Gemini 3 Flash登場 Proに迫る性能で価格は最大1/8、軽量モデルがAI開発の常識を変えるかDeep Insider Brief ― 技術の“今”にひと言コメント

派手な性能競争の陰で、AI開発の現場では別の変化が起き始めているのかもしれない。Googleが発表した「Gemini 3 Flash」は、その兆しを象徴するモデルだ。この発表を起点に、軽量モデルが開発の主役になり得るのかを筆者なりに考えてみたい。

» 2025年12月23日 05時00分 公開
[Deep Insider]
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 これまで「Gemini 2.5 Flash」と聞けば、高速だが知能/性能は控えめな軽量モデル、というイメージを持つ人が多かったはずだ。ところがGoogleが2025年12月17日(米国時間)に公開した最新モデル「Gemini 3 Flash」は、その前提を崩す存在である。

 Gemini 3 Flashは、軽量モデルでありながら、上位モデルであるGemini 3 Proに迫る実務的な性能を備えていることが、公式に公開されたベンチマーク結果などから読み取れる。

Gemini 3 Flashのベンチマーク結果(公式発表ページより引用) Gemini 3 Flashのベンチマーク結果(公式発表ページより引用)
実務的なコード修正能力を測る「SWE-bench Verified」では、Gemini 2.5 Flashの正答率60.4%に対し、Gemini 3 Flashは78.0%を記録しており、約18ポイントの向上が見られる。また、ターミナル操作を伴うエージェント的な開発タスクを評価する「Terminal-bench 2.0」でも、Gemini 3 Flashは47.6%と、Gemini 2.5 Flashの16.9%を大きく上回る。

 GoogleはGemini 3 Flashを「スピードを追求した最先端インテリジェンス(知能)」と位置付けている。つまり、単に応答を速くするだけでなく、効率性や速度を重視しながらも、実用に耐える知能や性能を同時に成立させようとしている。

 Googleの説明によれば、Gemini 3 Flashは前世代のGemini 2.5 Proと比較して(Artificial Analysisのベンチマークでは)約3倍高速に動作し、トークン消費量も平均で約30%削減されているという。実際、公開されているデモ動画を見ると、Gemini 3 FlashがGemini 2.5 Proよりも短い時間で同種のタスクを完了している様子が確認できる。もっとも、このデモは世代の異なるモデル同士の比較であり、最新のGemini 3 Proとの厳密な速度差を直接示すものではない点には留意が必要だ。

 それでも注目すべきなのは、こうした速度と効率性の向上が、単なる軽量化の結果にとどまらない点である。Gemini 3 Flashは、Google検索の「AIモード」やGeminiアプリ(無料版)のデフォルトモデルとして採用されており、日常的なタスクを高い精度で処理できる水準の知能を備えている。高速かつ低コストで動作しながら、実用面では上位モデルに近い体験を提供できることが、このモデルの大きな魅力だ。

 ソフトウェアエンジニアの視点でも、Gemini 3 Flashは魅力的だ。先に見たベンチマークのうち、実務に近いソフトウェア修正能力を測る「SWE-bench Verified」では、Gemini 3 Proのスコアが76.2%であるのに対し、Gemini 3 Flashは78.0%と、わずかながら上回っている。この結果だけで「Flashの方が開発能力に優れる」と結論付けることはできないものの、少なくとも一部の実務指標において、軽量モデルが上位モデルを超える結果を示している点は衝撃的だ。

 開発者にとって、もう一つ見逃せないのがAPIの利用コストである。Gemini 3 FlashのAPI価格は、入力が0.50ドル/100万トークン、出力が3.00ドル/100万トークンに設定された(詳細後述)。これはGemini 3 Proと比較すると、概算で4分の18分の1程度の水準に当たり、特に大量のドキュメントやコードを読み込ませる長文コンテキストのタスクでは、極めて大きなコスト差となって表れる。ただし、前世代のGemini 2.5 Flashと比べると、価格は据え置きではなく、入力トークンは約66%、出力トークンは約20%と値上がりしている。

