野村総合研究所の調査で、生成AIが急速に普及する一方、AIリテラシーの不足やリスクへの対処、レガシーシステムの残存、人材不足といった課題が目立つことが明らかになった。
この記事は会員限定です。会員登録(無料)すると全てご覧いただけます。
野村総合研究所(NRI)は2025年11月25日、日本企業のIT活用状況を把握するために実施した「IT活用実態調査(2025年)」の結果を公表した。本調査は2003年から続く定点観測で、23回目となる今回は国内大手企業を中心に517社から回答を得た。
本調査によると、2025年度のIT予算が前年度より増加した企業は全体の49.0%で、減少した企業は7.5%にとどまった。半数近くの企業が予算を増やす姿勢を維持しており、IT投資の重要性が引き続き高いことがうかがえる。一方で、この割合は前年度(59.0%)から10ポイント低下しており、予算拡大の勢いは落ち着きつつある。
2026年度については47.5%の企業がIT予算の増加を見込んでいる。生成AI(人工知能)やデジタル基盤整備に向けた投資需要は引き続き旺盛であり、企業の中長期的なDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略を支える基盤としてのIT投資が継続すると予想される。
生成AIを「導入済み」と回答した企業は57.7%に達し、2023年度の33.8%、2024年度の44.8%から大幅に増加した。「導入検討中」(18.1%)を含めると、75.8%の企業が生成AIを何らかの形で取り入れようとしており、日本企業における生成AIの普及は急速に進んでいることが明らかとなった。
背景には、「ChatGPT」や「Gemini」をはじめとする汎用(はんよう)的なAIサービスの普及がある。導入が一巡した企業も増えており、今後は業務適用範囲の拡大や、業務効率化・高度な分析といった具体的な成果の創出に向けたフェーズへと移行すると考えられる。
ノーコード/ローコード開発ツールの導入率は51.0%となり、2024年度から4.9ポイント増加した。専門スキルを持たない従業員による「市民開発」が広がりつつあり、内製化を支える技術基盤として重要性が高まっている。
生成AIの活用に関する課題として最も多かったのは「リテラシーやスキルの不足」で、70.3%に上った。前年(65.4%)からさらに増加しており、企業の導入が進むほど、業務で適切に活用できるスキルの不足が顕在化している。
「リスク(セキュリティ、コンプライアンスなど)を把握し管理することが難しい」と回答した企業も48.5%に達し、データ漏えいや著作権問題など、生成AI利用に伴うリスクへの対応が追い付いていない実情がうかがえる。多くの企業において、技術の積極的な導入と組織的なガバナンス整備のギャップが課題になっていると考えられる。
「レガシーシステムが残っている」と回答した企業は、アプリケーションで47.3%、基盤系で48.2%とほぼ半数に上った。2021年度と比べると減少傾向にあるものの、依然として大きな構造的課題として残っている。懸念事項としては、「ブラックボックス化や有識者不足」(51.6%)、「ベンダーサポート終了」(50.1%)が上位に挙がっており、技術的負債の累積が企業の迅速なIT刷新を阻む一因となっている。
必要とされるITスキルの保有状況を尋ねた項目では、「プロジェクトマネジャー」「ITストラテジスト」の重要性が特に高かった。しかし、ITストラテジストについては「保有すべき」と回答した割合が71.9%だったのに対し、実際の保有率は29.6%にとどまっており、戦略的IT人材の獲得・育成が日本企業のDX推進における大きな制約となっていることが明らかになった。
NRIグループでは今回の調査結果を踏まえつつ、今後も引き続き企業のIT・デジタル化の実態をさまざまな調査を通じて明らかにしながら、「時流と共に生じる課題の解決をさまざまな視点から推進・支援していく」としている。
「多重下請けSIビジネスは崩壊する」――企業のIT部門も試される「AI主導開発の未来」
2026年に台頭するAIエージェントやWeb 4.0、量子計算技術の進化に関するリスクとは
AWS Re:Invent 2025で発表された開発運用/セキュリティの新機能はどう役立つのか?Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.