生成AIの登場は、プログラミングの在り方を大きく変えている。まつもと氏は、自身の体験として衝撃的なエピソードを紹介した。
「最近、AIにRailsアプリを作らせたんです。(会場どよめく)すごいでしょう。何をしたかって言うと、『Claude Code』に『こんなアプリが欲しいんだけど』って言ったら作ってくれてですね。私、縛りプレイが好きなので、アプリを作るに当たって『コードを1行も見ない』っていう縛りを課した。そうしたら、できて、動いて、使えてるんです」
生成AIの進化によって簡単なアプリケーションは作れるようになり、プログラミングの難易度が大きく下がったことを示す話だ。
Rubyのコア開発に貢献するために、かつてはC言語の深い知識、すなわち「優秀なCプログラマーであること」が求められていた。
「最近はAIがあるので、Cとか分からなくてもアイデアさえあれば何とかなるケースは多いですよ。うちのJITコンパイラはRustで書いてあるんですけど、JITコンパイラの最大の貢献者が『私はRustを書けないけれど、AIがあるから大丈夫』と言ってたので、皆さんもアイデアさえあれば何とかなります」
まつもと氏は、AIの助けがあればCやC++の知識がなくても貢献できるケースが増えてきていると述べ、コア開発への参加ハードルが下がる可能性を示唆した。
2025年にリリースされるRuby 4.0には、ZJITと「Ruby Box」(ネームスペース機能)が搭載される予定である。
プログラミングをしていると、エラーやバグに直面することがある。そうしたときにはどういう心持ちでプログラミングに向き合えばいいのだろうか。
「私、バグが出ると結構ワクワクするんです。『どうやって直しやろうかな』って」
まつもと氏はバグを「天然のパズル」と呼び、エラーメッセージを「パズルのヒント」(クロスワードパズルのカギのようなもの)だと思っているという。パズル本を買わずとも優秀なパズルが次々と目の前にやってくるので、「こんなとこにあったわ」とバグを見つけ、「直してやったわ」と達成感を楽しんでいる。
「プログラミングの楽しさって幾つかあって、1つはパズルの楽しさ。それから、モノを作り出す楽しさ。新しくクリエイティブなものを、ユーザーの期待を超えるようにデザインする楽しさもありますよね。プログラミングのフェーズごとにいろいろな楽しさがあると思うので、楽しい側面を見いだして集中していくといいんじゃないかなと思います」
OSSとしてのRubyは、多くのユーザーに「無料」で利用されているが、まつもと氏は改めてオープンソースにおける「フリー」の概念を強調した。
「フリーソフトウェアのフリーとは、『無料のビール』(Free Beer)のフリーではなくて、『自由』(Freedom)のフリーなんです」
Rubyを利用する自由を享受し続けるためには、自由な、そして自発的な意思によって、コントリビューション(貢献)することが推奨される。それはRubyを支援する団体やプロジェクトへの参加であったり、作ったサービスの一部をフリーソフトウェアとして公開することであったり、労力だったり、コードだったり、資金だったり、さまざまだ。それら多様な貢献がRubyそのものをも自由にする。
「Rubyはこの30年、大きく発展しました。これもコミュニティーのおかげだと思います。『私たちのプロジェクト』であるRubyは、世界を良くするために、日々発展し続けていますので、コミュニティーにもっと参加して、良い一員であっていただきたいと思います。プログラミングを楽しむことは本当に大事なので、皆さんがそのまま楽しむことを、Rubyも助けたいと思っています」
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