ここまで、成長が自己責任になった背景を考えてきました。でも、何で成長しないといけないの? お金はそこそこもらってるし、ゆったり自分のペースで仕事できればいいんだけどな――冒頭でお話ししたEMの悩みは、そう考える若いエンジニアがチームにいることでした。
マネジャーはチーム力を高めていくことが仕事の一つですから、成長してもらわないと困るのは当然です。でも、エンジニア個人としての生き方だから、そういうのもアリでは? そう考えるのも不思議はありません。
でも、エンジニアとしてこの先生きのこっていたいなら、自己責任で成長していかないとやばい。菌類、そう断言します。
技術の進歩が仕事を奪うという出来事は、歴史上何度も繰り返されてきました。「19世紀初頭、産業革命が進む英国で、仕事を失うことを恐れた織物職人が紡績機を打ち壊す『ラッダイト運動』が起きた」という史実を、世界史の授業で習った記憶があるかもしれません。
その後も技術の進歩による大きなイノベーションが次々と起き、われわれは現在「第四次産業革命」の真っただ中にいるのです。え、もう4回目?
そして産業革命が起こる間隔は、どんどん短くなっているのです。ちょっと表にまとめてみましょう。
紡績(繊維を撚より合わせて糸を作ること)は、旧石器時代から行われていたと言われています。それを機械化するのに2万年かかっていますが、そこから200年あまりで3回産業革命が起きているの、変化が早過ぎません? 第三次の「20世紀半ば」と第四次の「2010年代」、菌類両方経験しているのですが……?
さて、エンジニアにとって、いままさに「自分事」であるAI(人工知能)。皆さんは職場で使っていますか? 活用の度合いやアウトプットの品質は現場によってまちまちでしょうが、もうAIを使わない時代のプログラミングに戻ることはないでしょう。AIを使いこなして生産性を高めること、AIのアウトプットに責任を持ち品質を保証すること。これが、これからのエンジニアに求められる仕事です。
AIの他にもエンジニアの仕事を脅かすものとして、通称「2029年問題」があります。
「2000年問題」(西暦下2桁が00になるため考慮が漏れたソフトウェアが不具合を起こす)や「2038年問題」(UNIX標準時が32bitシステムでオーバーフローし、負の値になる)はよく知られていますが、2029年って何が起きるんだっけ?
2022年、教育指導要領が改訂され、高校の教育内容が大きく変更されました。その中でわれわれに大きく関係するのが「情報」の科目です。それまで選択科目だった「社会と情報」「情報の科学」を整理して「情報I」「情報II」に再編成し、「情報I」を必修科目にしました。
菌類、気になったので「情報I」の教科書を買って読んでみたところ、内容に結構びっくりしました。「ITリテラシーのきほん〜」みたいなユルい内容かと思ったら、あにはからんや。
知財権やサイバー犯罪など情報化社会の課題、コミュニケーションと情報デザイン(量子化についても学ぶ)、プログラミング、データベース、ネットワーク、データ分析の基礎など、普段のエンジニアの業務に直結する内容が盛りだくさん。ちゃんとやれば「ITパスポート」や「基本情報処理技術者」の資格は余裕で取得できそうなカリキュラムです。
この教育を受けた学生たちが社会に参入してくるのが2029年なのです。
高校で必修ということは、エンジニア職以外の新卒たちもみんな(ちゃんとやっていれば)ITパスポート以上のスキルを標準装備として入社してきます。オールドタイプな先輩従業員は仕事を奪われるリスクがある、という意味で「2029年問題」なんて呼びたくなるのかもしれません。
さらに、この年代の新卒エンジニアたちは、AIによるソフトウェア開発のネイティブ世代でもあります。文部科学省は「MDASH」という、数理、データサイエンス、AI領域において、大学など教育機関のプログラムを認定する制度を実施しています。当然その中にはデータ構造とプログラミング、アルゴリズム、統計などが含まれていますから、エンジニアの固有スキルがどんどん一般化しているのは間違いありません。
ということで世の中を見渡すと、われわれエンジニアの前には
……が待ち構えているというわけです。そんな状況でのんびり現状維持のぬるま湯に漬かっているなんて、さすがにやばそうじゃないですか。
そんなわけで、2025年現在のエンジニアという仕事は「ボーッとしてるとやばい」という状態にあるのを理解していただけたでしょうか。
しかし、めげていても事態がよくなるわけではありません。次回は、そんな成長自己責任時代にエンジニアが生きのこるための生存戦略を考えます。大丈夫です、希望はありますから。
ニューノーマル時代のエンジニア生きのこり戦略
きのこる先生の「リモートワーク時代のエンジニア生存戦略」
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