Rubyは「みんなのプロジェクト」 まつもとゆきひろ氏が振り返るRubyとコミュニティーの30年AIにRailsアプリを作らせたら、できて、動いて、使えるんです(1/3 ページ)

Rubyのフリーは「自由」のフリー。その自由を守り、OSSを維持するためにはコミュニティーの貢献が不可欠だ。Rubyの未来は「私たち」の熱意にかかっている。

» 2025年12月04日 05時00分 公開
[鈴木麻紀@IT]

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 1995年の誕生から30年を迎えるRuby。本稿は「RubyWorld Conference2025」でのまつもとゆきひろ氏(通称 Matz)の基調講演「Rubyコミュニティの30年」に基づき、Rubyとコミュニティーの歩みを振り返る。

 「Rubyコミュニティ」発展の歴史から運用コストや信頼性の課題、Ruby 4.0の展望、そして、Rubyはコミュニティのフレンドリーな文化と貢献が成長を支えてきたことが語られた。

Rubyの父、まつもとゆきひろ氏(通称 Matz)

「みんなのプロジェクト」の誕生

 Rubyの最初のバージョンである「Ruby 0.95」は、1995年12月21日にリリースされた。リリースと同時にメーリングリストが作られ、これがRubyコミュニティの始まりとなった。最初のメーリングリスト登録者は、恐らく200人にも満たなかったとまつもと氏は記憶している。

 最初のメーリングリストへのリアクションはバグ報告であった。当時のコンピュータ環境は多様であり、さまざまなプラットフォーム(例えば、HP-UXなど)でユーザーがRubyのコンパイルやテストを試みていた。

メーリングリストに来た、最初のバグ報告

 初期のユーザーからの貢献は、単なるエラー報告にとどまらなかった。

 「Rubyにこういう機能があったらいいな、こういう方法が考えられますよ、というようなことを言ってきてくれて、そのアイデアを基にRubyが改良されていきました」

初期の貢献者「吉田さん」

 初期のRubyはシフトJISやEUC-JPといった日本語の文字コードに対応していたが、UnicodeやUTF-8といった多言語対応には対応していなかった。

 この状況下で、コミュニティーへの重要な貢献があった。

 「吉田さんという方からメールが来まして、『このパッチを当てるとUTF-8をサポートできます』と書いてあったんです」

 まつもと氏は当時、UTF-8対応はまだ本質的には重要ではないと考えていたが、ストリングクラスと正規表現のクラスを更新したら本当に動いて、コミュニティーのメンバーともどもびっくりした。

 吉田さんのパッチにより、RubyはシフトJIS、EUC-JP、UTF-8をサポートするプログラミング言語になり、そのアイデアをベースとして、文字コードを直接操作しさまざまな文字コードに対応するマルチリンガライゼーション言語となった。

 Rubyリリースからほんの数年後の出来事だった。この時点で既に、Rubyは「私個人のプロジェクト」ではなく、コミュニティーの貢献によって成長する「みんなのプロジェクト」になっていった、とまつもと氏は振り返る。

Rubyの発展と公式化

カンファレンスの開催とコミュニティーの組織化

 「Ruby 1.0」は1996年12月25日にリリースされた。国際的なカンファレンスで初めてRubyに関する基調講演が行われたのは、1998年11月17日に米国で開催された「Perl Conference」であった。

 1999年には「Rubyワークショップ」が、2000年には「Perl Ruby Conference」が開催され、2001年10月にはフロリダのタンパで「第1回 Rubyカンファレンス」が開催された。これ以降、世界各地でRubyのカンファレンスが開催されるようになる。例えば、ドイツで「第1回 Euro Ruby」が開催されたのが2003年ごろ、「日本Ruby会議」が2006年ごろ、そして「RubyWorld Conference」は2009年から開催されている。

 コミュニティーの組織化も進んだ。Rubyカンファレンスの開催を支援する目的で、2002年に米国で「Ruby Central」が設立された。日本では、2004年の「Rubyユーザー会」発足を経て、「Rubyアソシエーション」が2007年に設立され、Rubyの普及や産業的な利用推進に取り組んでいる。

バージョンの秘密

 リリース前のRubyは、まつもと氏が誰かにRubyのコピーをあげるたびに、「0.90」「0.91」「0.92」とバージョンを上げていっていた。

 「そうしないとね、どれをあげたか分かんなかったから」

 Ruby 1.0リリース以降は、開発バージョン(1.1、1.3などの奇数)と安定バージョン(1.2、1.4などの偶数)のバージョニングを採用していたが、「バージョン番号という非常に貴重なリソースを、こんなに無駄遣いしてはいけない」と思い、1.9をリリースしたタイミングから、「1.9.0」を開発バージョン、それ以降の「1.9.1」「1.9.2」を安定バージョンというバージョニングにした。

 これが「2.0」まで続き、Ruby誕生20周年を記念して2013年2月24日にリリースした「Ruby 2.0」以降は、「2.0 dev」は開発バージョンで、「2.0」や「2.1」などの「dev」が付ついていないものを安定バージョンとし、いまに至る。

 2020年12月25日には「Ruby 3.0」をリリース。それ以前のアンダーグラウンドなイメージから脱却し、エンタープライズ領域などでの利用を意識した変化があった。

 そして2025年に誕生30周年記念として「Ruby 4.0」をリリースする。講演内でまつもと氏が発表し、会場に集まったRubyist(ルビイスト)たちから歓声が上がった。

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