「Windows」は、もしかすると、いま一番「変わろうとしているOS」かもしれません。クラウドが当たり前になり、AIが日常に入り込み、OSの存在感が薄れたように見える今の時代に、Windowsはどんな役割を担おうとしているのでしょうか? 連載初回となる今回は「Windowsの過去・現在・未来」を一気に見ていきましょう。
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みなさんはじめまして。胡田昌彦(えびすだ まさひこ)と申します。このたび、@ITで「Microsoft MVP胡田のWindowsダイアリー」を月1回のペースで連載させていただくことになりました。
本連載では、Windowsを中心にMicrosoftの製品やサービス、関連技術を取り上げ、「Microsoft Most Valuable Professionals」(Microsoft MVP)の視点で深く掘り下げて紹介していきます。具体的な設定やTips、新機能/新技術の話だけでなく、「なぜそうなっているのか?」「その背景にどんな時代の変化があるのか?」、そして「これから何が起きそうか」まで含め、Windowsという長寿OSを中心に、Microsoftの技術全般を楽しんでいきます。
Microsoftの製品やサービス、技術に関する高度な専門知識と経験を持ち、技術コミュニティーやメディアでその知見を積極的に共有した個人をMicrosoftが認定する世界的な表彰制度の受賞者。
今回の本題に入る前に、著者自身について少し説明しておきましょう。その方が読者の皆さんにも本連載を始めた背景が伝わると思います。
筆者は1979年生まれの現在46歳。小学校低学年から趣味で「BASIC」の(ゲーム)プログラミングを始め、高校入学時に購入したPC(DOS/V+Windows 3.1)からのヘビーWindowsユーザーです。
筑波大学の第3学群情報学類で情報科学を専攻し、2002年にSIer(システムインテグレーター)である日本ビジネスシステムズ(JBS)に入社。JBSでは主にインフラエンジニアとして大小さまざまなシステム構築を経験しました。今はAI(人工知能)関連の新サービスを開発する部署に所属しています。
2014年からMicrosoft MVPを10年以上連続受賞中で、初回受賞カテゴリーはWindows系でしたが、その後、データセンター管理系や「Microsoft Azure」系などに移り、今は「Windows Server」と「Azure Hybrid」で受賞しています。
ソフトウェアからオンプレミスシステム、クラウドまで幅広く扱えるのが筆者の強みですし、今はこれにAIの要素も加わってきています。なお、個人で「YouTube」のチャンネルも運営していますので興味のある方はそちらもよろしくお願いします。
そんなわけで、本連載は長年Microsoftの製品/サービスを利用し、仕事でも関わってきた人間が本音で書くものになる予定です。前置きが長くなってしまいました。本編に入っていきましょう。
Windowsの話をする上で、日本独自のPC(パーソナルコンピュータ)の歴史は避けて通れません。Windowsが普及する以前の日本のPC市場は、NECの「PC-9800」シリーズを中心に、富士通の「FM」シリーズやシャープの「X68000」シリーズなど、メーカーごとに強く閉じた世界を形成していました。これらは完成度の高いシステムでしたが、ハードウェア、OS、日本語表示の仕組みまでが密接に結び付いており、互換性よりも独自性が重視される時代でもありました。
この構造を大きく変えたのが「DOS/V」(ドスブイ)の登場でした。DOS/Vは、日本語表示やフォント処理をソフトウェアで実現することで、特定の日本語ハードウェアに依存しない環境を可能にしました。その結果、「IBM PC/AT互換機」という汎用(はんよう)的なハードウェアが、日本市場でも一気に現実的な選択肢になります。Windowsは、この「ハードウェアの自由度」をそのまま引き継ぎ、拡大させていきました。
メーカーやシステム構成を問わず動作するWindowsは、巨大なエコシステムを形成し、結果としてPCの価格低下と性能向上を同時に実現します。普及こそしませんでしたが、NECのPC-9800シリーズ向けの「Windows 95(PC-98版)」まで存在していたことがWindowsの思想をよく表しています(画面1)。
画面1 「Windows 95」のデスクトップ画面。1995年に登場したWindows 95は「スタートメニュー」という概念を導入し、以降のWindowsにおける操作体系の基礎を形成した。誰にでも分かりやすいGUI(グラフィカルユーザーインタフェース)を搭載したWindows 95は、DOS/Vハードウェアとの組み合わせで爆発的に普及したWindowsと並んで、Microsoftのビジネスを長年支えてきた存在が「Microsoft Office」(以下、Office)です。「Microsoft Word」「Microsoft Excel」「Microsoft PowerPoint」「Microsoft Outlook」など、Officeアプリケーションは個人利用だけでなく、企業の業務基盤として広く普及しました。特に企業向けライセンスは非常に収益性の高い、いわば「ドル箱」のビジネスとなりました。
一時期のMicrosoftは「WindowsとOfficeを売る会社」と言っても過言ではありませんでした。PCが売れればWindowsが売れ、企業にWindowsが入ればOfficeが売れる。非常に強力な循環構造です。
しかし現在、Microsoftは大きく変わりました。Officeは「Microsoft 365」としてクラウドサービス化され、買い切りのパッケージ製品から、サブスクリプション型の継続収益モデルへと移行しました(画面2)。
