroidの「デバイスを探す」ネットワークで互換性がないため、AndroidでAirTagは使えず、探すことに参加することもできません。
これはちょっと不便な点です。迷惑な追跡から保護する機能と同様、AppleとGoogleでは「探す」ネットワークと「デバイスを探す」ネットワークの互換性を持つような業界規格を策定しているという話もあります。
iPhoneとAndroidの両方で探せれば、「紛失防止タグ」の利便性は大幅に向上することになるでしょう。
Copyright© Digital Advantage Corp. All Rights Reserved.