 加えて、新モデルの発表と同時にGemini CLIやGoogle Antigravityだけでなく、GitHub Copilot、JetBrains、Cursorといった主要なAI開発ツールや、OpenRouterなどのAPIサービスで相次いで対応が表明され、既に多くの開発者の手元で利用可能な状態になっている。

――ここからは『Deep Insider Brief』恒例の“ひと言コメント”として、今回の発表から技術の“今”を少し深く見ていく。


一色政彦

 Deep Insider編集長の一色です。こんにちは。

 ここまでのモデル紹介を読んで、どう感じられたでしょうか。言語モデルは年々巨大化する傾向にあり、今回のGemini 3 Flashでは、前世代のGemini 2.5 Flashと比べてAPI価格が上昇しているという事実もありました。

 その一方で、Gemini 3 Proよりも軽量でありながら、実務レベルで十分に使えそうな性能を備えたモデルが、ようやく現実的な選択肢として見え始めてきました。Gemini 3 FlashとGemini 3 Proでは、API価格が(利用条件によって)最大8倍も異なります。そうであれば、軽量モデルを選ぶインセンティブはかなり高いと考えられます。私は、そこに大きな変化の兆しを感じています。

 もちろん、特に性能面については、公式発表の情報だけをそのまま受け取るのは慎重であるべきでしょう。そこで一つの参考になるのが、人間の投票によって評価されるベンチマークであるLM ArenaのWebDev(Web開発)リーダーボード(2025年11月17日時点)です。ここでは4位に「gemini-3-pro」、そのすぐ下の5位に「gemini-3-flash」が並んでおり、少なくとも開発者の体感として、両者の差がそれほど大きくないことがうかがえます。

 「性能は微差で、価格が大差」という状況を踏まえると、軽量モデルがソフトウェア開発におけるデフォルト(標準)モデルとして選ばれる時代が近づいている、と私は見ています。高性能モデルを常に選ぶのではなく、日常業務では軽量モデルを使い、本当に必要な場面に絞って上位モデルに切り替える。2026年は、そうした使い分けが当たり前になる可能性も十分にありそうです。


 今回のリリースには、開発者が押さえておきたい特徴が他にも幾つか含まれている。これらを丁寧に解説すると長くなるため、残りは以下に箇条書きで整理しておく。

その他の特徴

モデルスペックと新機能

  • マルチモーダル対応の継続強化: テキストに加え、画像や音声入力にも対応しており、API経由で複数の入力形式を組み合わせた処理が可能。将来的なツール連携や自動化を想定した設計となっている
  • 長大なコンテキストウィンドウ: 最大100万トークンのコンテキストに対応。大規模なコードベースや長文ドキュメントを一度に扱えるため、RAG(検索拡張生成)や設計資料の読み込みといった用途との相性が良い
  • 学習データの期間(ナレッジカットオフ): 2025年1月までの情報を学習済み
  • モデルコード: gemini-3-flash-preview(2025年12月時点)

Gemini APIの価格表(Gemini 3 Flash利用時)

  • 100万トークン当たりの料金:
    • 入力トークン(テキスト/画像/動画): 0.50ドル
    • 入力トークン(音声): 1.00ドル
    • 出力トークン: 3.00ドル
  • コンテキストキャッシュ利用時の料金(100万トークン当たり):
    • 入力トークン(テキスト/画像/動画): 0.05ドル
    • 入力トークン(音声): 0.10ドル
    • コンテキストキャッシュとは、一度処理した会話の履歴など(コンテキスト)を保存しておく仕組み。キャッシュされた入力を再利用する場合、再計算が不要となるため、通常の入力より低コストで利用できる
    • Gemini 3 Flashでは、コンテキストキャッシュ利用時の保存料金が1時間当たり1.00ドル(100万トークン)として設定されている

 価格は変更される可能性があるため、利用の際はGoogle公式ドキュメント「Gemini Developer APIの料金」を必ず確認してほしい。

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