画面2 Webベースの「Microsoft 365」のメニュー画面。サブスクリプションモデルで提供される。OfficeのデスクトップアプリをWindowsにインストールすることも可能だが、ブラウザ上でOfficeのアプリ群を利用することも可能さらに「Microsoft Azure」を中心としたクラウドサービスや企業向けMicrosoft 365、CRM(顧客管理)とERP(基幹業務)の機能を統合したクラウド型ビジネスアプリケーション群「Dynamics 365」などが、売り上げと利益の両面で急速に存在感を高めています。Microsoftは既に「Windowsの会社」ではなく、「クラウドとサービスの会社」にシフトチェンジしているのです。
これはWindowsが軽視されているという話ではありません。ビジネスの重心が変わった結果、Windowsの役割もまた変化していく、ということです。
技術的に見れば、Windowsは既に成熟したOSです。かつて頻繁に話題になっていた不安定さや致命的なトラブルは、今ではほとんど見られなくなりました。
一方で「これ以上大きく変わらなくても困らない」と感じるユーザーが増えているのも事実です。古いPCでも十分に使え、「最新である必然性」が薄れているのは、成熟したOSならではの特徴とも言えるでしょう。
同時に、私たちのコンピューティング環境そのものも大きく変わりました。スマートフォンの普及、クラウドサービスの拡大により、多くの価値はデバイスの中ではなく、クラウドで提供されるようになっています。
利用形態はブラウザ経由のものもあれば、専用アプリケーションとして提供されるものもありますが、本質は同じです。デバイスはサービスにアクセスするための入り口となり、ユーザーが意識する対象は「どのOSを使っているか」よりも、「どのサービスを使っているか」へと移行しています。
スマートフォンを機種変更する際、「iPhone」から「Android」にする人もいます。これはデバイスもOSさえも乗り換えているという非常に大きな変化です。どのスマートフォンでも、いつも通りに「X」を、「LinkedIn」を、「LINE」を使い続けることができます。つまり、同じアプリケーションやサービスを継続利用できるわけです。既にOS自体を気にしている人はかなり少なくなっているはずです。
この流れの中で、Windowsを含むデスクトップOSの存在感は、相対的なものになりつつあります。かつては「OS上でアプリケーションを起動し、その中で作業が完結する」ことが当たり前でした。かつては「レジストリの変更」「設定のチューニング」が快適に使うための必須テクニックとして語られた時代もありました。
しかし現在、多くのユーザーにとって重要なのは、OSを深く理解することではなく、「目的の作業がスムーズにできるかどうか」になりました。Windowsには、開発環境の構築、業務用の専用アプリケーション、複数ディスプレイを前提とした作業環境など、今なお強みを発揮する領域があります。
ですが、日常的な情報整理や文書作成、調べ物といった作業は「Windowsでなければならない理由」は以前ほど強くありません。これは「衰退」ではなく、「役割の変化」です。
こうした中で、MicrosoftはWindowsに「Copilot」を標準搭載し、Windowsを「AI入り」に変化させようとしています。さらに、PCのカテゴリーとしても「Copilot+ PC」という新しい方向性を提示しています。
Copilot+ PCは、ローカルAIを活用することで、Windowsに新たな価値を与えようとする試みです。現時点ではまだ過渡期であり、対応アプリケーションやエコシステムも発展途上ですが、「WindowsをAI時代の基盤として再定義しよう」という意図は明確に感じられます。
将来的には、Windowsが「人間が一つ一つ操作するOS」から、「AIエージェントが裏側で動作する基盤」へと役割を変えていく可能性もあります。
これまでは、人間が作業するための“アプリケーションの土台”としてWindowsがありました。これからは、既存のWindowsアプリケーション資産をAIが理解し、活用するための土台として、Windowsが変化していく可能性は十分にあります(画面3)。
ここまで読むと、Windowsが厳しい状況に置かれているように感じるかもしれません。しかし筆者は、むしろ今はとても面白い時期だと感じています。
Windowsは完成されたOSであると同時に、AIやクラウドと結び付くことで、再び役割を変えようとしています。長年積み重ねてきた資産があるからこそ、その変化には試行錯誤があり、そこに新しい可能性が生まれます。Windowsはこれからも変化し続けます。その過程を観察し、実際に触れ、考えられる今は、技術好きにとってとても面白い時代です。
本連載では、こうした視点をベースにしつつ、具体的な新機能や設定、現場での活用例なども織り交ぜていきます。時には思想寄りに、時には実務寄りに、そんな振れ幅も楽しんでいただければと思います。Windowsという長寿OSの「今」を、一緒に楽しんでいきましょう!
日本ビジネスシステムズ株式会社に勤務。幼少期からコンピュータ大好きで使用歴は40年以上。インフラからクラウド、アプリケーション、生成AIまで幅広く取り組み中。2014年からMicrosoft MVPアワードを連続受賞中。Windows、Windows Server、Microsoft Azure、Microsoft 365など、Microsoftソリューションを中心に情報発信中。YouTuberとしても活動中(https://www.youtube.com/@ebibibi)。
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