なぜ今「API」が主役なのか? APIファーストが開発効率とビジネス拡大にもたらす変化とはAPIファースト時代のAPI管理(1)

今や単なる技術仕様ではなく、ビジネスを加速させる戦略的資産となったAPI。「APIファースト」は、開発の初期段階でAPI仕様を定義し、柔軟かつ高速なサービス構築を実現する設計思想として注目されています。

» 2025年11月19日 05時00分 公開
[帆士敏博Kong]

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 デジタルビジネスが広がる今日、「API」(Application Programming Interface)は単なる技術的なインタフェースを超え、ビジネス成長とイノベーションを加速させる戦略的な資産として注目されています。中でも近年は、「APIファースト」という設計思想が台頭し、システム開発やサービス設計の前提として位置付けられるようになりました。APIがこれほどまでに重要視されるのはなぜでしょうか。本稿では、APIファーストの概念とその背景、技術トレンドとの関係、そしてビジネス変革に与える影響について解説します。

1.APIファーストの定義と背景

 APIファーストとは、「まずAPIありき」という設計思想に基づき、アプリケーションやサービスを開発する際に、その機能やデータへのアクセス方法をAPIとして最初に設計・定義するアプローチを指します。ここで言うAPIとは、システム同士がデータをやりとりするための“仕様書”のような存在で、「どのような機能があるか」「どのようなリクエストを送れるか」「どのようなデータが返ってくるか」を定めるものです。これにより、異なるシステム間でもスムーズな連携が可能になります。

画像 APIの役割(提供:Kong)

 以下の2つのアプローチがAPIファーストに包含されています。

  • 戦略的アプローチ
    • ビジネス上の資産としてAPIを捉え、その公開と活用を通じて新たな価値を創出する
  • 実践的なアプローチ
    • ビジネスロジックよりもAPIを先に設計する

 この思想を先駆的に提唱した事例として知られているのが、Amazon.comのジェフ・ベゾス氏による「APIマンデート」(マンデート:命令)です。ベゾス氏は2002年ごろ、社内の全てのチームに対し、相互のコミュニケーションをAPI経由で行うことを義務付けたといいます。これによりAmazon.comはマイクロサービスアーキテクチャへの移行を加速させ、今日のプラットフォームビジネスの基盤を築き上げました。

画像 コードファースト vs. APIファースト(提供:Kong)

 従来のアプリケーション開発では、ユーザーインタフェースやビジネスロジックが先行して設計され、APIは後付けで作成されることが一般的でした。しかし、APIを先に設計することで、以下のようなメリットが生まれます。

  • 抽象化と依存関係の削減
    • APIは、提供する機能と内部実装を切り離す抽象化レイヤーとして機能します。これにより、開発チームはそれぞれのコンポーネントを独立して開発・テストでき、チーム間の依存関係が大きく緩和します。この依存関係の緩和は、複数の開発チームが並行して作業を進められることを意味し、結果として開発サイクル全体の速度が向上します。投資銀行であるGoldman Sachs(ゴールドマン・サックス)も、APIファーストへの移行を通じて開発効率を向上させました。
  • API as a Productの考え方
    • APIを単なる技術要素ではなく、顧客に価値を提供する「製品」と見なす考え方です。APIのライフサイクルを管理し、ユーザーのニーズを捉えながら機能拡張や改善をすることで、APIそのものが新たな収益源やビジネス価値を生み出す源泉となります。
画像 コードファーストとAPIファーストの違い(提供:Kong)

2.技術トレンドとの関係

 APIファーストのアプローチは、近年の主要な技術トレンドと密接に結び付いています。

クラウドネイティブ、マイクロサービス、コンテナ化との親和性

 レガシーなモノリスアプリケーションは、複雑さ、変更の難しさ、拡張性の限界といった課題を抱えていました。遅い、重い、障害影響範囲が広い、開発スピードが上がらないといった課題は、マーケットのニーズを満たせず、競合に後れを取る原因となります。

 これに対し、マイクロサービスアーキテクチャは、機能を独立した小さなサービスに分割し、それぞれがAPIを通じて連携することで、高い俊敏性、スケーラビリティ、耐障害性を実現します。このマイクロサービスを効率的にデプロイ、管理するためのプラットフォーム技術として、「Docker」などのコンテナ技術や「Kubernetes」のようなコンテナオーケストレーションツール、そしてクラウドネイティブ環境が不可欠です。APIは、これらのサービス間の通信を標準化し、相互運用性を確保する上で中心的な役割を果たします。

画像 APIファーストの意味と狙い(提供:Kong)

CI/CDによる継続的デリバリーの実現とAPIOps

 より早く、安全に、頻度高くアプリケーションをリリースするためには、CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)パイプラインの構築が必須です。APIの仕様をOpenAPIなどの標準フォーマットで定義し、CI/CDパイプラインに組み込むことで、APIファイルの変更管理、APIゲートウェイへの設定、社内外への公開といった一連のプロセスを自動化できます。

 ここで言うOpenAPIとは、APIのエンドポイント、リクエスト、レスポンスなどの設計内容をJSONやYAML形式で標準化して記述する仕様で、人にも機械にも読みやすい「共通言語」として広く利用されています。このAPIに特化したCI/CDの概念は「APIOps」と呼ばれ、API開発のスピードと品質を両立させる上で極めて重要です。

