「シャドーAPI」「類似API」「放置API」、“API=つなぐ”ではもう乗り切れない?APIファースト時代のAPI管理(2)現状と求められるガバナンス

「APIファースト」という設計思想は、単なる技術トレンドを超え、ビジネス成長とイノベーションを加速させるための戦略的アプローチとして確立されました。一方で、APIの統制不足は深刻なリスクをもたらします。

» 2026年01月20日 05時00分 公開
[帆士敏博Kong]

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 「APIファースト」の考え方が広がり、企業内外でAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)の活用が加速しています。一方、APIの数や用途が増加する中で、制御や可視性の確保が困難になる事例も増えています。

 アプリケーションやサービスを開発する際に、まず機能やデータへのアクセス方法をAPIとして設計・定義するアプローチがAPIファーストです。企業がそうしたAPIを中心とした設計思想に本格的に移行するためには、現状のAPI管理の実態と、その限界を正しく理解することが不可欠です。本稿では、APIエコシステムの拡大と複雑化がもたらす具体的な課題を掘り下げ、なぜAPIガバナンスの強化が必要とされるのかを明らかにします。

1.広がるAPIエコシステム――企業内外で進むAPI化

 かつてAPIは、主に社内システム間の連携や一部のパートナー向け連携手段として活用されていました。しかし、現在のAPIは、社内システム間の連携を超えて、BtoB(Business to Business)、BtoC(Business to Consumer)のビジネス接点そのものとして進化しつつあります。

 例えば、金融機関が提供するAPIを利用して外部のFinTech企業が口座連携や決済機能を組み込むケース、製造業が工場内データをAPIで標準化し、MES(Manufacturing Execution System:製造実行システム)やPLM(Product Lifecycle Management:製品ライフサイクル管理)とのリアルタイム連携を実現する例、また小売業がECプラットフォームと在庫・決済情報をAPIでつなぐことで、顧客体験を向上させる取り組みなど、APIのユースケースは業界や部門を問わず広がっています。

 APIは、顧客やパートナーとのインタフェースとしても重要な役割を果たしています。開発者ポータルを通じて外部にAPIを公開し、外部開発者によるアプリケーション開発やサービス連携を促すことで、新たなエコシステム形成を目指す企業も増えています。これにより、APIは単なる「技術的な通信手段」ではなく、「事業連携の基盤」としての役割を担うようになりました。

画像 APIが複雑になるほど課題も増える(提供:Kong)《クリックで拡大》

2.制御困難なAPIの増殖――管理が追い付かない現場の実態

 こうしたAPIの爆発的な広がりの一方で、管理されないAPIの乱立が多くの組織で問題視されています。特に以下のようなリスクが顕在化しています。

シャドーAPIの増加

 シャドーAPIとは、組織内で正式に承認されていない、またはガバナンスが及ばない形で開発・公開されたAPIを指します。開発者が迅速なデリバリーを優先し、統一されたプロセスを経ずにAPIを実装することで発生しがちです。

 これらのAPIはセキュリティレビューや変更管理の対象外となり、脆弱(ぜいじゃく)性やデータ漏えいリスクを引き起こす原因となります。さらに、仕様のドキュメントが不十分であったり、利用者が限られているために放置されたりすることで、技術的負債として蓄積されがちです。特に、開発者個人に依存したAPI管理では、退職や部署異動時に管理が杜撰(ずさん)になる恐れがあり、外注でのシステム開発は社内での管理をさらに困難にします。

画像 API管理のサイロ化は生成性の低下やコスト増大につながる(提供:Kong)《クリックで拡大》

重複・類似APIの非効率

 複数の開発チームが、それぞれ独立してAPIを設計・実装することで、同様の機能を持つAPIが複数存在するケースもあります。例えば、顧客情報を取得するAPIが部門ごとに微妙に異なる仕様で乱立していたり、在庫管理APIが利用するエンドポイントやレスポンス形式がプロジェクトごとにバラバラだったりする事例が挙げられます。

 これは再利用性が低下するだけでなく、保守・運用コストの増大や、システム統合時のトラブルを招く原因となります。

3.管理の断片化と設計のばらつき――組織の壁がAPI品質を左右する

 APIの増殖が引き起こすもう一つの大きな課題は、管理の断片化と設計・実装のばらつきです。

部署ごとに異なる実装方針

 ある企業では、事業部門ごとに異なる開発体制を敷いており、それぞれが独自のAPI設計ルールやセキュリティポリシーを採用していました。ある部署では「RESTful API」が中心で「OpenAPI」仕様に準拠していた一方、別の部署では「GraphQL」や「gRPC」を採用していたり、API仕様の記述が「Excel」ベースで管理されていたりするなど、「APIの共通言語」が社内で確立されていない状況がありました。

 このような状況では、APIの再利用や社内ドキュメントの標準化が難しく、開発者や運用担当者の負担が増加します。最終的には、システム間連携にかかる調整コストや、API連携による障害発生リスクの増大につながります。

可視性・監査性の不足

 どのAPIがどこで、誰に、どのように使われているかが把握できていないケースも多く見受けられます。APIの利用状況が一元管理されておらず、外部からのアクセスや不正リクエストが検知できないまま放置されるといった、セキュリティインシデントも実際に報告されています。

 特に、複数クラウド環境をまたいでAPIが展開されている場合や、拠点ごとにAPI基盤が分散されている場合、APIの健全性やライフサイクルを包括的に把握することは困難になります。

4.APIインシデントの実例――制御なき拡大が招くリスク

 実際に、こうした「APIの統制不足」に起因するトラブルも発生しています。

金融機関の事例

 ある金融機関では、社内で定義された仕様書と異なる形式のAPIが外部公開されていたことが判明。セキュリティテストの対象から外れていたため、認証バイパスの脆弱性が数カ月間放置され、緊急対応を迫られました。

製造業の事例

 製造業のある事例では、APIのレスポンス形式がプロジェクトごとに異なっており、データ統合時にエラーが頻発。最終的にデータ分析プロジェクトが半年以上遅延する結果となりました。

小売業の事例

 某小売企業では、廃止されたはずの旧APIが依然稼働していたことで、不正アクセスの入り口となり、顧客情報の漏えいが懸念される事態が発生しました。APIのライフサイクル管理の不備が重大なリスクにつながった例です。

 これらの事例は全て、APIのガバナンス不在が組織全体のリスクを高めることを如実に物語っています。

まとめ――APIは“つなぐ”だけではなく、“管理する”時代へ

 APIは、つなぐための手段から、統合された設計と管理の対象へと進化しています。APIの数が増えれば増えるほど、設計、実装、公開、監視、廃止に至るまでのライフサイクルを統制し、全体の健全性とセキュリティを確保する必要性が高まります。

 第1回『なぜ今「API」が主役なのか? APIファーストが開発効率とビジネス拡大にもたらす変化とは』で述べたように、APIファーストは開発やビジネスを加速する強力な思想です。しかし、その裏側では、「APIの増殖」と「ガバナンスの不在」が組織の技術的負債を増やす可能性があることを忘れてはなりません。


 次回は、この問題を解決する鍵となる「APIガバナンス」に焦点を当て、柔軟性と統制を両立させるための考え方と実践方法を掘り下げていきます。

筆者紹介

帆士 敏博(ほし としひろ)

マーケティングディレクター/Kong株式会社

2023年12月にKongへ入社。日本市場におけるマーケティング戦略の立案と実行を統括し、API管理基盤「Kong Konnect」を中心とした製品・ブランドの認知拡大に取り組む。これまで、HERE TechnologiesおよびF5 Networksにおいてマーケティング部門を率い、フィールドマーケティング、プロダクトマーケティング、ブランド戦略など幅広い領域を担当。また、キャリア初期には大手SIerにてネットワーク製品の検証業務に従事し、その後、大手商社向け在庫管理アプリケーションの開発にも携わるなど、エンジニアリングとビジネスの両視点からテクノロジー活用を推進。


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