3.ビジネス変革との接続

 APIは、技術的な側面だけでなく、組織構造やビジネスモデルそのものに変革をもたらします。

開発、運用、ビジネス部門の境界の曖昧化

 以前は、アプリケーション開発部門とインフラ運用部門は独立しており、モノリスアプリケーションではそれぞれがサイロ化しがちでした。しかし、マイクロサービスの普及により、アプリケーション開発者が開発と運用の両方を担うDevOpsの考え方が広まりました。

 サイト信頼性エンジニアリング(SRE)では、開発者が運用の責任を持つことで、サービス信頼性の向上を目指します。さらに、開発者が自律的にプラットフォームを活用できる環境を提供するプラットフォームエンジニアリングといった新たな組織形態や役割が生まれています。『Team Topologies』(Matthew Skelton氏とManuel Pais氏による著書、2019年発刊)などの書籍でも、こうしたチーム間の協調と効率化の重要性が説かれています。APIは、異なる部門やチーム間の連携をスムーズにし、ビジネス目標達成に向けた一体感を醸成する触媒となります。

APIが新たな収益源 エコシステム形成の鍵となる事例

 APIは、既存のビジネスを強化するだけでなく、新たな収益源やビジネスモデルを創出する強力なツールです。各企業はAPIを通じて新たな収益源、エコシステムを創出しています。

Mercedes-Benz(メルセデス・ベンツ)

 独自のAPIポータル「Mercedes-Benz /developers」を通じて、車載センサーから得られる走行データを外部に公開。これによりリアルタイムの道路情報がスマートシティー開発に活用され、新たな収益とデータエコシステム形成に成功。

Goldman Sachs

 Apple Cardや独自のBaaS(Banking as a Service)プラットフォームを通じて金融機能をAPI化。決済や口座を外部サービスに組み込み、エンベデッドファイナンス(非金融事業者のサービスに、決済、保険などの金融機能を組み込むこと)を推進した。新しい顧客接点と収益源を確立し、APIエコノミーの先行事例となった。

Uber

 配車サービスで培った地図、決済、メッセージなどの機能をAPIとして構築し、社内で再利用できる仕組みを整備。これにより新サービスの立ち上げスピードが大幅に向上。特に、ドライバーと乗客を結び付けるマッチングAPIを応用することで、Uber Eatsを迅速に展開できたことは、APIファーストの強みを示す代表的例。

DHL

 物流企業のDHLは、従来のEDI(Electronic Data Interchange)接続に加え、配送追跡や料金計算などの機能をAPIとして公開する「DHL API Developer Portal」を展開。これにより、パートナーやeコマース事業者がセルフで接続可能となり、連携スピードが大幅に向上しました。レガシー依存を減らしつつ新サービスの立ち上げを加速させ、物流業界におけるAPI活用の先駆的事例となっている。

United Airlines

 モバイルアプリケーションの刷新に当たり、予約、チェックイン、運航情報などの機能をAPIとして提供し、Webや空港端末とも共通化した。さらに「United Airlines API」や「United Developer Portal」を通じて、一部の機能を外部パートナー(旅行代理店など)にも公開し、エコシステム全体での活用を推進している。これによりオムニチャネルで一貫した顧客体験を実現し、新機能追加のスピードも向上。航空業界におけるAPI活用の代表的例。

Netflix

 配信、レコメンド、パーソナライズ機能をAPIとして社内で構築し、スマートフォン、スマートTV、ゲーム機など多様なデバイスから共通利用できる仕組みを整備。例えば、視聴履歴や行動データをAPIで連携させることで、レコメンド機能やサムネイル画像の自動最適化を実現。さらに、配信サーバやコンテンツ管理をAPI経由で統合することで、190カ国以上への拡張を可能にした。こうしたAPIを基盤とした設計が、Netflixのシームレスな視聴体験と競争力を支える重要な要素となっている。

 これらの事例は、APIが単なる技術的な“つなぎ”ではなく、企業が持つコアアセットを社内外に開放し、サービスの競争力の強化、新たなパートナーシップや収益機会を生み出すための戦略的チャネルであることを明確に示しています。

まとめ

 APIファーストのアプローチは、デジタル時代において企業が競争力を維持し、イノベーションを推進するための不可欠な要素です。APIをビジネス資産として捉え、その設計・開発・運用に戦略的に取り組むことで、開発スピードの向上、新たな技術トレンドへの対応、そしてビジネスモデルの変革とエコシステムの形成が可能になります。


 次回は、デジタルビジネスの基盤として拡大し続けるAPI環境において、企業が直面するAPI管理の具体的な課題と、その解決策としてのAPIガバナンスの重要性について掘り下げていきます。

筆者紹介

帆士 敏博(ほし としひろ)

マーケティングディレクター/Kong株式会社

2023年12月にKongへ入社。日本市場におけるマーケティング戦略の立案と実行を統括し、API管理基盤「Kong Konnect」を中心とした製品・ブランドの認知拡大に取り組む。これまで、HERE TechnologiesおよびF5 Networksにおいてマーケティング部門を率い、フィールドマーケティング、プロダクトマーケティング、ブランド戦略など幅広い領域を担当。また、キャリア初期には大手SIerにてネットワーク製品の検証業務に従事し、その後、大手商社向け在庫管理アプリケーションの開発にも携わるなど、エンジニアリングとビジネスの両視点からテクノロジー活用を推進。


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